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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百七十三話 信頼が生んだ作戦

遠くでショッピングモールを支えてくれているイタカに念を送る。


『どうした?』


『頼みたいことがあるんだ。』


再び陀金に強力な一撃を放つためにはイタカの協力が必要不可欠だ。

全員が同意してくれた作戦の内容を伝える。


『・・いいだろう。だが室内の崩壊を防ぐ補強は一時的にできなくなるぞ?』


『いいよ。何も得られないよりかはましだ。』


この戦いで陀金を仕留めらずに負けてしまえば奴はここを破壊して街に出てしまう。

例え三道省の高官達が集まったとしても、純恋さえ止められない彼らが陀金を倒せるとは思えない。

一般人が避難しているとはいえ被害は甚大。

そう考えれば仮にここが崩壊したとしても奴を倒すことこそが

被害を最小限に押さえることに繋がるだろう。


『ハスター様の力を徐々に使いこなせているな。

俺も役目を果たさなければ何を言われるか分からん。それに・・・』


辺りの温度が急激に下がっていくと吐く息が白く染まっていく。


『敵対する神であるクトゥルフの配下を前に私が何もしなかったなんて話しが広まれば

部下に合わせる顔が無い。ここはしっかりと結果を残させてもらうぞ。』


そしてショッピングモール内を肌に刺さるように冷気が流れていくと

風上から鋭い氷塊が陀金に向けて飛んでいく。

白い風を操る神としての力を発揮した一撃は五頭龍や火嶽達の体をすり抜け、

固い鱗を貫いて体に突き刺さった。

大きな氷塊は真正面から奴を貫き、背中から穂先が見えてしまっている。

内臓ごと貫く一撃は奴とっても痛手だろう。これであれば少しは聞くはずと奴の様子を伺うが、

あれだけの一撃を喰らったのにも関わらず冷静に氷塊を握りゆっくりと体から引き抜いていく。

体にぽっかりと空いた大穴からは赤い鮮血が滴っているが、

辺りに漂う白い冷気が赤い血の動きを止めて凍らせていった。


「今だ!追撃を叩き込め!!」


凍らせられた鮮血は一時的に魔力操作を失い、傷穴が再生する気配を見せない。

それを見た青さんがすぐさま指示を出すと火嶽や綱秀、伊達さんやちーさんも加わり攻め立てていく。


「火嶽、あの傷に炎を打ち込むでないぞ。」


冷気のおかげで固まっているが、

少しでも熱が加わり液体に戻れば陀金の魔力操作の支配下に置かれ再生されるだろう。

俺もケライノー動かし、傷口へ細心の注意を向けながら攻撃を加えていった。

陀金も無抵抗のまま俺達の攻撃をただ受けているわけなく、

目の前から迫る五頭龍の攻撃をいなしながら傷口に手を突っ込む。

突然の自傷行為に何をしているのかと一瞬思考が固まるが、

広げられた傷口から鮮血が滴ると傷口が再生していく姿を見て急いでケライノーを向かわせた。


「自らの能力を理解した上での自傷行為。冷静さを保った陀金は厄介ですね。」


「ええ。ですがこれで奴の回復を阻む手段が分かりました。」


最初の戦いで謙太郎さんが放った青い炎。

あの時は回復の魔術を使っていないだけと思っていたが、

傷口が焼けていたので回復できなかったのかもしれないとイタカに頼み傷口を凍らせてもらった。


「これを俺の炎でやれという事だな?」


「いえ、謙太郎さんとはいえあの巨体を全て燃やそうとすれば

命を削って魔力を使わないと難しいかと。」


それが出来れば一番いいのだが、あの時の青い炎を一撃はかなりの魔力を消費したはず。

あの巨体を芯の芯、全てを燃やしつく必要がありそれは準備してもらっている純恋の役目。


「この先何が起こるか分からない。こういう言いかたはあまり良くないですが・・・

謙太郎さんにはあくまで繋ぎの役目をしていただきます。

なので先ほど伝えた所定の位置へ移動をお願いします。」


その火力の高さから戦力の核として扱われてきた謙太郎さんに繋ぎの役目の任を与えるのは

プライドが傷つくかもしれないと思ったが、俺の指示を聞いた謙太郎さんは

不平不満を一言も言わずに分かったと頷いて素直に移動してくれる。


「・・優しいのですね。」


イタカが加わり、流れがこちらに傾き始めている戦場を眺めていると

隣に立つ千夏さんが語りかけてくる。


「何がですか?」


「これだけ強い相手を前にしても、仲間一人一人を大切に扱う姿勢が素晴らしい。

綱秀君の時もそうでしたが誰一人として失いたくないという気持ちが伝わってきます。」


「・・余力を残してこそ完璧な勝利。余力とは俺が力を残して勝ち残ることではありません。

謙太郎さんも綱秀も、みんなが余力を残さなければ次の戦いに望めませんからね。」


ここにいる全員を生きて返さなければならない。それが部隊を率いる長の役目。

先ほどまでは情報がある有効な手札を切って勝つことだけを考えていたが

綱秀のように実力を隠している者や広い戦場を生かすことが頭から抜けており、

ここにはいないイタカに遠距離からの攻撃をしてもらうことで

陀金はより警戒する所を増やさなければならなくなっている。

風から流れてくる氷塊は四方八方から陀金目掛けて飛んできており、警戒を強めた奴は腕を振るう。

体に届かないものの火嶽や綱秀達の気を逸らすには十分であり、炎や五頭龍で押し込んでいく。


『奴はこの状況を何とかしようと強力な一撃を放ってくると思われます。

青さん、辺りに警戒を強めるように指示をお願いします。』


抑え込まれているこのマズイ状況を一番分かっているのは陀金本人。

どうにか打開するにはさらなる一手を使ってくるのは目に見えている。

桃子に指示を出して神融和をしてもらうと、体に纏ったガシャドクロで俺達を守ってくれた。

遠く離れた位置にいるが、奴は視界に俺達を捕えている。

そして指示を出している俺達を狙ってくることも考えられ、

一度力を失った千夏さんは対応することが出来ずにやられてしまう可能性も十分にある

仲間を遠くに配置したことによるメリットとデメリット。

それらを可能な限り丁寧に対応していくことこそが完璧な勝利への一番の近道と言えるだろう。


「来るぞ!!!」


俺の予想通り、奴は雄たけびをあげると鱗の隙間から黒い海水が流れ出し自らの体へと纏っていく。

通常の海水とは色が異なるまるでヘドロのような海水は宇宙の神が扱う

陰の力をまとった海水なのだろう。

この海水に触れてしまえば体に何が起こるか分からないと全体にすぐに離れるように指示を出す。

それを見た陀金は安堵の表情を浮かべて体の再生をするが、

離れていく青さんや綱秀達の中、ただ一人だけ突っ込んでいく影。


「ケライノー、頼むぞ。」


同じ宇宙の力で作り上げられたケライノーであればあの海水に触れても大丈夫だろう。

一番初めに眠っていた陀金の顔面を傷つけた一撃と同じように体を回転させて突っ込んでいくが

今回狙う先は奴の腹。

白い冷気を全く感じさせずに液体を保っている海水に突っ込み、

何も影響受けることなく海水を弾き鱗を削り取っていく。

誰も触れてこないだろうと油断していた陀金の対応は完全に遅れており、

ケライノーの鋭い爪は回復していた奴の腹に穴を開けていった。

真正面からの不意打ちを見て驚きながらもすぐさま体を再生させていく。

追撃のチャンスではあるが青さん達が決して近づこうとしない。

それはこれから起こることを全員が青さん伝手に把握しており、

巻き込まれないようにあえて距離を取っていた。


「さあ・・ここまでは予想以上だぞ・・・。」


はっきり言ってここまでイタカの力が陀金に通用するなんて思ってもいなかった。

あくまでこれからの前座に過ぎなかったが・・・俺の心に一抹の不安が生まれる。


「うまく・・行きすぎちゃうか・・・?」


隣に立つ桃子が俺の不安を代弁する様に呟く。

ハイドラとの戦いは俺がハスターの力を引き出すまで苦戦を強いられていた。

だが俺が戦いを望んでいた陀金との戦いはあまりにもこちらが押しており、

しかもハイドラに唯一通用した俺の手があまり加わっていない。


「・・いや、このまま押し込もう。何か起きた時に対処できるように警戒を続けてくれ。」


迷いある行動、思考は作戦に支障を生む。

皆の実力を俺が信じ切れていなかったなのかもしれないと結論付け、

無駄な警戒はせずにこのまま突き進むことを決める。

この行動が全て俺達を釣るように仕組まれていたのだとしても全員で対処すればいい。

今はこの優位な状況を手放すわけにはいかない。

再び飛んできたイタカの氷塊は陀金の体に突き刺さろうと勢く向かっていくが、

流石に黙って受けているわけにはいかないと水を見に纏いながら腕を振り回す。

だが突き刺さっているケライノーに対応できずにまき散らしている肉片には濃い血が混ざっている。

ケライノーには自身の回復魔術で対応し、イタカの攻撃が終われば叩き潰す気なのだろう。


「これで奴は大量の魔力を消費しました。反応が変わってくれれば・・・。」


俺達の作戦。それはシンプルそのものであり戦場を広く取って手数を増やし奴の魔力消費を増やすこと。

戦場を広く取るデメリットとして戦力が落ちるが綱秀達の踏ん張りを見て決断することが出来た。

結果として俺が立てた作戦以上の成果が目の前に広がっているが

これだけでは純恋に引き渡せるほどの状態ではない。


『イタカ。いけそうか?』


純恋に引き渡す作戦の最終段階、その鍵をになっている謙太郎さんの様子を確認すると

すぐさま返事が返ってくる。


『行ける。このまま放つぞ。』


イタカが返事をすると再び氷塊が襲い掛かり手を振るった瞬間、陀金の体が眩い光に包まれた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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