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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百七十一話 決意を胸に秘めた新戦力

「俺の本来の姿です。」


こちらに背を向けながら語る火嶽。


「俺は・・・人間と不死鳥とのハイブリット。

胸のペンダントに付いている石で力を抑えていますが、これが・・・俺なんです。」


自身の事を説明してくれている火嶽の声色が徐々に小さくなっていく。

俺達と共についてくることを悩んでいた理由が明らかになり、

おそらく火嶽はこの姿を見せたくなったのだろう。何故見せたくなかったのか。

それを正確に把握することはできないが普通の人間ではない自身に向けられる視線など、

過去に悲しい事が起きたのかもしれない。


「・・火嶽!!」


無理やりこちらを向かせるのはさすがに酷だと、大きな声を火嶽の背中にぶつけるように呼び掛ける。


「・・・・・なんでしょう。」


俺の声に驚いたのか少しだけ体が反応するが、少し間を置いて返事をくれた。


「お前しかいない!頼んだぞ!!」


俺達は今の姿の火嶽に何も思わない。どんな姿であっても火嶽は火嶽だ。

いつも通りに背中を押してあげるのが俺に唯一出来ることだろう。


「・・了解。」


背中に声を受けた火嶽は小さく呟くがその声色ははっきりとしており、力強く俺の声援に答える。

そして翼を大きく羽ばたかせ陀金の元へ飛びたった。

この大きなショッピングモールを破壊する勢いで暴れまわる陀金は

近づいてくる火嶽に気が付くと勢いのまま腕を振り下ろす。

壁や柱をいとも簡単に引き裂く鋭い爪を前にしても回避行動を取ろうとしない。

危ないと叫ぼうとしてその時、千夏さんが俺の口の前に手を伸ばしてきた。


「冷静に。私達には役目があるはずです。それに・・龍穂君は彼の事を見くびり過ぎですよ?」


振り下ろされた爪は炎の体を引き裂く。

翼どころか体が引き裂かれこれでは無事では済まないだろう。

その姿をみた陀金はこんなものかと視線を外し、先にいる俺達を見て足を動かそうとする。

得物を構える俺達を睨む陀金の眼前に、突然生まれた炎が丸々とした大きな眼球に襲い掛かった。


「そんなんで俺を倒したつもりか?」


魚のように大きな目が高温に襲われた陀金は大きな悲鳴を上げて顔を逸らし、

火を振り払おうと眼前を振り払う。

手の風圧にバラバラになった炎だが、陀金の行く手を阻むように集まると

不死鳥の体を持った火嶽が姿を現した。


「どれだけ鋭い一撃でも炎を引き裂くことはできない。

炎に対する有効策を持っていない相手であれば、火嶽君は負けないでしょう。」


炎を身にまとっているのではなく炎そのもの。ゆえに斬撃、打撃の類は体を引き裂くことは不可能。

火嶽は早急に目を再生させている陀金に近づきその周りを飛び回る。

強烈な一撃を喰らってしまい、露骨に嫌がっている陀金は

涙を流しながら火嶽を振り払おうと暴れはじめた。


「すごいな・・・。」


「陀金の再生能力を前に火嶽君の攻撃はあまり効果が無いでしょうが、それは奴にとっても同様。

時間稼ぎに最も長けている人材なのですよ。」


千夏さんは戦っている火嶽の姿を見ながら語る。

多くの時間を過ごしてきた俺達にすら見せなかったあの姿をどうして知っているのか気になるが、

今はそんなことを聞いている場合ではない。

火嶽が時間を作っている間に純恋達のために陀金の弱点を見つけなければ。

だがそのためにはどうすればいいか分からず、何もできないでいると離れることなく

炎の嫌がらせを受けている陀金が動きを見せる。

頑なに水を使わなかったがイラつきが頂点に達したのか、

飛び回る火嶽に向けて口から大量の水を放った。


「対応してきましたね。」


体が炎で出来ている火嶽にとって当然水は弱点であり、

今まで体の近くを飛んでいたがあからさまに距離を取って身を守る。

そして鼻に入ってきた塩っ辛い匂い。やはり奴は海水を体に貯めていた様だ。

弱点である水を使われては火嶽の行動に制限がかかる。

出来れば加勢したいところだが、俺が直接行って激しく消耗してしまえば意味が無い。


「・・青さん。頼めますか?」


空を飛べ、知識が豊富な青さんに加勢をお願いする。

強い水を扱うことが出来る陀金の前では実力を発揮できないかもしれないが

火嶽をカバーすることはできるだろう。


「分かった。出よう。」


青さんは文句ひとつなく、体から飛び出すと火嶽の元へ飛び立っていく。


「黒いケライノー。」


そして弱点を見つけるため、再びケライノーを作り上げて二人の元へ加勢させた。

火嶽に加戦した三人は陀金体の周りを飛び、の一撃や水を避けながら隙を突いて攻撃を仕掛ける。

火、風、斬撃。大振りの一撃の隙に急所を突くが、

叫び声は上げるもののすぐに再生してしまい弱点は見えてこない。


(時間は稼げているけど・・・。)


このまま謙太郎さんに青い炎を放ってもらっても同じように再生されるだけだ。


「・・龍穂。」


打開策が浮かばずにどうしたらいいのものかと悩んでいると綱秀が声をかけてきた。


「あのまま小競り合いをやらせる気か?」


「いや、それはしないつもり・・だけど・・・。」


出せる手札が無い。何もできずに歯がゆい気持ちで綱秀に答えていると力強い手で肩を叩かれる。


「俺を使え。」


何を言い出すのかと綱秀の方を振り向くと、力強い瞳で俺の眼をじっと見つめてくる。


「お前・・・。」


飛び回ってちょっかいを出すだけでは何も変わらないことは分かっている。

だがあの巨人を真正面からまとも戦えるだけの力を持っている者はいない。


「龍穂達にはこの先の戦いが待っている。

だが涼音が戦線離脱し、守る奴がいなくなった俺なら力を使い果たしても大丈夫なはずだ。」


「・・それは綱秀が無事で帰ってくる前提の話しだ。

アイツの強力な一撃を一度も受けずに戻ってこられる保証もないんだぞ。」


誰も失わない事がこの戦いの勝利の最低条件。

その条件から大きく逸れるような行動はさすがに許可できない。


「行かせてやれ。」


綱秀の申し出を拒んでいると謙太郎さんが口を開く。


「いえ、それは——————。」


「涼音に守ってもらったのにここに残って何もできずにいる自分が許せないんだよ。

綱秀の実力を上げている。倒せはしないだろうが何か見つけられるはずだ。」


謙太郎さんは綱秀の背中を押す。

共に苦しい学校生活を歩んできて上に涼音を守ると言い放った綱秀だが、

その涼音に助けてもらっている現状に情けないと思っていたのだろう。


「・・いいでしょう。ですが一人では行かせられません。」


朝の鍛錬などで綱秀の実力はよく知っている。

どんな相手でも決して命を落とすことなく帰ってくることは出来るだろうが、

一人で向かわせるのはさすがに危険すぎる。


「伊達さん、ゆーさん。お願いできますか?」


「俺か。分かった。」


「いいよ~。」


綱秀の身に危険が迫っても冷静に対処できる伊達さんと影渡りを完璧に扱えるゆーさん。

最低でもこの二人を連れて行ってもらわないとこちらとしても安心して送り出せることは出来なかった。


「・・ありがとな。」


選抜したメンバーと陀金と戦うため、影に沈んでいく綱秀が俺に向けて感謝の言葉を伝えてくる。


「その言葉は無事に帰ってきてからだ。涼音に胸張って自慢できるように頑張ってこい。」


火嶽の時もそうだったが俺には応援する事しかできない。これが部隊を率いる長の苦しい所なのだろう。

火嶽や青さんを追い払うために暴れている陀金の近くに出るのはあまりに危険だろうと、

離れた位置での出現を予想し下に目を向ける。


「なっ・・・・!?」


だが影渡りを使うゆーさんが選択したのは陀金のすぐ目の前。

大きな影から綱秀達が出てくるが下手をすれば踏みつぶされてしまう位置だ。


「綱秀、アンタが選んだからね。しっかり頼むよ~?」


もっと慎重に行くべきところなのに何を焦っているのか。

思わず声を出して止めたいところだったが、背中を押して送り出したためじっとこらえて

綱秀達の動きを見つめる。


「分かっています。」


「落ち着けよ。”お前達”ならできるぞ。」


伊達さんとゆーさんの手には得物が握られているが綱秀の手にはいつもの槍も姿は無く、

その代わりに一枚札が握られていた。


「いくぞ・・・・!」


暴れる陀金を目の前に札に神力を込めて手を離す。

重力に逆らうことなくひらひらと宙を舞っていた札がヒビの入った床に付くと、

大量の煙が綱秀達を隠した。目の前が煙で覆われ視界を遮られた陀金は動揺し動きを止める。

そして煙の中に現れた自らと同等の巨大な影を見て腕を振り上げた。

煙の中に現れた影にそのまま振り下ろされるかと思ったが、影から伸びた無数の何かが

陀金の手首や腕、体に噛みつき攻撃を受け止める。


「やるぞ・・・ゴズ!!」


徐々に晴れてきた煙の中から合われたのは五つに別れた首を持つ大きな龍。

江ノ島で出会った五頭龍が陀金に襲い掛かっていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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