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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第一幕 忘れられた二人
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第十七話 親父と切り抜かれた記憶

会いに行こうとしていた親父が目の前立っており俺達を止めた後、大きなため息をついている。


「景定さん・・・。」


「楓、もういいんだ。気を使ってくれて感謝する。」


楓に向かって謝っている親父は辺りを見渡した後、俺を見つめてきた。


「こちらに来ていたのに連絡を入れずに済まない。

皇族のみで行われるパーティーを指揮するために仕事で来ていた。」


「親父・・・。あの子、純恋は何者なんだ?」


前置きなどは一切入れず親父に疑問をぶつける。


「・・・まだか。」


「・・・・?」


「いや、こちらの話だ。

あの子は皇の姉のお孫さんに当たる人物で

護衛を務める友人と共にパーティーを抜け出しこちらへ来ていた。

皇がそれに気づき、俺に探してくるように指示を出され護衛から連絡を受けここへ来たんだ。」


「・・・そうなんだ。」


「皇への奉仕はいつ終わるか予想できない。

言い訳になるかもしれないが仕事が終わり次第、龍穂に連絡を入れ会おうと思っていた。」


皇に使える親父は仕事の都合で帰りが遅くなることはしょっちゅうあり、

連絡が取れないなんて日常茶飯事であったことから連絡が無かったことに対して

俺は微塵も怒りが湧いてくることはなかった。


「・・なあ、親父。純恋は・・・俺達と何か関係があるのか?」


気になるのは純恋が俺達に見せた怒り。あれが何を意味しているのか。

皇直々に指名されるということは純恋の事を良く知り、信頼されているという事だろう。

そんな親父なら怒りの意味を知っているはずだ。


「・・覚えていないのも無理はない。龍穂はかなり小さかったからな。」


一呼吸置き、俺の問いに答え始める。


「彼女は二条純恋。二条家と八海上杉家はかなり親しい間柄であり、

何十年も前になるがよく八海に遊びに来ていた。龍穂とは毎日ように遊んでいたんだぞ?」


そうか・・・。その時の記憶を忘れていなかったのであれば

仲が良かったはずの俺の反応を見て・・・・。


(・・いや、俺の名前を聞いた瞬間に睨みつけられた。

もし昔の事を覚えていなかったことが理由が怒っていたのならその反応はおかしい。)


俺が覚えていないほど小さな頃の記憶であれば顔や姿は大きく変化をしており、

変わっていない名前を出して覚えているのを確認するはずだ。


「親父。今日の事なんだけど・・・。」


怒りの真相を突き止めるため、親父に今日の出来事を素直に話す。


その傍ら隣にいる何かを隠している楓の反応を観察するが話している俺ではなく

親父の方をじっと見つめており親父の出方を伺っているように見えた。


「・・・・・俺に心当たりはない。

怒っている理由を聞きたいのであれば次にあった時に直接聞くしかないな。」


知らない・・・か。


(皇族に縁がある子供から目を離すなんてことを親父がするとは思えないけどな・・・)


何かを隠しているのだとしてもそれを引き出せるような材料を持っていない。

ここは大人しく引くしか・・・・。


「今、聞いたらええんちゃうか?」


親父の後ろから声がする。

その声は俺が求めている答えを知っている人物のものだとすぐに分かり、

親父は素早く反応しすぐに振り返る。


「純恋ちゃん・・。帰ったんじゃ・・・。」


「桃子から携帯充電器を借りてな。

電話をしてじいちゃんと父ちゃんからまだいていいと許可はもらったで。

その代わり、あんたと一緒に行動する条件付きやけどな。」


後ろに手を組みながら噛みしめるようにゆっくりとこちらへ歩いてくる純恋。

その堂々とした歩みはまるで大型の猛獣が追い込んだ得物に止めを刺すかのような

風格を醸し出していた。


「自由を求めてあの窮屈な所から飛び出していた訳やけど

本来足枷になるはずの条件は今回だけは私にとって都合がいい。」


「・・・・・。」


親父は警戒し、楓は体に仕込んでいた暗器を取りだし構えようとしている。


その危険地帯へ足を踏み入れようとしている純恋を守る護衛の友達の腰には

いつの間にか刀が帯びており左手で鞘の根元を持ち、わざとらしく鯉口を切っている。


一触即発のこの状況を生み出したのは純恋だが

先程親父は二条家とはかなり親しい間柄と言っていた前提を大きく覆すようなこの状況に

俺の頭を追いついておらず、あまりの緊張感に唾を飲みこんでただ眺めることしかできなかった。


「あかんで桃子。喧嘩を売りに来たわけやない。

・・いや、売りに来たのかもしれへんけど楽しみは取っておくべきや。」


飼い主の一言に、鬼は大人しく刀を戻す。

喧嘩を売りに来た?一体何をする気だ?


「さて・・、色々聞かれる前に改めて自己紹介をさせてもらうわ。」


そう言うと純恋は今までの強気な関西弁とは違う華族らしい丁寧な挨拶を始める。


「姓を二条いせ、名を純恋すみれと申します。

お久しぶりに顔を拝見しましたが、依然と変わらず元気で

いらっしゃることを大変うれしく感じております。」


スカートの裾を軽く持ち上げ、

足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ背筋は伸ばしたままの挨拶。


親父に連れていかれた社交ダンスで見た西洋式の挨拶。

ぎこちなさを全く感じさせない綺麗で丁寧な挨拶は生まれの良さを感じさせた。


「・・・ふふん♪」


挨拶を終えた後、足を広げて腕を組み鼻を鳴らしながら自慢げに俺の方を見てくる。


どうだと言わんばかりのその佇まいは俺に何かを自慢している様だった。


「・・台無しやで?純恋。」


それを見ていた隣にいる友達はため息をつきながら突っ込みを入れている。

確かにあれだけ綺麗に挨拶をしてくれた後の落差を感じるあの態度は

こちらとしても突っ込みを入れたかったところだ。


「別にええやん!ほら!次は桃子の番やで。」


突っ込みたいして恥ずかしさを話しを逸らすように友達にも挨拶をしろと催促する。

それに応えるため、友達も足を揃え口上を述べ始めた。


「二条家に仕えております、伊勢桃子いせとうこと申します。

主人の純恋からは龍穂様と楓様のお話はよく聞かせていただきました。

皇室の集まりで東京に来ておりましたが、偶然にもこうしてお会いできたを嬉しく感じております。

これも何かの縁、主人共々以前の様に仲良くしていただけるとありがたく存じます。」


長身で綺麗な長い黒髪の女性は手をお腹の位置で重ね、頭を下げてくる。

主人である純恋に負けないほど丁寧な立ち振る舞いはまさに男装の麗人と言ったところだろうか。


「あ、そっちの挨拶はええで。

桃子も言った通り、二人の事はよく話していたからな。んじゃ、本題に入らせてもらうで。」


そう言うと純恋は俺の前に来ようと堂々と歩いてくる。

楓は座ったまま暗器を構えるが持っている手を抑え、控えさせる。


「私に聞きたいことってなんや?」


俺に前にたどり着き、手を腰へ当てて体を前傾させて俺の顔をじっと見つめ尋ねてきた。

楓に控えさせたのはこの質問が飛んでくると分かっていたからであり

それは俺も望んでいたことだ。


「・・失礼を承知で尋ねさせてもらうが、なんで俺達に対して怒っていたんだ?

本当に申し訳ないんだけど、俺は小さい頃、八海で純恋と遊んだ時の記憶を覚えていない。

その時のことが原因で怒っていたのなら謝りたいんだ。」


この謎を解けば楓が何を隠そうとしていたか見えてくるはず。

それに無礼があったのなら謝りたいし、覚えていない記憶を思い出せるかもしれない。


「・・・やっぱり覚えてへんのやな。」


俺の頼みを聞いた純恋は体を引き、手を後ろに引きながら後ろを向いて空を見始めた。


「・・私は別にあんたに謝ってほしいわけじゃない。”答え”が欲しかっただけや。」


「答え?」


「そう。小学校一年生ぐらいやな。

龍穂が忘れたと言っている時にした約束の答えを聞きたい。

次会う時に聞かせてもらうって言っていたんやけどなぁ・・・・」


懐かしむように空を仰ぐ純恋。その時の記憶を思い返しながら話してくれているのだろう。


「・・・ごめん。」


「言ったやろ?謝ることはないって。私もその時の記憶を”取り戻す”のに時間がかかった。

勇気を出して聞いて、ずっと答えを待っていたからまさか近くにいた男が龍穂だと気付いた時は

思わず怒ってしまったけど、冷静になって考えれば当然の反応や。龍穂は悪くない。」


吹っ切れたように大きく息を吐いた後、笑顔で振り向いてくる。


日が傾き、茜色の空を背景に怒っていたことを忘れさせるような

満点の可愛らしい笑顔はまさに絵になるような美しいものだった。


「やけど、それが分かった事で真にむかつく奴が見つかったわけや。」


笑顔はそのままに声が低くなり、重苦しい雰囲気を出しながら親父の方を向く。


前に見せた怒気に似たようなオーラを身にまとっているが

荒々しいものでは無く、研ぎ澄まされた刃のような鋭いオーラ。これが殺気と言われるものなのだろう。


「あんたやな。私と龍穂を遠ざけ、記憶を取り戻させないように立ち回ったのは。」


眼を薄く開き、冷たい笑顔のまま親父に指をさす。


「・・・・・・」


親父は何もしゃべらない。


「私の予想やと、奪った張本人はあんたや無い。

やけどな、わざわざそう立ち回っている事自体に私は腹が立っている。

そんなことをしなければ、桃子や私は・・・」


口を動かしながら一歩ずつ親父に詰め寄っていく。

まずいと判断した楓が俺の静止を振り切るため体に魔力を込めだすが

それに反応した桃子が長い脚で間合いを詰め切っており、

抜いた刀の刃を首元に沿わせ動きを止めていた。


親父の額に向けられた指さきには小さな炎の塊が生まれており

無詠唱の魔術を使っていることが見て取れる。


小さな炎だが込められている魔力の質は俺が使う魔術を優に超えており、

恐ろしく高い魔道の実力があることを示していた。


「・・・・・・・・」


放てば親父の頭は簡単に消し炭になるだろう。

このような状況に陥っても、親父は顔色一つ変えずただただ純恋を見つめている。


「・・桃子を引き留めておいて私が手を出すのは違うな。」


自らの諫めるような一言をつぶやいた後、手を降ろし唱えていた魔術も解く。


「桃子、ありがとう。こっちへ戻ってきて。」


純恋の鶴の一声で、桃子は刀を鞘に戻し元の位置へ戻っていく。


「あんた、まだ隠していることがあるな?」


魔術を引っ込めたが指はまだ親父の方へ向いている。


「・・・・・・」


「だんまりか。多分、楓が焦っていたのはそれが原因なんやろうな。

どうやって記憶を封印したのかわからへんけど明らかにまだ抜け落ちてる記憶がある。

龍穂に会えば、何かわかると思っていたけど・・・。」


親父に向けていた指を俺の方へ向け、デコピンで額を弾いた。


「痛っ!」


「この通りや。なんも変わらへんかった。」


今まで表情を変えなかった親父の顔ががらりと変わっていく。


「・・今日ここに龍穂がいることをなぜ知っている?」


眉間にしわが寄り、純恋を睨みつける親父からは歴戦の戦士のような殺気が放たれている。

だが純恋は何も感じることなく余裕の表情を保っている。


「じいちゃんから教えてもらったで?今日ここに行けばいい出会いがあるかもって。

出ていくのなら止めはしないけど、自己責任で行けって言われたわ。」


怖気づくどころかバカにするような笑顔を浮かべながら煽るように説明をしている純恋。


「なんで知ってたんやろうなぁ?私も分らへんけど、龍穂と私が会う事を望んだみたいやな。」


お前らが必死で遠ざけようとしていたけど全部無駄だったね。

しかもその仕向けたのはアンタが使える主人だよ。純恋の言葉が俺にはそう聞こえた。


「・・・本当に皇がそう言ったんだな?」


煽られた親父は殺気を抑えることはせずに、事実確認を行う。


「ああ、そうやで♪」


止めと言わんばかりに純恋はご機嫌な顔で答えた。


「・・・・・・・・・・」


返答を聞いた親父は言葉を発さずに携帯を取りだしどこかへ連絡を取り始める。


「・・俺だ。・・・・ああ。」


この状況で誰に連絡を取っているのだろうか?気になるが楓は関係ないと余裕な表情は崩さない。


「・・・・・・そうか。お前がそう判断したなら何も言わない。

だがな、さすがに小娘共は調子に乗りすぎた。少しお灸をすえる必要がある。」


脅しの言葉を強めに強調する親父。


「・・いや、これ以上は舐められる訳にはいかない。

これは俺の威厳を保つわけじゃなく、龍穂のためだ。

・・・・・・ああ。あと、尻拭いはお前がやれ。全部俺に押し付けた罰だ。

お前もお灸を据えられたくなかったら大人しくやるんだな。」


純恋達に向けられたはずの口調はなぜか電話相手に移っていき、

最後はイラつきをぶつけるように言葉を吐きすて電話を切った。


「・・おい、小娘。お前、自分の記憶を取り戻したいんだよな?」


イラつきが頂点に達した親父の言葉遣いは格下に使うような

気遣いを全く感じさせないものへと変わる。


「・・・ああ、そうや。」


劇的な変化に一瞬言葉が詰まるがすぐに立て直し強気に立ち向かう。


「取引をしようか。

もし今から俺が言う事を叶えられたのなら、記憶を取り戻すヒントを教えてやろう。

出来なければ俺が望むことを一つ叶えてもらう。」


持ちかけたのは取引。

俺と言うあてが外れた純恋に取って喉から手が出るほど欲しい情報だろう。


「・・ヒントなんてケチくさいな。そんなもんじゃ私は釣れへんで。」


「強気だな。現状、俺からの情報だけがお前が真実へとたどり着く唯一の手掛かりだ。」


スーツの内ポケットから煙草を取り出し周りの目を気にすることなく火を着け口から煙を吐く。

もちろんここは禁煙だ。未成年が近くにいるにも関わらず堂々とした立ち振る舞いは

いつもなら見せない側面であり、相当頭に血が上っているのが感じ取れた。


「別にいいんだぞ?これを逃したらまた自力で探すことになるだけだ。

いくら皇に頼んだとしても俺は絶対に口を割ることはしない。

これが最後のチャンスになるが・・・やるか?」


一気に劣勢に落ちいった純恋は俯くことしかできない。


「・・・何をすればええんや?」


記憶を求めてここまで来た純恋に断る選択肢は残されていなかった。


親父は煙草を大きく吸い、それに向けて煙を吐いてから純恋に言い放つ。


「・・・龍穂と戦い勝利する。これが条件だ。」


親父の言葉にその場にいた全員が困惑していた。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

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