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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百六十四話 ハスターの過去と決着

怯える仲間達を安心させるために魔術を唱え始める。

距離を取っているハイドラは先ほどの巨人を作り上げるのにかなりの力を消費していたが、

勝負を決めようとしている俺に対して最後の力を振り絞ろうとしている。


『気を抜くなよ。ここまで圧倒しているとはいえ奴も

この地球をあと一歩で征服まで追い詰めたクトゥルフの配下だ。』


窮鼠猫を噛むというがこいつが鼠なら、俺はとんでもない化け物という事になる。

だがこいつの他にもクトゥルフの配下はいると考えると、

追い込まれたこいつさえも圧倒しなければこの先生き残れない。


「大気よ・・・・。」


完膚なきまでの勝利は俺について来てくれる仲間たちに絶対的な安心感を与えるだろう。

大気を動かしハイドラに止めをさせるような魔術を作り上げようと風を作り上げる。


『あれをやる気だな。イメージを強く持て。』


賀茂忠行との戦いを重ねるにつれ、出来るだけクトゥルフの情報を取りこんできたが

それと並行するように宇宙の事についても知識を入れてきた。

以前ハスターが俺の体を操り作り上げた木星。

人間が木星の存在を認知したのは紀元前までさかのぼる。

古代バビロニアから木星は観察され、様々な技術の進歩があった現在でもその存在は研究されている。

太陽系の中で最大の大きさを誇る木星は様々なガスに覆われたガス惑星であり、

その時その瞬間で見え方が異なる。


あの時のハスターのようにきれいな木星を作り上げようとイメージを作り上げるが、

見る資料ごとに異なる姿をした木星を上手く作り上げることが出来ずに四苦八苦していると

視点を共有しているハスターが声をかけていた。


『・・俺の記憶を共有してやる。それを見て作り上げろ。』


詠唱している最中、頭の中に見たことない記憶が流れ込んでくる。

上下左右、全てが漆黒に覆われ所々に光り輝く惑星の群れが見える

宇宙空間の中に堂々とそびえ立つ大きな惑星。

赤、茶、城の縞模様の雲で覆われた木星だった。


————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


『我々を生んだ主。父親は俺達にとある命令を下した。

強く光り輝く惑星を中心に掲載された惑星群を征服しろと。

クトゥルフを含めた兄弟たちが征服する惑星を言い渡され、配下達を連れて太陽系に侵攻した。』


ハスターが語るのは自らがこの地に降り立った理由。

それはあまりに規模が大きく、壮大であり想像すらできないような内容だ。


『正直・・他愛もないと思っていた。

私が言い渡されたのは木星と呼ばれる惑星であり、我らの力がであれば簡単に征服できると思っていた。

前線基地、都市などを築き上げ順調に進んでいたことが油断を生んだのだろう。

本来手を取り合う兄弟達と自らの力を誇示するために軋轢が生まれ始めた。』


主に求められたのは結果だ。

自らの結果を誇示するためには他の兄弟達より大きな結果を示す必要がある。


『奴が築き上げた基地に配下を向かわせ破壊。姪を攫って幽閉など色々やった。

本来の目的を忘れてしまうほどに憎み合った我らはこうして何一つ得たものはなく、

封印されてしまった者や太陽系から離れた者もいる。

俺は・・自らが作り上げた都市から時折飛び出し、

何もできずに征服するはずだった惑星を眺める事しかできなかった。』


木星の姿をはっきり記憶している理由をハスターは昔話を交えて語ってくれる。


「一つ・・聞いていいか?」


自らの後悔。それを聞いた俺はどうしても気になることがありハスターに尋ねる。


『なんだ?』


「例えクトゥルフを憎んでいたとしても俺はハスターにとって敵対する存在のはずだろ?

なんでこうして手を貸してくれるんだ?」


地球で繁栄している人間である俺は巡り巡ってハスターの敵だ。

なぜそんな俺に手を貸しているのか今の話しを聞けば誰もが不思議に思うだろう。


『・・・・・・・・。』


頭の中に流れてきていた木星が消え、俺と同じ黄衣を身にまとってハスターが姿を現す。


『・・先ほども言ったが私はクトゥルフの邪魔をするために自らの配下を地球に送り込んだことがある。

それだけにとどまらず地球に存在している生命体の人間に念を送りこんで

自らの眷属にしたこともあった。

だが俺自身人間に興味などなくクトゥルフの邪魔をするための玩具程度の認識だった。

とある”物”に出会うまでは。』


宇宙に浮かんでいるハスターに向かって何かが飛んでくる。


「あれは・・・。」


『お前が熱心に読んでいた文献の中に書かれていたな。

これが・・私に人間という存在に興味を持たせたのだ。』


人類の宇宙研究の歴史において必須とされるほどの存在。人工衛星、ボイジャー(こうかいしゃ)。

太陽系、太陽系外の惑星の探索目的で打ち上げられた無人の人工衛星であり、

今でも宇宙で運用が続けられている。


『人間が作り上げたあまりにチンケな機器。

だが・・・これに積まれたいたとある物が私の心を引き付けた。』


ハスターはボイジャーの中から何かを取り出し、俺に見せてくる。


『これだ。これから流れるとある音が冷めきった私の心に暖め、ゆとりを持たせてくれた。

こんな心洗われる音を奏でることが出来る生物に興味をそそられた。』


資料でしか見たことが無い。というか実物は既に宇宙の遥か

彼方に飛ばされてみることが出来ない代物。黄金にメッキされたゴールデンレコード。

世界各国の言語、そして音楽が刻み込まれており

異星人に向けて人類からメッセージが流れる仕組みなっている。

異星人の存在はずっとささやかれていたがそれが大々的に公表されることはなかった。

だがボイジャーに積み込まれたゴールデンレコードはその役割をしっかりと果たしていたんだ。


『興味をそそられた私は地球に住まう私の配下にこの音楽を探させた。

すると日ノ本の八海にこの音楽を奏でられる者がいると連絡を受けた。

それが・・お前の母親、稲見との出会いだった。』


ハスターはレコードを元に戻してボイジャーを優しく押す。

するとゆっくりと宇宙空間への航海へと戻っていく。


『人類は我々を恐れる。見たことの無い存在に触れる恐怖から来るものだ。

だが稲見は私を恐れず受け入れてくれた。

同じ目線に立つ者達と憎しみ合い、残された配下に私と対等に者はいない。

そんな私の冷え切った心を稲見は暖めてくれた。

尺八と呼ばれる楽器で奏でた音楽。共に語り合った日々。

稲美との日々の中で私は思った。この感情はなんだ、と。』


共に過ごして芽生えた感情には俺にも覚えがある。


「・・・・・・・・愛。」


『そう、愛。私の問いに稲見も同じように答えていた。

同じ時を永遠に過ごしていたい。この感情は人間の間では愛と呼ぶと。

私はこの感情を現実にしようと稲見を自らの眷属にしようと思った。

だが眷属の契約を結んでしまえば主従関係が生まれ、対等な関係は終わりを告げる。

それは私が望んだ関係とは言えない。

どうしようか悩んでいる時、稲見は式神契約を持ちかけてきた。』


式神契約に主従関係は存在しない。

あるとするなら俺と楓のように元々の立場に上下がある場合のみだ。


「お互い・・信頼し合っていたんだな。」


『ああ。契約をした我らは同じ立場でお互いの心さえ通じあえるようになった。

今まで人間を眷属にした場合、肉体を維持できずに命を落としたが

契約を結んだ稲見の体には何も異常が見られなかった。

その姿を見た私は安堵した。これで・・孤独には戻らなくていいと。

だが・・・それは私の勘違いだった。』


感慨深そうに俺を見つめながら語るハスター。

耳にしたことが無い母親との関係に思わず耳を傾けてしまう。


『・・話しが逸れたな。木星はイメージ出来たか?』


「い、イメージは出来たけど・・・。」


話しの続きが気になると伝えると、ハスターはこちらに近づき俺の頭を撫でてくる。


『この戦いに勝利し、仲間を守れたらいずれ話してやる。だから目の前の敵に集中しろ。』


優しく語りかけてくるハスターはまるで子供に語りかける様だった。


———————————————————————————————————————————————


「・・・・・・・・・・・・。」


宇宙空間から意識が戻ってきてハイドラの姿が見える。

木星のイメージを伝えるために俺の意識を乗っとられ長い時間語っていたと思ったが、

その時間は十秒も経っていなかった。

ハスターが伝えてくれた木星を風で作り上げる。

その雄大さ、そしてまるで生きているように動きを変えるガスの模様。

イメージを完璧に再現して見せる。


「思い焦がれた歳星ジュピター。」


心が冷めきったハスター。それでもその思いは途絶える事はなかった。

その思いから生まれた魔術でありあの時ハスターが作り上げた物とは全く別物、俺が作り上げた魔術だ。

作り上げた木星を片手で軽く押すとまるで公転するようにゆっくりと進んでいく。

海も吸収した魂も失ったハイドラは自らの体を力に変えてこちらに突っ込んできている。

自らの体を犠牲にした捨て身の一撃。クトゥルフの配下の意地を見せつける気だ。


「・・無駄だ。」


木星が完成した今、勝負は決まっている。

奴の体に秘めている力はイタカや青さんを優に超えているが木星には決して届かない。

だがハイドラはそんなことはお構いなしにこちらに突っ込んでくる。

ハスターの力を使って俺と力の差はあったが・・・こんな立ち回りをしなくてもよかったはず。


(なんだ・・?何か引っかかる・・・。)


この姿の俺と対峙した時から何かが違っている。

まるでハイドラの意志とは別の何かが操っているように思えて仕方がない。

木星に触れる瞬間、ハイドラは自らの体に貯めた力を全て解放する。

俺が空気の爆弾を放ったように、自らの体に閉じ込めた力を最大限の力で解き放つ構えをとり、

自らの体を爆発させようとしていた。


「マズイ・・・!!!」


こいつ・・・。俺を殺せないと踏んで辺りを巻き込む算段に変えたのか。

神としての意地を見せるのかと思っていたが、意地の欠片もない行動に不意を突かれる。


『龍穂の言う通りだ。意地もクソもないあいつの一撃など全て無意味にしてしまえ。』


あれは空気で押さえつけても意味が無い。あの爆発ごと破壊するしかない。

星を破壊するほどの一撃を抑えこむために木星を動かしハイドラを包み込む。

破壊の風で作り上げた風に包み込まれたハイドラは体を削り取られていくが、

体が無くなる前に力を解き放つ。


木星の中から解放された力はものすごい爆発を起こすが爆発した傍から破壊しつくしていく。

辺りへの影響が出る前に木星の中で全て壊してしまった。


『・・・・・?』


これで終わり。あれだけ俺達を苦しめたハイドラが倒れた事実を前にして

ハスターが不思議そうな声を上げる。


「どうした?」


『・・抜け殻だ。』


木星の中で倒れたハイドラの全てを破壊したはずだがハスターは不穏な言葉を放つ。

だが辺りを見渡しても本体の姿は無く、あまりに静かな空気が流れていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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