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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百六十二話 追う者、追われる者

逃げたハイドラの姿を見つけるため、敷き詰められた海を見つめるが姿形の欠片もない。

兼兄は白の部隊と絶えず連絡を取っているがまだ姿を現していないようだ。


「せっかく与えたダメージを回復されているかもしれませんね・・・。」


これだけ姿を現さない理由としては立て直しが濃厚だ。


「そうだろうな。だが立て直させることが出来たのは龍穂のおかげだ。

それだけ奴が追い込まれていたという証だからな。」


余裕があるのならあのまま戦っていただろうが、

俺の黒牛の一撃は思っていた以上にハイドラに対してダメージを与えていた様だ。


「ですが・・姿を消してしまったハイドラをすぐにでも見つけなければなりません。

他のメンバーではハイドラと真正面から戦うのは難しいでしょうから。」


毛利先生の一言に楓の姿を思い出し、心臓が跳ね上がる。

あの状態の楓の前にハイドラが立てば・・・。


「・・・・・・・。」


それはマズイ。楓がもう一度死ぬなんてことがあってはならない。


「・・龍穂君?」


どうすればハイドラを見つけられる?どうしたら楓を助けられる?


「龍穂君。立ち止まっている暇はありませんよ?」


念は届かない。影渡りをしようにも楓の力を感知できる状態じゃない。

俺がハイドラと同じ状況であれば・・・真っ先に楓を狙う。今すぐにでも助けに行かなければ。


「兼定。龍穂君の様子が・・・。」


「・・いや、いい。」


助けに行くには楓の位置を特定する必要がある。だが飛び回っている暇はない。


(海・・・。)


どうすればいいか悩んでいると、敷き詰められている体液が目に入る。

この海の上は奴のテリトリー。なら俺のテリトリーはどこなのだろう?


「・・空気だ。」


俺のテリトリー。それは空気がある場所であり、それは地球上に存在しない場所はないだろう。

辺り全ての空気に魔力を注ぎ込む。そして魔力操作に全神経を集中させた。


「・・・・・・・・・・。」


一階、二階、三階。全ての階に空気の流れを感じる。

水、風。それらの自然物は規則性のある動きをしているが、

その中でも空気を割きながら移動しているのが人だ。


(・・・・・・・・・いた。)


空気の流れから人の大体の大きさを細部まで感じる取ることが出来るが、

感じたことのある人達が固まって移動していることが伝わってくる。

そして・・強靭な力の持ち主が近づいている事も・・・だ。


「行かなきゃ・・・。」


すぐにでも行かなければいけないが伝ってきている場所は一階であり、

このまま浮遊で向かっても間に合わない。


『・・空気を伝って行けばいいではないか。』


最短で向かうにはどうすればいいか考えていると、心の奥底から聞いたことのある声が聞こえてくる。


「伝う・・・・?」


『私は大気の化身。それは神融和をしている龍穂も同じ。

体を空気と同化させ、移動すれば今から駆けつけても十分に間に合うぞ?』


体を空気と同化・・・。イメージがいまいち湧かないが何かしようと風をまとわせてみる。


『そうだ。魔術操作というやつで体も風にしてしまえ。』


声が指示する事を素直に受け入れ、体に魔術操作を試みる。

すると黄衣のしたにある俺の体が風と同化していく感覚が伝わってきた。


『よし。では、いこうか。』


巻き起こる風に体を馴染ませ。空気を伝って楓たちの元まで飛んでいく。

強風に乗って移動するが目に写る景色があまりに早く流れていき歪んで見えてしまうほどだ。


『・・あと少しだな。』


これなら本当に間に合う。そう確信しながら移動していたが聞いたことのある声、

ハスターが何かを呟いた気がした。


———————————————————————————————————————————————


「龍穂君・・!!」


黒い風に包まれ、姿を消した龍穂を前にノエルと春は驚きの表情を隠せない。


「・・兼定。なぜ止めたのですか?」


何が起こったのか分からないが動揺を隠せていない龍穂がハスターの力を使った事だけは理解しており、

使いこなせない力を止めるタイミングはあったとノエルが問いただす。


「これでいいんだ。」


驚く二人だが兼定はいたって冷静。風が流れていく方向をじっと見つめてノエルに応える。


「長野さんの鍛錬のおかげで陰の力の扱いには慣れた。

そしてハスターの影響で扱えるようになった黒い風は、

日ノ本に限って言えば対処できる人間はほぼいない。

だが・・龍穂が戦う相手は宇宙の神、もしくはその神の力を操る人間達だ。

ハスターの力を操ってもらわないと困る。」


「だからって・・もっとタイミングがあるでしょう。

楓さんが危ないこの状況で龍穂君を放っておくなんて・・・。」


「だからこそだ。あいつの魔術操作見たか?あれは空気を探知して楓たちを探していたんだろう。

そしてハスターの力を使って風に乗っていった。

一度命を落としかけている楓を助けに行ったに違いない。」


兼定の思惑は的を得ており、実際に龍穂は楓達に元へ向かっている。


「・・ちーからの連絡です。閃光弾で付けた匂いがすぐそこで来ている。

ハイドラは楓さんを狙っているそうです。」


「場所は?」


「一階トイレ付近。逃げ場がないようですが・・・

黒い風が目の前に巻き起こり、その中から龍穂君が現れたと・・・。」


「それ見ろ。龍穂はやる男だよ。」


焦るノエルを落ち着かせるため、額を軽く叩くとマイクに向かって白の部隊へと指示を送る。


「全体に次ぐ。一階トイレ付近、対象が出現。決して近づくな。

ちーの部隊は戦い終えた龍穂達を狙う敵の排除、そして移動できる道を確保してくれ。

俺が指揮をとった部隊は一階を除く全層の捜索を行え。以上だ。」


ハイドラという強敵を龍穂達に任せると指示を出した兼定に対し、

二人が明らかに不満そうな態度で見つめる。


「今までが優しすぎたんだよ。手厚いフォローをしすぎてハスターの力を龍穂が頼らなかった。

八海でそれが起きてくれればと思っていたが・・・それも結局の所はイタカに救われた。

春とノエルの言い分は分かるが、これからの戦いは龍穂だけの力では勝利を勝ち取るのは不可能だ。

ここで無理やりでもハスターの力をつかってもらわなきゃならない。」


教師として、事務員として。

未来ある生徒達を指導し、見守ってきたからこその二人の態度だが

時には厳しさも必要だと兼定は主張する。


「・・・・・・・・・・。」


その言葉を聞いた二人は不満そうな表情から一変して暗い顔を浮かべた。


「・・本当に泰国と戦うのですか?」


これからの戦いという言葉の中には土御門泰国の存在も当然含まれている。

出会ってから家族と呼べる関係を築き上げた二人にとって

内情を知っているとしても敵対するというのは心苦しいものであり、

この先命を取り合うなんて現実を受け入れたくはないのだろう。


「戦う。これは絶対であり、みんなも分かっていたことだろう。」


「それは・・そうですが・・・。」


「そんな顔をするな。安心しろ、俺が何とかするから。」


二人の頭を撫で、前を向けと声をかける兼定。


「それに・・本当にあいつの命を奪うわけじゃない。最期は救う、そういう手はずだろ?」


「・・・・そうですね。」


彼らの計画。それは土御門と戦い、そして”救う”事で完結すると説得する。


「それには面子が足りない。まだこちらに来ていないアルと・・・姿を見せない竜次だ。

アルに関してはもう少しでこちらに来てくれる予定だが、

どこかに行ってしまった竜次を探さなければ奴との決戦に向かう事すらできない。

龍穂たちの事を考えれば、俺達が取らなければいけない行動は竜次の捜索だ。」


あからさまに床に描かれていた陣は、姿を消した竜次とは何ら関係なかった。

あえて堂々と描くことで陣に意識を向けて何か隠していると、兼定は二人に自らの予想を伝える。


「・・分かりました。あなたの意志を尊重します。ですが・・一つだけお願いしたいことがあります。」


「なんだ?」


「アルの迎えを私に行かせてほしいのです。」


ノエルが心配そうな表情を崩さずに兼定に申し出る。アルが遅れてきている理由。

そして二人の関係を鑑みた時に一人でこの屋内に入れるのは危険だと考えた上での申し出だった。


「・・分かった。だが一つだけ約束してほしい。

アルを必ずここへ連れてくる。もちろんノエルも一緒にな。」


「・・・・分かっています。」


兼定の条件を飲んだノエルは屋上へと足を向けた。


「・・なぜあんなことを言ったのですか?」


迎えに行くと申し出た意味を考えれば、あのようなことを言わなくてもいいのではないかと

春が口を開くがその問いに兼定はため息で答える。


「俺が言わなくてもノエルは分かっているさ。だが・・・アルの一番近くにいたのはノエルだ。

アルの事を一番理解しているノエルだからこそ、

ここに連れてこないでどこかへ逃がすかもしれないだろ?」


ノエルとアル両名の心情を読み切った上での声掛けだと説明すると、兼定は歩きだす。


「春。竜次がいなくなった痕跡を探すぞ。」


後姿を見つめる春の眼は悲しみに包まれている。

自らの思いを捨てての判断。無理をしていることは春のには明らかだった。

だがその歩みを止める事を張るにはできない。

ただ後ろを付いていくことしか・・・兼定に対して出来る事はない。


誰にも分からないほどの小さなため息を兼定は吐くと、

胸元から煙草を取り出し火を着け煙を肺に入れた。


———————————————————————————————————————————————


(・・・ここだ。)


風になり、楓達を追っていると海を避けながら逃げている人影が目に入る。


「来てるよ!走って!!」


楓を背負うゆーさんとそれを援護しているちーさん。

神融和をして得物を構えている純恋と桃子。そしてその後ろで魔術を放っている千夏さん達だ。


「クソッ!!深き者どもや緑のデカい奴と戦うだけでも精一杯やのに・・・!!!」


全員が傷ついており、辺りには深き者どもや落とし子の死体が散らばっていた。

楓を守りながら安全な場所を探してくれていたのだろう。


「行き止まりか・・・!」


追い詰められたみんなは灰色の海に浮かんでいる影に向かって対峙する。

足場もろくに確保しておらず、傷ついているみんなではハイドラと戦っても勝機は薄いだろう。


「来るで・・・!!」


浮かんだ影から異形の神が姿を現そうとしている。

強い精神を持つ楓でさえも精神を狂わされた。

あの姿を見てしまえば何人戦闘不能状態にされるか分かったものじゃない。


「・・・!?」


そしてハイドラが近づいている事を感じた楓が怯えた表情で影を見つめている。

こんな状態でもう一度ハイドラを見てしまえば・・精神を完全に壊されるかもしれない。


(させるか・・・!)


浮かぶ影とみんなの間に黒い風のカーテンをかける。

姿を現したハイドラは目の前の想定と違った景色を見て何事かと驚きを隠せない。


「お前・・何をする気だ?」


ハイドラの目の前で風となった体を元に戻し姿を現す。

勝ち目のない相手から逃げ、勝率の高い相手を確実に潰す。

戦場に置いての常識だが大切な相手を殺されるわけにはいかない。


「傷ついたみんなを殺そうってか?やらせねえよ。」


一人でやってきた俺を見たハイドラは怖がるところか都合がいいという風に雄たけびをあげる。

兼兄や毛利先生、ノエルさんがいない俺なら勝てると踏んだのか。

ハイドラの思惑を想像すると腹が立ってくる。


「・・いいぜ。こいよ。」


傷ついたみんなを狙ったこいつが憎くて仕方がない。この憎しみを・・ぶつけてやる。


『俺の力を使え。再起できないほどに粉々にしてしまえ。』


ハスターが俺に語りかけてくる。手加減はいらない。全力で行けと。

その言葉が俺のリミッターを外したのかいつも以上に空気を感じとれ、

体に宿る力も膨大で鮮麗されているように思える。

体に宿る憎しみをぶつけるため、目の前にある風を手で握った。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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