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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百五十三話 記憶にないはずの技術

十二天将達との戦いを終え、千夏さんに桃子の傷を見てもらう。


「大きな傷ですね・・・。」


骨を避けたとはいえ、足に穴が開いている状態だ。


「こんな傷、大したことないで。」


桃子は強がっているが相当痛いはずだ。

大切な四肢であり、この先に激しい戦闘が待っている事を考えると戦線離脱も当然選択肢に入ってくる。


「治療してあげたいのですが・・・おじい様ほどの水魔術を私は扱えません。」


期待していた千夏さんだが、治療は難しいと首を横に振る。

何か桃子の傷を癒す別の選択肢が無いかと考えていると、後ろから足音がこちらに近づいてきた。


「使えないと決めつけるな。試してみる価値はあると思うぞ。」


弱まっていた封印術を解いた兼兄がこちらに来てしゃがみこみ、桃子の傷を確認しながら口を開く。


「すまなかったな。情けない姿を見せて。」


縛られていた体は大丈夫なのか尋ねたが、問題ないと返事をし千夏さんの肩に手を置いた。


「ここは龍脈だ。神力が豊富だがこの中には魔力も入っている。」


「魔力があっても私の技術では到底・・・。」


「いいや、大丈夫だ。試してみなさい。」


水の魔術を極めた者にしか使えない治療魔術。

仙蔵さんが使えたとはいえ千夏さんが最も得意とするのは土の魔術。

自分には難しいというのは当然の言い分だが、

兼兄は半ば無理やりの形でやってみるように指示を出した。


戸惑う千夏さん。やってみるとは言うが難しすぎる話だ。

治療魔術の仕方も分らない千夏さんからは返答がなく、

沈黙が流れている所にどこからか羽を羽ばたかせる音が聞こえてくる。


「あっ・・・・。」


見上げると土御門に捕まっていた雀がどこかに身を隠していたのか

こちらに向かってきており、千夏さんの肩に停まる。

見たところ捕まっていたのにも関わらず傷一つ付いておらず、

魔術などの罠が仕掛けられている様子もない。

雀の姿を見て安心した表情を浮かべ、人差し指で撫でているがゆっくりを動きを止めて雀を見つめる。


「・・・・・・やってみます。」


あれだけ否定的だった千夏さんが何かを思い出したかのように呟く。

しかし扱うことが出来ない治療魔術をどうやって行うというのだろうか?

足の裏と甲にガーゼを敷いて圧迫での止血を行っていた桃子の傷口に

千夏さんは手を近づけゆっくりとガーゼを剥がす。


「っ・・・・・!」


傷口が空気に触れてむき出しの神経が刺激された桃子はほんの少しだけ眉間に皺を寄せる。

皆に心配を掛けさせまいと必死に我慢してくれているが、

やはり相当な痛みがありかなり腫れてしまっている。


「水よ・・・・・。」


魔術を使い、龍脈から溢れ出た水を手に集める。

そして何かを詠唱しながら桃子の足に優しく触れた。

以前の戦いで見た仙蔵さんのような高速詠唱を使って治療を試みているが

一つも噛むこともなく、流れるような詠唱を行っている。

仙蔵さんから教わった技術なのだろう。

手に集めた水が徐々に桃子の足を包み込み、傷から流れた血で真っ赤に染まっていく。


「っ・・・・・。」


魔術の途中だが突然口の動きが停まり、詠唱が中断してしまう。

魔術とは、魔力で操る属性を詠唱という方程式を組んで扱う技術。

使ったことの無い魔術を使用する場合によくある事だが、

自らが望む効果に導くための式が分からなくなり言葉が出てこない状態に陥っている。

こうなってしまうと作り上げていた式が時間により崩れ去り、

もう一度組みなおす必要が出てくるが問題に対する解答が出てこなければいくらやっても意味が無い。


「・・・・・・・・・・・。」


手伝いたい気持ちでいっぱいだが、

治療の魔術を使えない俺達が出来る事と言えば邪魔にならないように見守る事だけ。

桃子の足を包んでいる水が魔力の操作が溶けていき、重力に負けて徐々に地面に向かって垂れていく。

何もできないもどかしさに、手を伸ばしそうになるが腕を組んで体を押さえつける。


「・・・?」


すると肩に乗っている雀が千夏さんの耳元で鳴き始める。

出てきている時偶に鳴くことはあったが、千夏さんの耳元に近づいて羽を羽ばたかせながら

連続で鳴く姿は、必死に何かを伝えようとしているように見えた。

だが、人の言葉を離すことが出来ない雀は千夏さんの自らの意志を伝える事は叶わない。


「・・・ええ、分かっています。」


何を感じたのかわからないが、

千夏さんは雀の言葉を理解しているような一言を呟くと詠唱を再開し、

離れかけていた水が再び桃子の足に戻っていった。

見ている俺達も理解できない状況だが、桃子の足に纏っている水の色が赤黒く変わっていく。


「・・ここから痛みが強くなります。龍穂君、手を握ってあげてください。」


念で雀と会話しているのだろうか?

だとしたら詠唱の邪魔をしないように発声をしないはずだ。

何が起きているのか理解できないが、桃子が痛みに耐えるように力強く手を握る。


「いっ・・・・!!!」


激しい痛みが足を襲っているのだろう。

我慢できずに顔を歪めるがしっかりと手を握り、頑張れと桃子に声をかける。

純恋も手を肩に乗せて励ましていると、冷や汗をかいていた桃子の体の力が抜けていった。


「・・・・これで終わりです。」


真っ黒になっていた水に千夏さんが人差し指で触れると足に纏っていた水が地面に落ちていく。

足を確認すると穴の開いたはずの箇所が元に綺麗な肌になっており、負傷した後さえ見えない。


「す、すごい・・・。」


治療を受けた桃子は痛みのあった個所を優しく指で押して確認する。

腫れさえない白い肌をいくら触っても血が流れてこなかった。


「ありがとう!さすがやな!!」


嬉しそうに感謝を述べる桃子を見て笑顔を向ける千夏さん。

だが不可解な点がいくつもあり、どうしても素直に喜べない。


「・・なあ兼兄。」


水の魔術の再高等技術である治療魔術を使ったことがない千夏さんが使えた理由。

何故詠唱を中断したのに再会できたのか。雀の助言だとして何故言葉が理解できたのか。

一連の謎が理解できないが、そもそも治療魔術を使う進言を俺にしてきたのは兼兄だ。

絶対に何か知っているはず。


「くっ・・・!?」


尋ねようとした時、治療をしてくれた千夏さんが頭を抑えながら蹲る。

突然の出来事に兼兄に尋ねる場合ではないと千夏さんに寄り添った。


「普段使わない高等技術に頭が悲鳴を上げたんだろう。少し休ませてやれ。」


千夏さんの様子を見た兼兄は冷静に状況を判断し、どこかへ歩いて行こうとする。

今までであればこのまま逃げられただろうが、今回ばかりはさすがに聞くことが多いと

念で楓に指示をだして止めさせる。


「教えてくれ。なんでこんなことになっているのかを。」


もう流れに身を任せるなんてことはしたくない。しっかりと確認できる時にしておかなければならない。

俺の問いを聞いた兼兄は口を開くことなく、ただ立ち尽くしている。


「・・・・分かった。」


ため息をついた後、観念したようにこちらに振り返った。


「千夏ちゃんが治療魔術を扱えた理由。それは・・・”元々使えるから”なんだ。」


兼兄が言っている事が理解できずいると、千夏さんの元へ歩み寄り優しく頭を撫でた。


「この雀は元々仙蔵さんの式神で千夏ちゃんに譲ったもの。

両親を失い、ふさぎ込んだ時に話し相手として譲ったんだ。」


「だから言葉を理解できた・・・わけないやんか。それだけ言われても何もピンとこんで。」


「そう急かすな。まだ話しには続きがある。

千夏ちゃんは土魔術の使い手だ。しかも死霊術という高等技術。

だが・・徳川の血を引いたのか幼い頃は仙蔵さんと同じ、

治療魔術の使い手として知られていたんだ。」


千夏さんが・・・治療魔術の使い手?


「治療魔術の使い手は世界を見ても類を見ない。

それほどに希少な技術を持っていたはずの千夏ちゃんが何故治療魔術を使えなくなったのか。

それにはな・・・・。」


言葉に詰まる兼兄に割って入るように、頭を抑えて苦しそうな千夏さんが声を上げる。


「・・”禁忌を犯さない”・・・ためですよね?」


「・・・そうだ。」


少し間を開けた後、兼兄は返事を返す。


「傷をいやす治療魔術の使い手が少ない理由。

それは死者を蘇らせようとする禁忌を犯そうと考える者が多すぎて規制が入っているからだ。

徳川家の血筋は魔術の才能を持つ者が多く、特に水の属性が高い傾向にある。

当然治療魔術を扱える者を多く輩出しているが、

その中に死者を蘇生させようと試みて命を落とした例がいくつもあるんだ。」


治療魔術には繊細な技術と大きな魔力が必要になる。

それだけ人体が複雑な作りをしているのだが、

死者を蘇生しようとした場合内臓から全て作り直す必要がある。

心臓、脳を作り直すとなると使う魔力量は自らの命を削るどころか命を捧げてもなお足りない。

大切な人ともう一度会いたいなど、様々な理由で蘇生を試みて何人も命を落としたのだろう。


「私も・・考えたことがあります。死者の蘇生が出来ないかと・・・。」


千夏さんがもう一度会いたい人物。幼少期から扱えたことを考えるとその人物は明らかだ。


「・・この雀は死者の蘇生を試みようとする人間のために

治療魔術を封印する術を持った徳川家専属の式神だ。

幼い千夏ちゃんが・・・亡くなった両親の蘇生を試みないように術を掛けながら

ずっと見守ってくれていた。」


両親を失った衝撃は幼い千夏さんを深く苦しめたことだろう。

それは何も顧みずに治療魔術で蘇生を試みてもおかしくない。


「あの雀の声は特定の条件下で徳川家の血の引いた人間にのみ人の言葉に聞こえるようになっている。

精神が成熟した今であれば使っても良いと判断したようだな。」


心の中には失くした両親に会いたいと気持ちは必ずあるだろうが、

徳川家を継げる人間が自分しかいない事実。

そして仙蔵さんの想いを継ぐために命を落とすことはできないと冷静に判断できる

千夏さんであれば確かに治療魔術を扱っても問題ない。

だからこそ、この場で雀は千夏さんの記憶の封印を解いて治療魔術の方法をその場で教えたのだろう。


「・・収まったか?」


兼兄は千夏さんの肩に手を置いて様子を伺う。


「はい・・・。」


頭を抑えることを止めた千夏さんは、先程の苦しい表情が和らいでいつも通りに戻っていた。


「本来であれば少し時間を置いて様子を見る所だが、そうは言っていられない。」


兼兄は龍脈の穴に近寄り、上からのぞき込む。


「・・いじられた様子はないな。俺達を誘い込むためだけにここに来たみたいだ。」


龍脈の水に触れて状態を確認した後、天井を見上げて呟いた。


「上に出よう。白や他の生徒達の状況が気になる。」


そう言うと出入り口の方へ足を進めるが純恋が声を上げる。


「ちょっと待ってや。そいつどうすんねん。」


指を差した先には気を失い、伸びてしまっている騰蛇の姿。

白虎は正気を取り戻したが騰蛇も同じ状態なのか不確定であり、

龍脈があるこの場所には放置できないだろう。


「俺が札に封印しておく。騰蛇をどうするのかはこの戦いが終わった後に検討しよう。」


そう言うと何も書かれていない札を取り出し素早く封印術の術式を書き入れると指を噛み、

血を塗ると騰蛇に張り付ける。

刻み込まれた封印術が発動し、札の中に騰蛇を閉じ込めてしまった。


「いくぞ。」


俺達が日常的に使っている札だが術式によって容量が決まっている。

刀などの小さなものであれば俺でも簡単に術式を書き込めるが、

騰蛇のほどの力を持った神を封じるとなるとかなり複雑な術式を書きこまなければならない。

簡単に封じ込めらたこの数秒で業の長である所以と言える高等技術を見せつけられた。


地上に登る階段をみんなで登っている時、

前を歩く兼兄にみんなには聞こえないほどの小さな声で尋ねる。


「兼兄、大丈夫か?」


屈辱と言える完敗を土御門の叩きつけられていた。

平然としているが精神的に相当参っていてもおかしくはない。


「・・切り替えたよ。安心しろ。」


兼兄は大丈夫だと言ってくるが、先ほどの様子を見てしまえばそう簡単に信じる事は難しい。


「・・あいつは敵だ。俺の認識が甘かった。

情けない俺を庇いながら戦ってくれて感謝しているよ。」


こっちが本音なのだろう。自らの未熟さを認め俺達に謝ってくる。


「ここから先は同じ手を食わない。

お前達にこれ以上借りを作らないため、そして・・・上にいる家族のためにな。」


あの場にいた兼兄は友として土御門の前に立っていた。

だが地上に出たら白、そして業としての立場を背負った長へと変わる。

背負う者が人を変える。それが例え親友と呼べる男と対峙していたとしてもだ。

地上に戻り従業員が使う廊下を抜け、元居た場所へ繋がる扉の前に立つ。

警戒しつつ扉を開けると、つい先ほどまで人がいないだけのショッピングモールだったが

床に敷かれているカーペットはやぶれコンクリートが露わになり、

大きな爪の傷跡が多く残る荒れた光景と様変わりしていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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