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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百五十話 騰蛇との戦い

二人の攻撃が通らなかった事実は、少し離れた俺の眼にまざまざと映し出されている。

伝説の式神達、さすがの実力であり戦う二組をどう指揮するか頭を働かせる。


(・・・ひとまず弱点を探そうか。)


前までの敵であれば十分に効果があった攻撃だったが桃子はすぐに距離を取り、

楓は青さん達と次の行動をどうするか話し合っている。ただ一つの隙を仕留め損ねただけ。

本来であればそれが命取りになるが、敵は正気を保てておらず狂っている。


「桃子、大丈夫か?」


「全然大丈夫や。刃が通らなかったは驚いたけどな。」


既に引いた桃子は純恋の前に立つが、次の一手を既に準備している。


金烏きんう!!!」


太陽を騰蛇に向けて放つ。

騰蛇、十二天将一気性が荒い気性を持ち、霧の中を縦横無尽に動けると言い伝えられている。

霧は出される前に太陽を放とうと先手を打ったが、

唾液が滴る開かれた口からは霧が漏れ出しており、騰蛇の姿を隠しだす。

太陽の光さえ通さないほど濃い霧を前に、純恋は太陽を霧の前で止めてしまう。

このまま姿を分からない中で光の届かない霧の中で動かしても効果を発揮しないと判断しての事だろう。

だが騰蛇の口から放たれる霧の量は増え続けておりこのままだと純恋達が霧で覆われてしまう。

霧の中を動ける騰蛇を相手にして考えうる一番最悪の状況に追い込まれつつあるこの状況を前に、

八咫烏様が動く。


「霧か。造作もないな。」


高い位置から羽を大きく動かし霧に向かって風を送り込む。

濃度が高いとはいえ空気の中を細かい粒子が浮かんでいるだけであり、

風によって動いた空気と共に部屋中に霧が散っていく。


「・・・そこか!!!」


薄く見えた赤い鱗の影を純恋は見逃さず、すぐさま太陽を向かわせる。

地上に姿を潜ませていると思っていたが騰蛇が見えた位置はまさかの空中。

霧の動きがなかったので翼を使っていなかった。どうやら霧の中を駆け、上まで登った様だ。

まだ完全に姿を見せない騰蛇だが、霧の中から肉が焼ける音と共に痛みの雄たけびが聞こえてくる。

赤い鱗を焼き尽くすほどの太陽。これで一つ攻めの方法を見つけることが出来た。


「・・・・・・・・。」


こちらまで飛んできた霧。

そして豊富な水蒸気によって体に付着した水滴が濁っていることに気が付く。

手に取ってみると水が灰色に染まっている。

騰蛇が扱う霧は水蒸気によるものではなく、別の何かによって生み出されていることが判明した。


「太陽は聞くみたいやな・・・。桃子、もし近づいた時は傷口を狙ってや。」


桃子の刃を阻んだのは奴の固い鱗を焼き尽くしたという事は柔らかい肉が露わになっている。

純恋の一撃は桃子にとっての突破口を作り上げることが出来た。

これで純恋達は攻めを幅を広げることが出来る。

自分の得意な環境を作ることが出来ず、傷を負ったことにイラついたのか

口を開けながら純恋に突っ込んでいく。

霧を放ちながら移動しているが八咫烏様が風を送り続けているので滞留せずに姿は隠せない。


「行かせへんで!!!」


接近戦は桃子の役目だ。純恋に近づくことは許さないと前に立ちはだかり長い刀身の刀を構える。

狂いながら突っ込んでくる騰蛇の勢いはすさまじく、

少しでも押し込まれれば後ろにいる純恋ごと押し込まれてしまうが

そうはさせはさせないと体に神力を込め始めた。

鎧の隙間から黒い骨が這い出るように鎧を包み込み、禍々しい雰囲気を桃子を包んでいくと

強化された桃子は刀を持って突っ込んでいき、狂いながら突っ込んでくる騰蛇を真正面から切りつける。

辺りの衝撃を放つほどの威力を持った両者の突進はお互いの勢いを完全に殺し、

鍔ぜり合いまでつれこんだ。


「ぐっ・・・!!!」


自信がもつ力の限りを騰蛇にぶつける桃子だが鱗に刃が通ることなく押し込むこともできない。

身を包んでいる骨をメキメキと音を立てながら数を増やしていくが、

それでも押し込むことが出来ない。

そして開かれている口から漏れた霧。

風で飛ばされる前のわずかな霧の上を全力で押し込むことだけを考えている桃子の隙を突くように、

長い体を動かし素早く霧の上を移動し、一瞬で桃子の背後に回り込む。


「・・・・!!!」


前に全体重を乗せていた桃子は空気を押し込むことになり、

重さのない刀を前に振って体勢を崩してしまう。

その隙を逃さない騰蛇は後ろから桃子に向かって突っ込んでいき、

体勢の整っていない桃子は膝を着いて受け止める形になってしまった。

鎧を包んでいる骨を伸ばし、地面に突き刺して何とか騰蛇を受け止めようとするが

そんな生半可な受け止めでは騰蛇を止める事は叶わない。

鋭い牙をなんとか受け止めるが、そのまま押し込まれてしまい

体勢を整える間もなく壁まで押し込まれてしまった。


「くっ・・そ・・・!!!」


壁に打ち付けられ、体にダメージを負った桃子は騰蛇の突進、

そして壁に押し込まれ襲い掛かる牙と顎に対抗できていない。

大きく開いた騰蛇の口は桃子の体を飲み込めるほど大きく、上顎に着いた牙は刀でなんとか受け止めているが下顎は体をねじ込んで足で押さえつけており、

よく見ると下顎に付いた小さな牙は桃子の足を貫いているように見えた。


「八咫烏様!!!」


このままでは桃子が危ない。

距離が離れている純恋は影渡りで接近できるが詠唱に時間がかかる。

すぐさま助けられるのは上空にいる八咫烏様だけだと急いで指示を送る。


「分かっている。」


指示が飛ぶ前から八咫烏様は急降下を始めており、開かれた嘴の隙間には小さな太陽が光り輝いている。

今にも桃子をかみ砕こうとしている騰蛇に迫る八咫烏様は、

太陽を桃子の後ろに向かって放つと騰蛇の目の前でまばゆい光を放つ。

突然の目くらましに騰蛇は驚きの雄たけびをあげるが顎の力を緩める事はなく、

桃子の危機は依然として続いている。


だが八咫烏様の本命はそこじゃない。急降下を続けている八咫烏様の嘴は先ほど純恋によって負わされた黒く焦げる火傷の跡を狙っている。

勢いそのままに硬い嘴を傷口に突き立てると肉に刺さる音が耳に届き、続けて騰蛇の悲鳴が耳を襲った。

目くらましで視界を奪われたまま傷口を抉られれば、

流石の騰蛇も顎に力を入れたままにはできなかったようで桃子から口を離し、

あまりの痛みと視界の悪さにその場で暴れ出す。

命の危機は免れたが目の前で暴れる騰蛇の体が今の桃子を襲えば意識を持っていかれるだろう。


「・・黒檻くろおり。」


八咫烏様も戦闘に参加しており、桃子の助けに行ける状態じゃない。

流石にここは手を出さなければならないと桃子を包む黒い風の檻を作り出し、

空気を操りながら桃子ごと宙に浮かせる。

安全を確保しつつ桃子をこちらまで移動させようとするが

目くらましの効果が薄れてきた騰蛇がその姿を見つけてしまい、

怒りのまま長い体で桃子に襲い掛かろうとするが八咫烏様と違う高温の太陽が騰蛇の前に立ち塞がった。


「お前・・桃子を怪我させたな・・・?」


先程の金烏とは比べ物にならないほど大きく、そして魔力が込められた太陽。

大切な友人である桃子を傷つけられた怒りによって作り上げられた純恋の太陽が

騰蛇を焼き尽くそうと宙に浮かび、流石の騰蛇もその太陽を前に桃子を追うことを止めて

地面に這う選択をとった。

その隙を逃さず桃子を俺の隣にまで持ってきた風の檻を解く。


「大丈夫か?」


「うん。大丈夫・・・。」


心配するなという桃子だが、鎧の隙間からかなりの血を流している。。

俺の角度から見えなかったが、上顎についているあの鋭い牙を完全に受け止めることが

出来なかったようで肩からも血を流しており、当然足からは大量の血が流れていた。


「大丈夫なわけあるか。神融和を解いて見せて見ろ。」


鎧を上からでは十分な治療が出来ない。

まだ純恋が戦っているからそんなことはできないと拒む桃子だが、

兜の上から軽く小突いて早く解けと急かす。


「治療をしなきゃ逆に純恋が怒るぞ。特に足、ほっとけば下手をすると

二度と普通に歩けなくなるかもしれない。」


それでも純恋の元に行きたいと呟く桃子に対し、俺の後ろから声が飛んでくる。


「桃子ちゃん。龍穂の言う通りにしろ。」


先程は苦悶の表情を浮かべていた兼兄だが封印の効果が徐々に失われつつあるようで、

治療を嫌がる桃子に対して叱責の言葉を送ってくれる。


「もうその体は君だけのものじゃなくなっている。

契約主がそう言っているんだからいう事を聞いた方が良い。」


続けて悟らせる言葉が送られると不服な表情を浮かべながらも

桃子は神融和を解いて、血を流している足を俺に見せてくれた。


「十二天将だとか、狂っているとか、そのどれも桃子を傷つけていい言い訳にはならん。

私を怒らせた罪の重さをその体に刻み込んでやるわ。」


緊急事態に備えて用意してあった治療キットを札から取り出し、

応急手当をしていると純恋が騰蛇に向かって叩きのめしてやると宣言する。

怒りに身を任せた純恋が作り上げた太陽を前にして騰蛇は怯むことなく、

太陽に向かって純恋に負けないほどの怒りの咆哮を上げた。


そして口から霧を放ち、再び姿を隠そうするが

近くにいた八咫烏様が翼を振るおうとするも純恋が手を前に出して辞めるように指示を送る。


「何故だ。姿を隠されるぞ。」


「この後こいつから話しを聞きたいやろ?

狂っているとはいえ体に私達の実力を刻み込んでやれば少しは素直に話しをする気になるやろ。

その時に少しでも言い訳させないために、

こいつの手札を全部出し切らせた上で叩き潰しておきたいんや。」


桃子を傷つけられ、強烈な怒りを持っているのにも関わらず心を怒りに支配されずに

この後の状況を少しでも良い方向へ持っていくための行動を取ろうとしてくれていた。

その言葉を聞いて八咫烏様は翼を振るう事を止め、支援を行うために純恋の近くまで移動する。


「さあ、避けてみろや。」


下は騰蛇が放った霧が充満し始めており、視界を確保するために純恋は風の魔術を使って宙へ浮く。

騰蛇がいる霧を見下ろせるところまで浮かび上がると、

作り上げた煌々と光を放つ太陽を地面に落とすためにゆっくりと腕を振り下ろした。


紅鏡落陽こうきょうらくよう。」


赤く光り輝いた太陽はまるで夕日が傾いていくようにゆっくりと霧に向かって落ちていく。

近づいただけで火傷してしまいそうなほどの熱を放つ太陽だが騰蛇の霧はかなりの範囲に広がっており、

霧の中を自由自在に這うことが出来る騰蛇を捕まえることが出来るのだろうか?


「・・自分が戦いやすい場所を作ることは大事や。

敵を仕留めやすいし、何より自分の力を発揮しやすいっちゅうことは

それだけ心に安堵をもたらしてくれる。やけどな、それだけ心の隙が生まれるっちゅうことや。」


床に近づいていく太陽の周りからバチバチと音が鳴っている。

何がそのような音を鳴らしているか、一見分からないがこの部屋の性質を考えれば

その理由はすぐに理解できた。


「・・・!?」


霧に身を隠していたはずの騰蛇だが太陽が近づいていくにつれ、

霧が晴れていき蜷局を巻いている姿が露わになる。


「風を起こすっちゅうのは別に風の魔術を使わんでも出来る事なんやで?」


風とは空気の温度差によって引き起こされる。

温かい空気と冷たい空気がぶつかるとその両者の気圧の先によって空気が流れ出し、

風となって地球の中を駆けぬけていく。

純恋が作り出した太陽が放つ温度はこの水分の多いこの部屋とかなりの差がある。

当然風を作り出すには十分な温度差であり、

騰蛇を包み込んでいた霧を晴らすのには十分な強風が霧の中には生まれていた。


「そこやな。もう逃げられへんで。」


太陽から逃げるために地面を這った騰蛇だが逃げた先は壁際であり、

それを見た純恋は逃げ道を阻む位置に太陽を移動させて追い込んでいく。

再び太陽に向かって雄たけびを放つ騰蛇が逃げ場をなくし、長い体を床や壁に押し付けるような体勢に

なっておりその姿はおびえながら必死に抵抗する小動物の様だった。


狂っているのにも関わらず初めて見せる弱気な騰蛇を見て

純恋は勝利を確実な物にするために太陽を小さく小分けにして騰蛇の逃げ道を完全になくす。


「終わりや。」


そして一斉に騰蛇の体に目掛けて放つと鱗や瞬時に溶かし、

肉が焼ける音ともに大きな悲鳴がこの部屋に響いた。

必死に痛みから逃げようと騰蛇は体をねじり何もない隙間に体をねじ込もうとするが、

怒っている純恋はそんなことを許すはずがなく逃げる先に太陽を放つ。

逃げ場をなくし、体を焼かれていく騰蛇は悲鳴を上げる余裕さえ奪われ大きな黒目はひっくり返り、

痛みによって意識が飛んでしまう。

その姿を確認した純恋はため息をついた後、太陽を引きはがし地面に降り立った。


「これでええな?」


こちらに近づいてきた純恋は戦いの結果に満足したか尋ねてくる。

いつもであれば桃子のけがを心配して倒れた敵を疎かにしている所だが、

桃子の治療を俺に任せて騰蛇の周りには太陽を漂わせていた。


「ああ、十分だ。」


「あいつの傷は深いかもしれへんけど命に別状はないで。

まあ桃子の傷の事を考えたらやり足りないけどな。」


現状報告を済ませて桃子に近づいて傷の心配をする。


「・・幸い骨は貫かれていない。消毒は済ませたからひとまずは大丈夫だろうけど

ここからの戦闘には参加させられないな・・・。」


授業で応急処置の事は習ったが本格的な治療まで繋ぎであり、

桃子が受けた傷は医者見れば入院を言い渡すほどの大けがだった。


「牙が足に刺さっていたんやから当然やな・・・。」


だが命に別条があるわけでは無い。桃子が離脱するのは痛いが仕方がない。


「・・・嫌や。」


だが当の本人である桃子は戦闘から離脱することを拒み始める。


「ばか、無理をするな。」


俺と純恋が説得しにかかるが決して引こうとせずに首を横に振り続けた。


「龍穂の命に関わる戦いや。そんな重要な戦いを中途半端に終えてもし龍穂が死んだら私は・・・

一生後悔してまう。」


俺の事を思って戦場に残りたいと言ってくれているが、この傷が悪化すれば足を一本失うかもしれない。

俺の命が危ぶまれるほどの戦いだとしても

そんな傷を負っている桃子を戦場に残せば今度は桃子自身の命が危ぶまれる。

それだけは避けなくてはならないと説得を試みている所に再び兼兄が言葉を掛けてくれた。


「・・ここに桃子ちゃんの願いを叶えられるかもしれない人物がいるぞ。」


桃子に向かっての言葉に聞こえるが、実際は俺と純恋を説得するための言葉だ。

だが治療の魔術は水の魔術を極めた者だけが扱える高等技術。

そんな魔術を使える人なんて・・・。


「・・・・!!」


その可能性がある人物はすぐに思い浮かび、顔を上げてもう一つの戦場を確認する。


「そうだ。あの子ならもしかすると扱えるかもしれない。

俺に掛けられている封印は徐々に力を弱めている。

このままいけば誰かが封印を解かなくても体を動かせるだろう。」


もう一体の化け物と戦う三人は押されているわけではなさそうだが決して優勢ではなく、

純恋達と同じく激しい攻防の末、均衡状態を保っているように見える。


「だから俺を守ることは考えず、そっちの指揮を執ってやれ。

純恋ちゃん達みたいに決定打を持っていない三人に取って指揮を執る人物の助言は

重要になってくるぞ。」


再び立ち上がり、戦場を深く観察する。

治療の魔術を扱える可能性を持っている千夏さん。

神融和をしていると楓と青さんは息を切らしながら白い毛を持つ化け物である白虎と対峙していた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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