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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百四十八話 旧友だからこその罠

兼兄の後ろについていくが決して走ることなく移動を続けており、

姿の見せない土御門に何かされているのではないかと心配になる。


「・・兼兄。」


少し急いだほうがいいのではないかと尋ねるが返答は返ってこない。

あまりにイラつきにどうしたものかと思っていると、羽音が前から聞こえてくる。

感じたことのある神力、八咫烏様が見回りを終えて戻ってきてくれた。


「お疲れ様です。どうでしたか?」


「お前が言っていた小娘達を見かけたが何やら人数が増えていた。

見たところ敵ではなかったので急いで報告はしなかったが・・・こいつの部下のようだな。」


イラつく兼兄を八咫烏様は見つめる。


「・・丁度いいな。少し伺いたいことがある。」


「そう苛立っていては聞くことは出来んな。何があったのか分からんが少し頭を冷やしたらどうだ。」


イラつく兼兄に何もできない俺達に気を使ってくれたのか、少しは落ち着けと諭す。

八咫烏様の一言が気に障ったのか沈黙が流れるが大きく深呼吸をした後、

先ほどより苛立ちを抑えた口調でもう一度尋ねた。


「少しお伺いしてもよろしいですか?」


「なんだ。」


「八咫烏様の導きの眼に反応はありますか?」


導きの眼。勝利の道筋を写し出す八咫烏様が持つ魔眼。

まだ戦いが始まっていないのにも関わらず、

尋ねた真意は分からないが兼兄には何か心当たりがあるらしい。


「・・ある。薄っすらだがな。」


そう言うと八咫烏様は近くにある関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉の方を見つめた。


「光はあそこに続いている。あの奥に何かあるのだろう。」


「・・ありがとうございます。」


そう言うと兼兄はその扉に近づき、鍵穴に人差し指を先をつける。

仙蔵さんとの戦いの時のようにゆっくりと左に捻るとガチャリと音を立てて鍵が開く。

開かれたドアの先は従業員が使う通路であり、業務に必要な物を入れるロッカーなどが並んでいた。


「ここの龍脈を掘った時、現場に立ち会った。この先だ。」


地下になると言っていたので、てっきり一階のどこかから入るのだろうと覚悟していたが

別の入り口があるようで兼兄は迷うことなく足を進めていく。


「では何故俺に確認したんだ?行き先は分かっていたんだろう。」


「・・確証が欲しかったんですよ。

導きの光が少しでも照らされているという事はその先に戦いがあるという事です。

無駄足だけは避けたかった、それだけですよ。」


龍脈が怪しいと踏んでいて、しかも場所を知っているのにも関わらず

改めての確認をするなんて兼兄らしくない。

いつも冷静であり、頼りになる兼兄の背中が少しだけ小さいような気がした。


「・・・・いや、本音を言おうか。

あいつに心を読まれている気がしてならないんだ。」


少し歩いて後、ため息をついた後に本心を呟く。


「あいつはずっと俺の隣にいた。出会ってから日ノ本に戻ってからもずっとだ。

戦場、教室。色々な所で語り合い考えを共有してきた。」


土御門との思い出を語りながら弱音を吐きだしていく。


「戦いの時、先頭に立って切り開いていくのは俺か竜次。作戦を考えるのはいつもあいつだった。

まるで戦場の全てを見渡しているような目と冷徹でいつも冴えてる頭脳。

俺のちっぽけの脳みそで考えた事なんて、全て見透かされている気がしてならない。」


あの若さで神道省長官の座についている土御門の実力が高いこと自体は察していたが、

兼兄が怖気つくほどの強者だとは到底思ってもいなかった。


「・・それでも戦って勝利しなきゃならない。」


弱音は周りに伝染する。

このまま土御門と相対しても無残に殺されるだけだろうと、前向きな言葉を兼兄に掛ける。


「そうだろ?土御門を倒せば賀茂忠行の配下がのさばる三道省に大きな穴が開くんだ。

三道省がぐらつくかもしれないけど立て直すいい機会になる。

俺達が生き残る道はそれしかない。どんな敵が来ても勝たなきゃいけないんだ。」


今の所土御門の手のひらの上に乗せられている状況なのかもしれないが、

敵の中核であるはずの奴が戦場に出てきてくれている。

この絶好の機会を逃すわけにはいかない。例え兼兄達の大切な元友人だったとしてもだ。


「・・・・・・・・・そうだな。」


俺の言葉を聞いた兼兄は小さくつぶやく。

まだ心の整理が出来ていない状況なのかもしれないが少しは前を向くことが出来ただろうか?

通路を進み、突き当りまでたどり着くと封印の札が何重にも張られた重厚な扉が目の前に現れる。


「ここだ。」


決して触れてならない。

何も表記されていないにも関わらず、その出で立ちだけで伝わってくるその異常さが

龍脈がどれだけ大切で触れてはならない存在なのかが分かる。

ここに土御門が入っているのなら札が剥がれた後があるはずだが、

長期間ライトの光に照らされて焼けた跡が出来ておりずらした後さえ残っていない。


兼兄は札に触れて状態を確認する。導きの光が照らす先ではあるがここに土御門が本当にいるのか?

この先で起こる戦いは土御門が敷いた罠によって引き起こされるものではないかと

疑念を抱いているようだ。


「・・恐らくですがこの先に土御門がいると思われます。」


兼兄の判断をじっと待っている中、千夏さんが口を開く。


「何故そう思う?」


「私の式神である雀が通った跡が残されています。」


千夏さんがしゃがんで何かを拾い上げ、こちらに見せてくる。


「それは・・・?」


「粟です。食べる必要が無いのにも関わらず毎朝ねだってくるほどの大好物で、

残ったものをいつも体に隠しているんです。」


お正月の時に見た粟が床にいくつも落ちていることに気が付く。

ここに鳥が入り込んで落とした可能性もあるが、そのような隙間は見当たらず鳴き声も聞こえない。

何よりその式神の使役主である千夏さんが言っているんだ。信憑性は十分にある。


「そうか・・・。」


その言葉を信頼したのか兼兄は封印の札を乱雑に剥いでいく。

床に落とされた一枚を拾い上げよく見ると、

一見封印の術式が込められているように見えるが神力を込めただけの札という事が分かる。


「よくある手口だ。クソッ・・・!!」


神力を常時放ち封印の術式の効力を保っている。

こうして神力を込めた札を張り付けただけでもただのインクで書かれた術式を見ただけで封印されていると思い込み、国の重要文化財が盗まれたケースが以前にあったはずだ。

普段であれば見抜けていたはずだろうが兼兄の苛立ちさえも土御門は見抜いていたのか、

簡単な手口に引っかかったという事実が心をさらに逆撫でていた。


途中から剥ぐことを止め、札を強引に破りながら扉を開ける。

中は暗闇が広がっており、魔術で出した炎で照らしながら兼兄は足を踏み入れる。

敵が中にいることが分かっている現状を考えると

電池式の懐中電灯などを使った方が魔力を探知されず、力の消費も抑えられる。

だが頭に血の登っている兼兄はその選択さえ取れず、

地下への階段を早足で下っており指摘をする暇もなく急いで兼兄の背中をおった。


螺旋状に作られた階段は一本道であり壁を見るとそこら中に苔が生えている。

空気中に含まれる水分が多いのだろう。ここで水魔術を使われればひとたまりもない。

無言で降りていく兼兄を呼び止めようと思ったが、

千夏さんの言うとおりであればここは土御門がいる。


既に侵入を許していることを向こうは分かっているがそれが俺達ではなく、

白の部隊である可能性も残っている。

ここで俺が声を出せばすぐさま襲われて命を奪われてもおかしくないためその背中をただ追う事しかできなかった。

必死に階段を下って一分ほど経った後だろうか。階段が終わり、開けた空間に出る。


「すごいな・・・・・・・・・。」


まるで人の手で掘ったかのように削られた岩肌が囲む空間に、

天井から落ちてきた雫が落ちてくる音が響き渡っている。

中に進んでいく兼兄が出していた炎を消すが、灯りを灯す必要がないほど視野が確保されている。

兼兄が進む先には不自然に残された岩の突起があり、

くりぬかれた中から水が溢れ出ており、その中から放たれる淡い光がこの部屋を明るく照らしていた。


「これが龍脈だ。この水の中には豊富な神力が流れている。」


手前には奉るように小さな鳥居が置かれており、突起には注連縄が巻かれている。

この空間には通常ではありえないほどに神力が漂っており、

細い龍脈でされもこれだけ雄大な力を有しているのかと神秘に触れて少し感動さえしてしまったほどだ。


説明はほどほどに兼兄は辺りを見渡して土御門の姿を探している。

そして千夏さんも表情には出していないが、目線を部屋中に向けており雀の安否を心配していた。


「くそっ・・・。どこに居やがる・・・!」


苛立つ兼兄はあわただしく部屋中を探すが肝心の土御門の姿は見当たらない。

俺達も得物を抜いて辺りを見渡しているとどこからか声が聞こえてきた。


「相変わらずですね・・・。」


声がした方向に得物を構え臨戦態勢を取る。

すると龍脈が照らしていた影から烏帽子の先が浮かんできて再び土御門が姿を現した。


「泰国・・・!!」


「あのような子供だましに引っかかる姿は滑稽でしたよ?相変わらずの単細胞で安心しました。」


扇子で口元を隠しながらくすくすとバカにしながら兼兄の方を見て笑っている。

先程とは違い、平安貴族が身にまとうような文官装束に装いを変えており

戦闘を行うにはあまりにも動きにくそうな姿だがその姿からはぎこちなさを感じさせなかった。


「てめぇ・・・!!!」


煽られた兼兄の苛立ちは頂点に達し、腰に差した刀の柄に手をかけて今にも切りかかろうとしている。


「まんまと私の思い描いていた策に引っかかってくれて感謝しますよ?上杉兼定。」


だがその姿を冷ややか眼で見つめ、口元を隠していた扇子を音を立てながら閉じると

兼兄が膝を着きながら体勢を崩す。


「なっ・・に・・・!?」


「あの扉に張られていた札。ほとんどはフェイクとして張ったただの札でしたが

その中に一枚でだけ本物を仕込ませてもらいました。」


苦しそうに膝を着く兼兄は体の自由を奪われており、

体に何かしらの封印術が掛けれていることが分かる。


「無残ですねぇ。業の長であるあなたがこうも簡単に罠にかかるなんて。

こんな男の淡い夢に付き合うより、賀茂忠行様に使える選択を取った自分を誇らしく思いますよ。」


膝を着いた兼兄を見下しながら土御門は懐から何かを取り出す。


「業に入る相談を受けた時、あなたに言いましたね?自ら鳥籠に入ることはないと。

罪深い日ノ本の闇、業を背負うな。自由に飛び立つ選択を捨てるなと言いましたが・・・

今のあなたの状況はまさにこのか弱い雀と同じです。」


取り出したのは千夏さんの式神である雀。体を鷲掴みにされ、首元に親指を突きつけられている。


「飛び立つことも叶わない。首を跳ねられる事を待つことしかできないか弱い雀と同じ。

ああ、そんな愚かな選択を選んだ男と人生の大半を過ごしていた自分が

バカに見えてしょうがありません。」


親指が跳ねれば雀の首も跳ねる。

自由を失った雀は目を瞑り、自らの運命を悟っている様だったが兼兄の眼は

しっかりと煽る土御門の顔を捕えている。


「・・愚かなのはアンタだよ。」


兼兄は決して諦めていない。身動きが取れなくてもその姿勢はしっかりと土御門へ向けられている。


「ほう。なぜそう思うのですか?」


「兼兄の自由を奪ったとしても、俺達がいる。

俺達がアンタに復讐の炎を燃やしている兼兄の手足となって動けるからだ。」


指の先に瞬時に風の弾を作り上げ、指を振るい土御門の元へ投げつける。

最小限の動きを行ったが俺の攻撃を悟っていたのか体をほんの少しだけ動かして風の弾丸を回避した。

その隙に俺の攻撃の意図を汲んだ楓が影渡りを使い、兼兄を影に引き込んでこちら側に移動させていた。


「この人の首をそう簡単に落とせると思うなよ。その前に・・・俺がお前の首を跳ねるからな。」


俺たちの事を支えてきてくれた兼兄を簡単に殺させはしない。

そう宣言した土御門は嬉しそうに口角を上げる。


「面白いことをいいますねぇ。あなた方の首を跳ねるなんて簡単なのですよ?」


手に持っている雀の首に親指の爪を突き立てる。

お前達の首を跳ねるなんてこの雀の首を跳ねる事と同じように簡単だぞと俺達に示してた。


「・・ですがそれでは面白くない。」


親指が肉に食い込み赤い鮮血が冬毛に染みてきていたが、何を思ったのか突然手を開き雀を解放する。


「あまりに簡単に命を奪っては面白味に欠けます。

あなたには苦悶の表情を浮かべながら死んでもらわないといけません。」


土御門が懐から二枚の古びた札を取り出すと宙に放り投げた。


「それが我らに手を貸し、敗れていった者達への償いです。

もがいて・・・無残に殺されなけば彼らが許すはずがない。」


ひらひらと舞うように落ちていく札が地面に触れると

中に封じられていた何かが勢いよく飛び出してくる。


「賀茂忠行様からいただいた式神達です。

彼らとあなたの龍が再び引き合う運命も・・・また面白い。」


鋭い爪を備えた手足に大きな胴。そして純白の毛並みに入った黒い模様。

固い鱗に包まれた長い胴とその背中に着いた大きな翼。二体の化け物達が俺達の前に立ちふさがる。


「あなたがなぶり殺される瞬間を見るのもいいですが、私にはまだやることがある。

上にいる家族達の・・・命を奪わなければなりません。」


二体の化け物に気圧されつつも、

相対している俺達を見下した眼で見つめながら土御門は影に沈んでいく。


「精々抗いなさい。そして・・・その身を、その血を土御門様に捧げるのです。」


捨て台詞を吐き、影の中に去って行った。

兼兄が動けない中での戦闘。非常に厳しい状況だがやるしかない。


「・・龍穂。用心しろ。」


俺の中に入っていた青さんが飛び出してくる。


「奴らは・・十二天将が二柱。白虎と騰蛇じゃ。」


青さんの口から放たれた敵の名前。

それは安倍晴明に仕えた伝説の式神達、青さんと同じ十二天将だった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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