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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百四十六話 鍛錬の成果

千夏さんが提案した内容を聞いた純恋は魔術の準備を始める。


「もう一回行くで。」


緑の巨人に生命線を狙っている事を悟られれば、狙いを前線の二人から純恋に変えてくるだろう。

そうはさせないと気を引くために二人で再び突っ込もうと楓に提案する。


「いいですけど奴は攻撃を桃子さんに集中するはずです。

ちょこまか動く私より、致命傷を与えたあの一撃はアイツの脳裏に残っているはずですから。」


「分かってる。」


それは承知の上だと桃子は再び巨人の元へ駆けていく。

楓は先ほどの様に先頭を走ることなく、桃子の援護を行うために近くに寄り添うように駆けだした。

痛い一撃をもらった巨人は近づいてきた二人に向かって口から黒い海水を放つが、

二人は兎歩で難なく躱す。

だが避けた方向が左右バラバラになってしまい、その隙を逃さまいと二人の間に触手を放ち分断した。


「くっ・・・!!!」


桃子が刀を振るうと触手は断ち切れるが、すぐさま新たな触手が二人の間に割って入る。

蜘蛛の糸を使い移動を試みるが、楓本体ではなく糸を断ち切って合流を阻止していた。


「くそっ・・・!」


分断された二人に残された選択肢は二つ。

一つはこのまま突っ込み、個々で巨人と戦闘を行う事。

楓も言っていた通り鱗を絶つほどの剛腕を持つ桃子を狙いに来るだろうが、

もし危険な状況に追い込まれれば影渡りで式神契約をした俺の元へ戻ってくることが出来る。

ヒットアンドウェイの戦法を取ることで移動する距離などを考えると

時間がかかり力を無駄に消費してしまうだろう。


二つ目は二人共一度影渡りでここ戻ってきての仕切り直しだ。

もう一度体勢を立て直せば再び二人で協力しながらの戦闘が可能になる。

突破力が上がり戦闘を有利に運べるが、打開策が無ければただ距離を取っただけで

状況を悪くする可能性もある。


(どうする・・・・?)


二人が取った選択はこのまま突っ込み個々で戦う事。触手の壁を隔てて二人は巨人の元へたどり着く。

その姿を見てにやりと笑った巨人は、当然桃子目掛けて腕を振り上げる。

先程の一撃を二度と食らわないためにも桃子を潰す選択は正しい。


「舐めんな・・・・!!!」


だが桃子も黙ってやられるわけにはいかない。

地面に両手を突くと床に五芒星、安倍晴明判が浮かび上がる。

するとそこから大きな骸骨の腕が伸びてきて手に持った巨大な太刀で、

降ろされる巨人の爪を受け止めた。


まさか受け止められないだろうと踏んでいた巨人は驚きの表情を見せる。

その隙を楓は逃すことなく再び飛び上がるが鎧ムカデとの神融和をした姿へと変わっていた。


「得意ではないですが・・・。」


素早い手印で詠唱を終えると目の前で両手を組む。


混凝峰こんぎょうほう!!」


楓が魔術を使うと巨人が突然バランスを崩す。

何が起こったのかと確認すると巨人の下の床が盛り上がってきていた。

本来はコンクリートの山を作る術なのだろうが、人工的に作られたコンクリートは魔術操作が難しい。

そして何よりあの巨体は持ち上げるのは困難であり、バランスを崩す程度に収まってしまった。


「お待たせしました。」


自ら作った隙を見て蜘蛛の糸を使って移動し桃子と合流を果たす。


「流石やな。でも・・・。」


巨人は既に体制を立て直しつつあり、再び二人と戦うための新たな触手を体から生やし始めている。


「あいつ何本出してくんねん。いい加減にしてほしいわ。」


「あれを逐一対処していてはキリがありません。最低限の動きで攻めましょう。」


合流は果たしたが道を隔てた触手の壁が二人の移動範囲を狭めている。

このままだと逃げ回ることが出来ずに、足を止めて巨人の攻撃に対応しなければならない。


「・・準備が出来ました。」


徐々に追い込まれていった二人にこちらも戻ってきて立て直しの提案をしようとしていた時、

近くで仕掛けるための準備をしていた千夏さんが純恋に声をかける。


「桃子達も間合いないに入っている。頃合いやな。」


合図を受け取った純恋が太陽を作り始める。

先程言っていた作戦を本当にやる気なのかと思っていると、

突き刺さるような冷たい風が頬を掠めていった。


金烏きんう。」


手のひらに収まるような小さな太陽を作り上げると、何故か吹き抜けの上に向けて放つ。

体勢を立て直した巨人は純恋の太陽に対応するために身構えていたが、

思わぬ方向に飛んでいったことでほんのわずかに体の動きを止めてしまう。


「あほか。油断すんなや。」


その瞬間、上空からまばゆい光が放たれる。

何が起きるのか分かっていた俺達は光から目を逸らしていたが。

太陽の方向を追っていた巨人はあまりの眩しさに叫び声をあげる。


光から目を守るため頭を動かした巨人は不安定な床に再度バランスを崩し、後ろ向きに転がってしまう。


「・・イタカさん、巨人の真下に海水を吸い上げている触手があります。」


千夏さんが見えないはずの位置に指示を送る。

どうやって触手の位置を特定したのかと思っていると、千夏さんの肩に式神である雀が停まった。

雀からの情報で触手の位置を特定したようで、

ちーさん達の元に向かっていた雀が帰ってきたという事は向こうの戦闘は無事勝利を収めたみたいだ。


「わかった。」


指示を受けたイタカが返事をすると広範囲に放たれていた光が絞られていき、下から何かが燃える音が聞こえてくる。


「・・切れたぞ。」


「お手柄です。見えない位置をよく狙ってくれました。」


千夏さんが出した案。それは八海で使った氷の反射を使った太陽の光を一点に集める技法を使う事だ。

太陽の光や熱は辺り一面に放ってしまうため威力を分散してしまう。

それを集めればいつも以上に高火力を放つことが出来るため、

海水を含んだ巨人の鱗を貫くことが出来ると千夏さんは踏んでいた。


だが肝心な氷を作るための水分が無く、どうやって氷を作り上げるかが課題だった。


「・・いついかなる時でも襲われる可能性を考え、

この建造物の全体をしっかり掌握していたとは・・・さすがだな。」


千夏さんがイタカに凍らせるように指示していたのは天井に生えた木々の根。

このショッピングモールの屋上には庭園があり、千夏さんはその木々の根を魔術によって成長させ

天井に張り巡らせていた。


「敵が操る水分が海水で良かったです。

もし通常の水を操ることが出来たのなら邪魔されていたかもしれません。」


土と水の力を掛け合わせて木の魔術だがその片方の水の力は相手の方が格上。

だが海水に特化していたため野や山に生えている植物に対しては、効力が無かったのだろう。

もし屋上に生えていたのがマングローブだったらこの作戦は失敗に終わっていた。


「とどめやな。桃子、頼むで。」


目くらましを喰らい体制を崩され、肝心の再生の源である海水の供給を絶たれた巨人はただただ無防備。

何とかしようと触手を辺り一面に放っているが、桃子たちは既にとどめの一撃を放つ準備を整えていた。


「させませんよ・・!」


視界が確保できず、とにかく桃子たちを近づけさせまいと闇雲に暴れる触手目掛けて飛び跳ねた楓が

両手から蜘蛛の糸を放つ。

得物の動きを封じるための耐久性があり、粘着性もある糸が暴れる触手をからめとっていた。

一本に束ねられてしまった触手は何とかしようと糸を引き切ろうと力づくで暴れる。

流石のバカ力に糸はプチプチと音を立てるがもう遅い。


「いくで・・・!!!」


先程巨人の爪を受け止めた太刀は、天井を破壊しつつ天に突き立てられていた。


「はああぁぁぁぁぁ!!!!!!」


桃子の咆哮と共に振り下ろされた太刀は無抵抗の巨人の腹部に直撃し、そのまま床に叩きつけられる。

揺れる床に何とか耐えつつ事の結末を眺めていると、

あまりの衝撃で起きた砂煙の中を動く影は見えてこず晴れた先には体を叩きられ、

大量の血を流していた巨人の姿が目に入った。


「終わったな・・・。」


海水の再生もできないはずだが念のために楓が巨人の様子を確認すると

動く気配はないとこちらに戻ってくる。

報告を受け、神融和を解いて一息つくが巨人によって破壊された目の前に通路は当然使うことが出来ず、

回り道をするしかない状況になっていた。


「ひとまずどうしましょうか・・・。」


「一息つきたいところですが移動しましょう。

ちー達が戦闘を終えこちらに向かって来ていますが、

あちらも通路を破壊されてしまいここにいては合流が果たせない状況のようです。」


雀から得たちーさん達の詳細な情報は俺達の計画変更を余儀なくさせた。


「私の糸で道を作れば真っすぐ向かえますが、所々崩れて下に落ちてしまうリスクもありますし・・・

そもそも真っすぐ進んでは逆に遠回りになってしまうかもしれませんね。」


進む道は限られているが幸い近くに上に向かう階段がある。

下は海が敷かれているので移動は不可能。であればひとまず上に向かうしかないようだ。


「・・行きましょう。」


合流を果たすため、移動を始める。

土御門の配下との戦いに勝利し、幸先良いスタートは切れたように思えるが

あれだけ強い配下をもった土御門の実力はそこが知れない。

不安材料が増えたがそんなことは関係ない。

奴に勝利を収めるだけを考えて階段を駆け上がった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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