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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第三幕 残された二人との契約
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第百四十一話 待ちうけていた二人

「どれにしようかな・・・。」


目の前で楓が服を選んでいるが、俺の手をしっかりつかんで離さない。

なんでこうなってしまったかは一時間ほど前まで遡る。


——————————————————————————————————————————————


「・・・・・・・・・・・・・。」


共に一夜を過ごした後、お互い気まずくて最低限の会話しか交わさずに家を出た。

迎えに来てくれた魔導車に乗った後も二人は固まって距離を取って座る。


純恋は俺のじっと睨み、それを見た桃子はなだめようとして一瞬俺の方を見ると

顔を赤らめて体を縮めてしまう。

楓と千夏さんの時はこんな感じではなかったのに・・・。

俺をよく知っている幼馴染と落ち着いた年上だったので気を使ってくれたのだろう。


「あの・・・・。」


話しかけても返事が返ってこないが、このままでは埒が明かないと続けて話し続ける。


「何処に・・行くんだ・・・?」


外に出たはいいが行き先を聞かされておらず、今回はさすがにしっかり聞いておきたい。

すぐに返答が帰ってこなかったが、

俺を気遣った桃子が純恋の肩を指先でつつくと睨みつけながら口を開く。


「・・買い物。」


「かい・・ものね。その・・・どこのお店に行くんだ?」


行ったらわかるとだけ言い放ち、そっぽを向いてしまう。

それだけ聞くとまた予想外の所に連れてかれてしまうかもしれないと不安になるが

桃子が小さく前に行ったことある所だと言ってくれた。


とんでもない所で買い物を行ったことはない。

と言うか・・・純恋達と買い物に出たことは数えるほどだ。


(どこだろう・・・・。)


主に日用品を買い足しに出たぐらいで、三人で見て回れるような所には出たことが無い。

それも忙しい日々が続いたからなのだが・・・そんな所を二人が買い物に行きたいというだろうか?


「・・・・・・あっ。」


考えていると一つだけ思い当たる節がある。

確かに一度行ったことがある場所ではあるし、色々な所を見て回ることが出来るだろう。

そして・・・俺達にとって大切な場所だ。楽しい思い出となることは間違いない。


思い当たる所に着くにはまだ時間がかかる。

それまでに少しは会話できるようにしておこうと二人に話しかける。

相変わらず返答が帰ってくることは少ないが、沈黙が流れる時間が短くなっていった。


———————————————————————————————————————————————


魔導車が降りた先はとあるショッピングモールの前。

国學館に来てすぐに楓と行った場所であり、純恋と再会を果たした場所でもある。


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


降りた先で出迎えてくれた人物が俺の事をじっと見つめてきている。

それが怒りから来るものなのか、悲しみから来るものなのか分からないが

あまりの罪悪感からその顔を直視することが出来なかった。


「待たせたか?」


「いえ、丁度着いた所ですよ。」


純恋と桃子が出迎えてくれた楓と千夏さんの元へ駆け寄っていく。

まあ、あのお香があった時点で察していたことだが・・・。


「どうでした?」


千夏さんと二人が小さい声で何か話しているが耳に入ってこない。

そんなことより表情を変えずにこちらに歩いている楓の姿が眼に入っていたからだ。


「な、なにがでしょう・・・?」


「とぼけるのは無駄だと分かっているでしょう?」



先程と声色が変わっていないはずなのに強い威圧感を感じ、頭が自然と下がっていく。


「す、すみませんでした・・・。」


不貞者・・ではない。

誰とも付き合っていないからそれだけは確かなのだが、むしろそれが一番悪いことなのだろう。


「色男は辛いですね?色んな女の子に言い寄られて・・・いつか後ろから刺されますよ?」


言い返す言葉もない。俺は黙って頭を下げる事しかできなかった。


「・・意地悪し過ぎましたね。

龍穂さんもご存じでしょうが、この事は私達も知っていますしなんなら手を貸しています。

なので別段怒っていません。純恋さん達の実力が上がる手段の一つでもある事ですし。」


話しながら俺の顎に手を添え、目を合う位置まで頭を上げる。


「そして・・・龍穂さんが勝利すれば重婚という選択肢が生まれる。

ですが・・・そうなった時、”順番”を決めなければならないのですよ?」


「じゅん・・ばん?」


「正室と側室。現代では重婚は許されていませんので制度の整備がされていない。

なので以前の制度が適用されるでしょう。

龍穂さんは私達に順番をつけないといけない立場になります。

そのことを十分に理解した上で行動していただかないと困りますよ?」


「でも・・・・。」


「言いたいことは分かります。まだ誰も龍穂さんとお付き合いしていません。

なので私の早とちりと思われるかもしれませんが、少なくとも肌を重ねる事を許すほどに

龍穂さんに好意を抱いている事は確かですよ?」


俺の眼をじっと見つめながら話し、にっこりと笑顔を浮かべ頬から手を離す。


「先の事を考えすぎてもしょうがないですが・・・

使命を達成した後をどうやって楽しむか、それを考えるのも大切ですよ?

なので誰を選ぶか、そしてその順番はどうするかを少しは意識しながら

私達と接してもらえるとありがたいです。」


そして俺の手を取ると、話している三人の元へ連れていった。


「お話し、終わりました?」


「ええ。今は報酬の話しをしていた所です。」


千夏さんはいつも通りのにっこりとした笑顔で楓に答える。


「そうですか。じゃあまずは・・・私からでいいですか?」


「良いでしょう。では終わったら連絡をください。すぐに向かいますから。」


報酬・・・?

昨夜のことは千夏さん達も知っているはずだが、何か取引を交わしたのだろうか?


「じゃあ龍穂さん、行きましょう。」


「えっと・・・どこに?」


何をされても文句は言えないが、さすがに何をする気なのか聞いておかないと心の準備のしようがない。


「どこにって・・・買い物ですよ。」


ショッピングモールを指差し、当然のことを言ってくる。


「そ、そうだよな・・・。ところで・・・・。」


報酬の話しをしようとしたが手を掴まれて歩き出してしまい、

転びそうになりそうな足を必死に動かし楓についていく。

今度は何が起こるかと思いながらの心臓に悪いショッピングが始まった。


———————————————————————————————————————————————


「これ、どっちが好みですか?」


楓が二着のワンピースをこちらに見せてくる。

まだ肌寒い日が続いているが、店内は春に向けての商品が並んでいた。


「・・・こっちの方が良いじゃないか?」


白を基調にした青い花柄のワンピースを指差す。

もう一方の青いワンピースも良いが、元気で明るい楓にはそちらの方が似合うだろう。


「私に似合う方を選んでほしいわけじゃないんですよ?龍穂さんの好みが知りたいんです!」


答えに満足いかないのか、頬を膨らませながら顔を近づけてくる。


「んー、それでも俺はこっちだな。

青い方も大人っぽいくていいけど・・・・うん、こっちの方が似合ってる。」


楓の手を動かしワンピースをあてがうが花柄の方が断然似合っている。


「そ、そうですか・・・・。」


しっかりとした答えを返したにも関わらず、楓はそっぽを向いてしまう。


「分かりました・・・。」


「じゃあそっちを買うのか?」


「いえ、両方買いますよ。」


そう言うと両方を俺が持っている買い物かごに入れる。

今までの話し合いは何だったんだ・・・。


また服、服、服。帽子から靴下、そして下着。

身に着ける全ての衣服で同じような会話をして、全て買い物かごに入れていく。


「ふぅ・・今日の所はこれで勘弁しときますか・・・。」


楓が満足するころには買い物かごがいっぱいになっていた。

レジに持っていくが俺が持っている買い物かごを見た店員さんは驚き、

大急ぎでレジを打ち込んでいくとかなりの金額まで膨れ上がる。


「えっと・・・・。」


財布からお金を取り出す楓だがレジに列が並んでおりm

これ以上時間がかかると迷惑が掛かってしまうのでポケットからカードを取り出した。


「これでお願いします。」


陰陽師に合格した際にもらったクレジットカード。

本来であれば年齢制限に引っかかり作る事は出来ないが、

かなりの金額が振り込まれるため一々取り出すのは不便だろうと真田様がこっそり作ってくれていた。


「えっ・・・・?」


「後ろ、並んでるからな。」


楓が驚いた表情でこちらを見つめているが、構わずに支払いを進める。


「いや、私の買い物・・・・。」


「いつも助けられているからな。足りないぐらいだけど少しは返させてくれ。」


いつものお礼だと支払いを済ませると、服が入っている袋を持ってお店を後にする。


「本当にいいんですか・・・?」


「ん?大丈夫だよ。せっかく給料を稼いだのになかなか使う所が無くて困ってたんだ。

こういう風に使えてむしろありがたいくらいだ。」


高校生には使えないほどの給料をもらっているが、まったく手をつけられていない。

別に使わずに貯金すればいいのだが、働いた対価を使える機会にしっかり使うことも大切だろう。

その後何店舗かお店を回り、両手に袋を持ちながら移動していると丁度よくお昼の時間になる。


「そろそろお昼ご飯食べないか?」


動き回ってお腹はペコペコだ。何かお腹に入れないとこの先の買い物に体が付いて行かないだろう。


「ん~、タイムアップですね。」


ショッピングモール内にある大きな時計を見て楓が残念そうにつぶやく。


「・・?何がだ?」


「私の時間は終わりってことです。」


俺が持っている袋を奪われ、意味が分からないでいると後ろから声をかけられる。


「おう!楽しんだか?」


振り返るとそこには謙太郎さんと伊達さん。そして青さん達が立っていた。


「あっ、謙太郎さん。青さん達の面倒をありがとうございました。」


「面倒なんて見てないぞ!むしろ多くの事を学ばせてもらったからな!」


誇らしそうに立っている青さんだが、

そのほとんどは漫画の事であまり良い教えではない事だけは分かる。


「さて、ここまでよろしいですか?」


「うむ、付き合ってくれて楽しかったぞ。」


謙太郎さんは横にいる青さん達にに別れを告げると

三体の式神がこちらにやってきて俺の中や札に戻っていた。


『少し休む。起こしてくれるなよ?』


そう言うと三体とも念が途絶えた。

基本的には睡眠を必要としないが、遠くにいた事により神力供給が絶たれていたので

休むことで回復を早めるつもりだろう。


「・・だいぶ夜更かししたみたいですね。」


「ははっすまん!ついつい熱が入ってな!!」


謙太郎さんの眼の下にもうっすらと隈が見えている。大方夜更けまで漫画を見ていたのだろう。


「じゃあ俺達も行こうか。」


伊達さんが楓の荷物を持ってどこかに行こうとしている。

何かわからないが俺も付いていこうとすると楓に服を引っ張れる。


「龍穂さんはこっちじゃないですよ?」


振り返るとどこかへ指を差す楓の姿があり、

その方向を確認するとにこやかな笑顔で立つ千夏さんの姿があった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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