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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第三幕 残された二人との契約
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第百四十話 決意の式神契約

何もすることが無く部屋でじっと待っていると遠くから足音が聞こえてくる。

カランコロンとリズムよく刻まれわざとらしい足音を立てており、時が来たことを俺に知らせていた。

扉の前で止まった足音。ノックさえせずに開かれた先には純恋や桃子でもなく、

綺麗に着飾った花魁姿の玉藻が立っていた。


「お晩どす。」


高い下駄を履いている玉藻の前は俺を見下しながら挨拶をしてくる。


「どうや?準備は出来ているか?今から小娘二人を貪る準備は。」


自分の使役者を守るために言い放った言葉なのだろうか?

数多ある言葉の中から俺を蔑むものをあえて選んでいる。


「・・・出来ているよ。」


貪るなんてことをする気はさらさらないが・・・

これから行う式神契約の内容を考えれば間違いないのだろう。


「ほう・・・・。覚悟、決まっとるみたいやなぁ。いっぱい唆した甲斐があったわぁ。」


頭の先からつま先まで、舐めるように俺の事を見た後に音を鳴らしながら俺の前に立つ。


「また・・ずいぶんといい男になったなぁ。

そんなアンタを喰らう好機やけど・・・今日の所はあの小娘たちに譲ってやるわ。」


頬に手を当て、じっとこちらを眺めてくるがすぐに手を離し俺に背を向ける。


「ついてき。寝床に案内するわ。」


そう言うとゆっくりと足を踏み出した。


「どうや?私の言う通りやったやろ?」


まるで花魁道中のような歩みの遅さであり、あまりの遅さに横に並ぶと話しかけてくる。


「ああ見えて、好いた男を支えられるほどには甲斐性があるって言うたやん。」


確かに伏見稲荷神社を観光している時に言っていた。


「・・そうだな。」


「なんや、不愛想やん。嫌なんか?純恋達と一緒に寝るのが。」


「嫌なわけじゃないよ。ただ・・・。」


俺は立ち止まり、玉藻の方を見る。


「別に俺達はお前の手のひらの上で踊っているわけじゃないよ。」


今までの発言やこの上から目線は、おそらくこの状況が自分のおかげだと思っているのだろう。

この流れになったのは自分の思惑通りだと思っている玉藻に釘を刺す。

純恋や桃子は自らの意志で俺を選んだ。この東京に来たのも、俺とも式神契約もだ。

その選択が誰かの手によって奪われてはならない。例えそれが自らの式神だったとしてもだ。


「・・ふふっ。」


俺の言葉を聞いた玉藻は少し間を置いた後、口元を抑えて微笑む。


「青いなぁ・・・。そんな事、当たり前やろ?」


そして俺に顔を近づけてきた。


「小娘達を手のひらの上に乗っけるんは簡単や。

純恋は私と契約を結んでいるから考えている事は手に取るようにわかる。

そんで桃子は長い事見てきたし・・あの子はなんだかんだ言って純粋や。口車の乗せるのは簡単。

でもな・・・アンタは違う。」


大きな目を細め、睨みつけてくる。


「純粋やけど・・・自分事をよく分かっとる。

まるで・・・”自分以外の奴を心に飼っているみたい”にな。」


そう言うと俺の胸に指を突き立ててきた。


「アンタ、宇宙の神さんと神融和できるようやけど・・・その姿を見たことあるんか?」


俺の中に封じ込まれていると言われているが、

神融和が出来るという事は少なくともハスターは力は解放されている。

だがその実体は見たことが無い。玉藻の指摘に返事すらできなかった。


「陰陽とは全ての事柄が二つの属性に分けられているという思想。

男は陽、そして女は陰とされているけど・・・。

陰陽に例えるなら、アンタの陽の力には陰が混ざっている。

きっと・・・宇宙の神さんと魂が一体になっているかもしれへんね。」


「一体・・・?」


「だから自分を俯瞰的に見れる。

自覚はないかもしれへんけど・・・本当に心の中にバケモンを持っているという事や。

そんなアンタをいくら手のひらの上に乗せようとしても、

もう一人のアンタが指図して指の隙間からうまく逃げられてまう。

そんな分かり切っている事、私はせんよ。」


玉藻の指摘により俺が気になっていたあまりにも俯瞰的な思考になる理由が判明する。

俺の中にはハスターの意識が存在しているようで、

一つの魂の中に二つの意識があることで俯瞰しているように物事を見えているらしい。

それを理解したところで出来る事は何もないが、このまま生活していて大丈夫なのだろうか?


意識が二つあるという事は魂が混同している事だ。

混同が続けばよいのだが、ハスターの力が俺を飲み込んでしまえば

俺と言う意識がこの世から消えてしまう。


(・・・・・・・・・。)


これは・・・兼兄や毛利先生に相談したほうがいいかもしれない。

だがそれは学校に帰ってからの話しだ。


「せやから・・・私はアンタの神さんごと食べることに決めてん。

アンタらを心の底から信頼させて・・・心をドロドロに溶かしたる。

租借すらいらないくらいにして、一気に飲み干そうと思ってるよ?」


玉藻の前は俺の中にハスターごと手中に収めようと企んでいるようだ。


「純恋達はアンタについていこうとしている。

ってことは私の手のひらにアンタはずっと乗っかってるちゅうことや。」


そう言うと再び音を立てながら歩き出す。


「アンタは純恋を見捨てることはせんやろ?どれだけ手からすり抜けようとも結局は戻ってくる。

どうせこれから長い付き合いになるんや。仲良うするのがええと思うで?」


最期の他人事は無責任な言葉だが、それは純恋を離さないという俺への信頼の証でもある。

大切な人達を守ること。純恋や桃子は既にその中に含まれている。


猛達は生きているが守ることはできなかった。

これ以上仲間を失わないためにも純恋達には近くにいてもらった方が都合がいい。

それに・・・いてもらった方が嬉しいのもある。

共に戦ってくれるだけで心強いし、その方が精神的にも楽だ。


「・・・・・ああ。」


日ノ本に大混乱を起こした大妖怪だが、今は純恋の式神。

仲良くしたとしても腹の中で何を考えているかわからない。

何か起こした時に対応できるように力を付けておかなければならないと

心に決めて玉藻の後ろについていく。


「ここやで。」


歩いてすぐの所に両開きの襖の部屋にたどり着く。


「ここで二人がアンタを待っとる。知識だけは仕込んであるから楽しんでき。」


俺の背中を押すと玉藻は振り返って足を踏み出す。


「来ないのか?」


「分かっとらんなぁ。乙女っちゅうのは大切な記憶は大切な男だけと共有したいもんやで?

それとも・・・私としたいって言うんなら、無理やりにでも押しかけてええけど?」


そんな気はさらさらないと首を横に振ると、面白くないといった顔をして廊下を歩いていく。

大切な思い出か・・・・。楽しい記憶になるかは・・俺次第でもある。

深呼吸をした後、襖についた引手に手をかけてゆっくりと開く。

開けた瞬間、隙間から甘い香りが漂ってくる。これは・・・以前嗅いだことがある香りだ。


襖を開けるとそこには大きな布団の上に正座で座る

丈の長い肌襦袢のみを着ている二人の姿があった。

ゆっくりと襖を閉めながら中を確認すると、部屋を照らす灯りは枕元に置かれている行燈のみであり、

その隣には甘い匂いの元である香炉が置かれている。


この匂いはサキュバスが放つ甘い香りでであり、とうぜん淫気が含まれている。

恐らく楓が二人に手渡したのだろう。この匂いを嗅ぐと・・・”あの時”を思い出す。

布団の下には式神契約用の印が刻まれており準備は完璧だった。

二人の元へ足を進めるが俺に気付いていないのか眼を閉じて、ゆっくりと深呼吸をしている。


肌からは玉のような汗が流れており、淫気の影響を受けて体が火照っているのだろう。

二人の対面に座るとゆっくりと瞼を開き、とろんとした顔で俺の方を向くと手を前に出して頭を下げる。


「・・不束者ですがよろしくお願いします。」


ずいぶんと畏まった挨拶だが、

日ノ本でも最上級の家柄である純恋がいるからこそなのだろう。

返事を返さないと失礼に当たるとこちらこそと挨拶を交わし、

頭を上げた二人はじっとこちらを見つめてきた。


不束者だという事は俺がリードしろという事だ。

だがこのまま畏まったままいても楽しい記憶にはならないと二人の方へ寄っていき両腕を広げた。


「純恋・・おいで。」


抱き合えば少しは緊張がほぐれるかもしれないと純恋の名前を呼ぶと、

ゆっくりと近づいてきた純恋は俺の体を強く抱きしめてくる。

俺も優しく抱きしめ返すと胸の中でため息を吐く。

少しは緊張がほぐられたかと思い、力を弱めると純恋は離れるが

頬はさらに赤くなり、呼吸が荒くなっていた。


淫気に晒された純恋が俺の匂いを嗅いだことでさらに興奮させてしまったようで

失敗したと思っていると、桃子が近づいて来て両腕を広げる。

純恋にした手前断ることが出来ずに同じように抱きしめると

俺の胸の中で深く深呼吸をした桃子は純恋以上に呼吸を荒げていた。


すっかり出来上がった二人は肌襦袢の前紐を解いてさらに俺に近づいてくる。


「痛くしたら・・承知せんで・・・。」


いつもの強気な口調に戻った純恋だが、とろんとした表情の中には不安が見え隠れしていた。


分かったと頷き純恋の方に顔を近づける。

柔らかい唇が触れる感触が伝わってくると、どこからか入ってきた隙間風が行燈の灯りを吹き消した。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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