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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第三幕 残された二人との契約
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第百三十六話 二人の気遣い

「遅いな・・・。」


寮のエントランスで純恋達を待つ。

昨日疲れ切って寝てしまっている間にどうやら携帯に連絡が入っていた。


「昨日の埋め合わせをしろ。明日九時にエントランス集合。」


俺の用事など全く気にしない文章が送られてきており、やはり機嫌は治ってなかったようだ。

埋め合わせ・・・。エントランスに集合という事は少なくとも外に出かけるという事だろう。


「お主ら・・・準備は良いな?」


三体の式神が人間の姿で何か話している。

外に出る時は青さんに声をかけなければならない。

もし掛けなかった場合、拗ねて一週間ほど話しを聞いてもらえないからだ。


「ああ、私は新刊を買ってくる。」


「俺は古本だ。回る店舗数が多いから青と手分けして回る。」


あまり気が進まなかったが、仕方ないと明日の予定を伝えるとすぐにこうなってしまう。

愛称で呼ぶほどの仲なのは非常によろしいことだが、

山のように詰み上げている漫画をまだ買いに回るようだ。


「三人とも、生活スペースが無くならないようにしてくださいよ?」


「安心しろ。あまり読まないのは娯楽室に置いてよいとアルから許可を得ておる。」


そこまでして読みたい漫画を集めたいかと言いかけたが、

この人たちにとっての逆鱗なのでため息と共に吐き出す。


「まあ・・・そうなっているんだったら何も言わないですけど・・・・。」


いっそのこと売ってしまえば良いと思うのだが、もう一度見たくなってしまうらしい。

気持ちは分かるがタブレットで購入すれば場所を取らないと言ったが紙で見たいと言ってきかなかった。

こだわりと言うのはあまり他人に理解されないものだ。

効率という事を度返ししてもその形を崩すことはない。


なんてかっこよく言ってはみたものの邪魔な物は邪魔だ。

在校生からしたらいい環境なのかもしれないが、

何時しか娯楽室が図書室に変わってしまうのではないだろうか?


「おう、待たせたな。」


そんな俺の式神達を眺めていると純恋と桃子がエントランスにやってくる。


「いや、待ってな・・・いよ?」


なんか・・・いつもとは違う雰囲気の二人を見て違和感を感じてしまう。

二人は日頃からオシャレに気を使っているなと思っていたのだが、

今日はいつも以上に大人で気合いが入っているように見える。


「なんや、文句あるんか?」


「・・いや、二人共綺麗だなって思ったんだ。」


変に言いつくろってもまた機嫌を損ねるだけだと、素直な感想を二人に返す。


「・・・ふん。褒めても何も出えへんで。」


純恋のそっぽを向いてそっけない返事を返してくるが耳が赤く染まっている。

その様子を見て、ひとまずは正解の答えを出せたのだろうと安心した。


「・・・ありがと。」


桃子も綺麗な長い髪をくるくるといじりながら照れくさそうに小さく返事をしてくれる。

いつもなら純恋の事を気遣ってよかったななんて声をかけるが、

桃子に向けられた言葉をしっかり受け取ってくれているようだ。


「で、どこに行くんだ?」


集合を掛けられたという事は純恋達が俺をどこかに連れていきたい所があるのだろう。


「お茶しに行こうと思ってな。最近休日らしい休日を過ごしてないやろ?」


気合いの入っていたので色々な所を回るのかと思っていたが、行き先はカフェか。

昨日夕食に遅れてきた俺が疲れてきている事を察してくれているのか

ゆっくりとした休日を過ごすようだ。


「そうだな。ちょっと・・ゆっくりしたいかも。」


出来れば賀茂忠行からの襲撃を警戒しない所でゆっくりしたいところだが、そんな場所は存在しない。

青さん達にも休暇を与えなければならないし、

警戒は俺がしなければならないがそれでもゆっくりしているという感覚だけでも

心身共にリフレッシュできるだろう。


「・・決まりやな。じゃあ行こか。」


純恋達の提案に前向きな答えを返すと二人の手が俺の方へ伸びてくる。


「いや、その前に青さん達を送らないと・・・。」


青さんは多少知っているが、イタカと八咫烏様はここからへんの土地勘はないだろう。


「大丈夫や。頼んである。」


純恋が後ろを向くとエレベーターが開く。


「おっ!準備は出来ているみたいだな!」


そこには謙太郎さんと伊達さんの姿があり、青さん達の元へ歩いて行った。


「おおっ!謙太郎!!」


「師匠!行きましょうか!!」


「あの二人に青さん達の世話を頼んである。だから安心してお茶しに行こうや。」


以前青さんをお願いした謙太郎さんと伊達さんが見てくれるのなら安心だ。


「疲れているんだろう?心を休めに行ってこい。」


伊達さんが俺の背中を押してくれる。


「どこに行きますか?お供しますよ!」


会話が弾んでいる二人はすぐにここから出る事はないだろう。

見送りは不要だと判断し、純恋達ともに玄関に向かう。


出来れば手を取ってあげたかったが、

二人と手を握ると両手が塞がりいざという時にすぐに対応できず、

危険が迫る可能性があるので俺の小脇を二人に歩いてもらいながら玄関を出る。


「えっ・・・・?」


玄関の前には普段乗らない俺でさえ分かるほどピッカピカの高級車が止まっている。

しかも車輪が無い魔導車だ。ノエルさんが扱っていた物とは違い、

車の側面には皇族の印が張られている。


「さっ、行こか。」


運転手が一礼の後に通常とは反対方向に開くドアを開くと、

純恋が俺の手を取って乗るように催促をする。


「龍穂のために純恋が用意してくれたんやで?

これなら少しは安心して移動できるってな。」


人混みの多い電車を使う際は、怪しい人物がいないか常に気を張っていた。

タクシーを使う際も密室内でないが、何が起きても良いように警戒を続けていた姿を

純恋は覚えていてくれたのだろう。

純恋が呼んだという事は皇族に仕える人であることは間違いない。

であれば警戒すること自体が失礼に当たる。


「・・ありがとう。」


少々無理やりだが純恋達は俺に本気でリラックスしてほしい様でその気持ちが行動で伝わってくる。

感謝の気持ちを口にしながら魔導車に乗ると中は広々としており、対面で座ることが出来た。


一度乗ったことがある魔導車と同じ内装をしていたがソファーの座り心地が格段に柔らかく、

最高級品だということが感触から伝わってくる。

国學館で使われていたのも相当高価だとは思うがさすがに格が違った。


(すごいな・・・。)


純恋と桃子はリラックスしながらソファーに座っているが、

高級すぎて肌に合わないというか・・・変な緊張をしてしまい気が気ではない。


「そんな緊張したら意味無いやん。こっちおいで、景色楽しめるで。」


そわそわしている俺の見た桃子が、隣を叩いてこちらに来るように催促をする。

広く使えるのでわざわざ固まる必要がないと考えて座ったが、

誘われた手前断るのも悪いと桃子の隣へ座る。


「おっちゃん。”あそこ”まで頼むで。」


運転手に行き先を伝えると、反対側に純恋が座ってくる。


「別に遠い所に行くわけやないからそんな緊張戦でもいいのに・・・。」


「だったらどこに行くか言ってくれよ・・・。」


言動と目の前の情報に差異がありすぎて、一体何をする気なのか勘ぐってしまう。


「・・ここから少し離れた所や。そこでお茶をする。何も嘘はついてないで。」


「お茶するだけだったらなんでこんな送迎が必要なんだ?それに・・・・。」


色々おかしい所があると少し探りを入れるが、二人は表情を崩さない。


「・・しゃあないやろ。誰も来ないような所でゆっくりしたかったんや。

だからじいちゃんに頼んで皇族のみが入れる所を貸してもらったんやで?」


だから服装もきちんとしたものを着てきたと二人は話す。


「ああ・・そういう・・・。」


「ほんまは言っていきたかったけど一応な。別に涼音を信頼してない訳や無いで?」


新入生や三道省の職員の出入りはあった。

俺や純恋達が三人で行動していると知れれば奴らは好機だと攻めてくるだろう。

そんな二人の気遣いに気付くことが出来なかったと自分を責めるが、

そんな暗い雰囲気を醸し出せばそれこそ二人が悲しむだろう。


「・・ありがとう。」


ここから楽しく過ごすために二人がもらって嬉しい言葉を選んで送る。

感謝の言葉を受けた二人は笑顔で気にするなと言ってくれた。


魔導車が動き出し宙に浮かぶ。

約半年前に同じ景色を見たと考えると濃密な日々を過ごしてきたものだ。

三人で上から見る東京を眺めながら目的地へと進んでいった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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