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第百三十一話 決着とこれから

勝負が決まったが、目の前が真っ白で誰が来ているか分からない。


「だ・・誰?」


思わず聞いてしまうが答えの代わりに頭に鈍い手刀が飛んでくる。

姿は見えないが、こんなことをしてくるのはただ一人だろう。


「八咫烏様、嫌がらせはやめてくだされ。」


聞こえてきた長野さんの声は平然としている。

この光の中で何故そんな声が出来るのかと思っていると、眩い光を放つ八咫烏様の光が収まっていく。


「抑え・・られるんだ・・・。」


視界が徐々に戻っていく。

てっきり光り輝いている姿が本来の姿だと思っていたが、

冷静になって考えるとずっと光っているはずがない。

白い世界からいつもの日常の景色に戻っていくが、ただ一点だけおかしい所がある。


「・・・・・・・・・。」


この状況が読めていたのか全員がなぜかサングラスを掛けている。

しかも全部がティアドロップ。純恋達がこんな渋いサングラスを持っているはずがない。

長野さんが持ってきたのだろう。


「これで調伏の儀は完了したわけだ。これで八咫烏様は龍穂の式神となり、強力な仲間になったな。」


こちらをサングラス越しに眺める長野さん。渋い姿と言わざるおえない。


「想定していた時間より早く終わってしまったな。

放課後を迎え、少し指導を付けようと思っていたんだが・・・

龍穂の疲れているだろうし、何よりキリが良い。今日はやめておくか。」


長野さんは陽の高い空を見ながらつぶやく。


「龍穂がもっと手こずると思ってたんか?」


「別に予定が狂ったことに対して嫌みを言ったわけじゃない。

もちろん龍穂がこれだけ力を使いこなせることは想定外だった。

だが・・・八咫烏様の力があまり残っていなかった事、そして俺が思っていた以上に

興味を持っていたことで授業内に調伏の儀が完了してしまったのは驚いたよ。」


調伏の儀が相当長引くと予想していた長野さんだが、その予想は良い意味で裏切ることが出来た様だ。

丁度よくチャイムが鳴り、そのまま放課後がやってくるが

校舎の一枚の窓が勢いよく開くと掛け声と共に誰かが外に飛び出してくる。


「おまっ!!馬鹿野郎!!!」


窓の奥から急いで顔を出したのは藤野さんと伊達さん。飛び出してきたのは当然謙太郎さんだった。


「ははっ!面白いことをやっていたみたいだな!!」


座学の授業を受けたようで、戦闘での強い光が頻繁に窓から差し込んで来たことだろう。


「外部講師の長野先生の授業は気になっていたが・・・

こんなことをやるのなら無理やりにでも参加すればよかったな!」


何事かと思い窓の外を見ると俺と八咫烏様の戦闘が目に写ったわけだ。

謙太郎さんからしたらさぞ興味を引く光景だったはずだ。


「上杉謙太郎か。お前も次から授業に参加してもらう予定だ。」


近づいてきた謙太郎さんの姿を見た長野さんは、この人にとって嬉しい言葉を与える。


「本当ですか!?」


「ああ、お前の父親から連絡が入ってな。ぜひ授業に加えてやってほしいと頼まれた。」


ガッツポーズをして嬉しさを爆発させる。よほど俺達の戦闘が気になっていたのだろう。


「さて、無事やるべきことは終えた。

龍穂、八咫烏様から信頼を得られるような行動を日頃から心がけろよ。」


サングラスを外しながら今後について話し始める。


「俺の授業を出来るだけ一番遅い時間になるように春に言っておいてある。

そんでホームルームを終えた後、放課後に鍛錬をつけるから覚悟しておけ。」


「一番遅い時間の理由があるんですか?」


あえての時間指定には必ず理由があるはず。

気になり長野さんに尋ねると再び空を見ながら答えてくれた。


「太陽の影響が少ない日の暮れた時間での鍛錬が、これからの龍穂達にとって好ましいからだ。」


太陽の影響が少ない時間帯での鍛錬が俺たちに取って好ましい・・・?


「謙太郎の父に少しは説明を受けただろうが・・・陰の力は宇宙の力だ。

千仞との戦いは陽の力と共に陰の力を使うことが出来ないと話しにならない。

だが広く知られていない陰の力を引き出す場合、

太陽が出ている時間帯では辺りに陽の力が溢れており陰の力の感知がしづらくなってしまう。

だからこそ日の沈んだ時間での鍛錬で、お前達に陰の技術を叩きこむことが最善で最短の道なんだ。」


人間は昼行性の生き物だ。

狩りを得意とせず、広く視界を確保でき食物を探しやすいからこその習性であり

陽の光を上手く吸収する体の作りとなっている。

それすなわち陽の光に含まれる陽の力を受けやすく、宇宙の力である陰の力を

感知しずらいという事であり、陽の光が無い時間帯での鍛錬を長野さんは選択したのだろう。


「いい機会だ。前の様に少しだけ陰の力について語って本日の授業を終えることにしよう。

お前達は日ノ本で初めて陰の力を使った神を知っているか?」


色々な人から話しを聞いたが賀茂忠行がクトゥルフの力を得たのは平安時代だ。

それより前に日ノ本に陰の力を使った神・・・。頭の中を探るが該当する神は出てこない。

その場にいるみんなも答えが出ないようだが、一人だけ悩みすらせずに口を開く人物がいる。


月読命つくよみのみこと・・ですね?」


影の力を使う楓は長野さんの問いに自信の満ちた声で答えた。


「そうだ。天照大神の弟神である月読命。

月や夜を統べる神だと言われており影の力を使う神だ。

恐らく兼定から教わったと思うが、楓が使う影渡りや影分身は月読命の力を真似た術にあたる。」


太陽の神であり、陽の光が降り注ぐ世界を統治している天照とは対象に

月が登る夜の世界を統治している月読命。

夜の世界の力となれば当然陰の力だ。日ノ本で最初の陰の使い手と言われているのも納得できる。


「龍穂の風の力。そして涼音の氷の力を伸ばしていきたいところだが全体の力量、

そして戦闘力を上げると考えた時、楓が扱う影の力を他全員が扱えるようになることが先決だ。」


「影渡りは全ての影を移動できるわけではありませんが

マーキングをつけた影に移動することが出来ます。

マーキング方法は色々ありますが、代表的なものを上げるとしたら式神契約がその一つです。

契約した相手の魔力や神力を感知して影を行き来する。

それが出来るだけで連携の幅が広がりますので全員が覚える価値がある技術だと思います。」


高野との戦いでも楓の影渡りに助けてもらった場面があった。

楓だけではなく全員が扱えれば危ない場面も焦ることなく対処できるだろう。


「その技術の習得を目指していく。

現状・・・強い陽の力を使う純恋の習得が少し難しそうだが

他の全員はある程度の素質があると踏んでいる。」


「私にも・・・素質があるんですか?」


桃子が不安そうに尋ねる。

千夏さんは俺との式神契約を結んだ際に黒い風を扱えるようになったので、

影渡りの習得も期待できるだろうが桃子はその経験もなく自信が無さそうだ。


「ある。これは俺の感覚だが・・・。桃子、お前龍穂の力を取り込んだことはないか?」


素質があると言っている長野さんは桃子に驚きの問いかけをする。


「龍穂の・・・力ですか?」


「まあ・・・いや、うん。それならいい。」


意味が分からないという桃子を見て、ごまかすように場を流した。

俺の力を取り込む・・・という事がどういうことなのか察しがつかないが、

視界に入っている楓が不自然に俺から顔を逸らす。


(・・あいつ、何かしたな。)


嘘がつくのが下手な楓はすぐに顔や素振りに出るが、そのくせなかなか白状しない。

後で根掘り葉掘り全て搾り上げないといけない。


「と言うわけで、これから陰の力の中でも汎用性が高い影の力の指導を行う。

放課後は必ずここに来るように。

特に千夏と謙太郎は出来る限り来るようにしろ。卒業まで時間が無いからな。」


そう言うと長野さんは背中を向けて立ち去っていく。


「新しい力を身に付けられるのは良いことだが・・・終わりが来るのは悲しいことだな。」


その背中を見て謙太郎さんがぼそりと呟いた。


「ま、気にしていてもしょうがない。

そんなことより龍穂、何をしていたのか教えてくれ!!」


寂しそうな顔をしたような気がしたが、すぐに興味が八咫烏様に向かう謙太郎さん。

この光景を見られるのはあと少しだと思うと寂しくなってしまう。

そう思いつつも、八咫烏様との親睦を深めるために輪の中に入ったのだった。


——————————————————————————————————————————————


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


いつも通り綱秀との鍛錬を終えて自室に戻る。

するとそこにはソファーや床に寝ながら漫画を見ている三人の姿があった。


「おお、終わったか。八咫烏と戦った後に鍛錬とは元気だな。」


俺の式神達。

八咫烏様は当然だがイタカもつい最近契約を結んだばかりなのに、既に青さんの魔の手に染まっている。


「なんか・・・その・・・・。」


「ん?なんじゃ?言いたいことがあるのならいえ。」


言いたいことは山ほどあるが、長野さんに信頼関係を築けと言われているので、

強い言葉を言っていいのか分からなくなってしまう。

確か・・・八咫烏様は青さんが寝ているソファーの縁にいつも停まっていた。

という事は・・・漫画をのぞき込んでいたことになる。


「ふむ・・・なかなか面白いな。」


「そうじゃろう?続きは奥の部屋にあるからな。」


俺が実習などで稼いだお給料の三割程度は青さんの懐に入っているが

そのほとんどが漫画に変えられており、室の本棚は既に漫画で埋まっている。

本棚を補充してもそれでも入りきらず、床に積み重ねている状態だった。


(長野さんが言っていた俺への興味は・・・これじゃないよな?)


あまりの堕落っぷりに思わずため息が出てしまう。

鍛錬も終えて特にやることが無い。

寝室に置いてあった千夏さんから借りている宇宙に関しての本を手に取り、

ソファーに寝る青さんを座らせて本の虫の巣に入ることにした。





ここまで読んでいただきありがとうございます!

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