第百二十八話 ヤタガラスとの戦い
八咫烏様との戦いが始まった。相手は一人、人間ではないので式神の援軍はない。
「青さん、固まって動きましょう。」
人数有利は俺達にある。気を付けなければならないのは各個撃破。
広い運動場を上手く使うのなら二人離れて角度のある攻撃を行うのが定石だが、
八咫烏様ほどの強力な神様であれば強力な広範囲攻撃、そして早い攻めで各個撃破が可能だろう。
「分かっておる。龍穂こそわしから離れるなよ?お前が倒れたら調伏は叶わないからな。」
最近はこのような戦い方が多いが、個々の実力が上がってきており連携も高まってきている。
もし仲間たちがいたのならまた違った戦い方になっているだろう。
「ふむ、踏み込んで来ないか。では・・・こちらから行かせてもらおうか。」
動かない俺達を見て八咫烏様が動く。
今日受けなければならない授業はこれで最後であり、会議の関係でホームルームもない。
時間制限はなく焦る必要は一切なく、
ひとまず様子をしてどのような戦いを行うのが確認することにした。
行かせてもらおうといっていたのにこちらに来る気配はない。
だがその代わりに嘴を大きく開くと、そこから眩い光が俺達を襲う。
「くっ・・・!!!」
まるで本物の太陽のような強い光が放たれた。
光によって視界を奪われないように瞼を軽く閉じて手で光を遮る。
目くらましによるかく乱かと思っていたが、
高まる神力がそれが本命の攻撃だと俺達に強く知らせてきている。
そして神力がこちらに放たれたと同時に、高温の光線が俺達を貫こうとこちらに飛び込んで来た。
「!!!」
純恋が放つものよりも強く、そして太い光の光線を俺達ごと焼き焦がそうとしてきた。
二人共を狙った攻撃であり、芯から逸れていたことが功を奏し何とか身を躱して前を向く。
「避けたか。まあこれぐらいはやってもらわんとな。」
避けたことを確認した後、翼を羽ばたかせ天空へと舞い上がる。
そして俺達の方を向き続けている太陽を背にし全身を陽の光と同じ色に輝かせると、
大きく振るった翼から光の光線がまる雨のように降り注いだ。
「・・黒い空!!」
数えられないほどの光の束をそのまま受ければ流石に避けきれない。
あれが体に触れた瞬間皮と肉、そして内臓を焼き焦がし体を貫くだろう。
流石に体一つで何とかできないと、俺達の俺に広範囲の漆黒の風を作り上げ光の束を防いでいた。
「流石の・・実力じゃな。」
光の通さないほどの漆黒の風だが、操作している魔力がどんどん少なくなっていくのを感じる。
高温の光に焼かれていっていずれ貫かれるだろう。
「ええ、このままじゃ防戦一方です。こちらから仕掛けないとまずいですね。」
開戦から時間はあまりたっていないが、激しい攻め立てに何も出来てない。
「どうする?何か策はあるか?」
珍しく弱音を吐いたなと青さんの方を向くと、
その顔は決して弱弱しい表情ではなく、どこか楽しそうな表情であり俺に期待の視線を向けていた。
「・・ええ、ありますよ。」
だがこのままやられているわけにはいかない。反撃の策は思いついている。
「イタカ、来てくれ。」
太陽の化身であることからイタカを初めから呼んでしまえば狙われるだろうと控えてもらったが、
この状況だったら大丈夫だ。
姿を現したイタカは何よりも先に俺に対して口を開く。
「あまり期待するなよ?見た限り、アイツの前じゃ俺の力はほぼ完封されてしまうだろう。」
「相性が悪いのは分かっているよ。だけど・・・やれることはあるはずだ。」
氷の属性のイタカを流石に無防備に八咫烏様の前に出そうとは思っていない。
「ここで青さんと一緒に待機しておいてくれ。念で指示を送る。」
二人にはカウンターの役割を担ってもらう。
危険な役目だが俺も補助を行うし、二人ならやってくれるだろう。
「分かった。じゃあ一人で出るんだな。」
「そのつもりだ。それに・・・・。」
俺は黒い札を取り出す。
「一人じゃない。”二人”で言ってくる。」
そして札から黄衣を取り出し身にまとう。
決して手加減してはいけない相手だ、こちらも全力で行かせてもらおう。
「・・体に馴染んできたようだな。」
ハスターとの神融和の姿を見たイタカが俺に対して口を開く。
自分ではいつも通りなのだが、第三者から見ていると何か変わったところがあるのだろうか?
「俺じゃわからないが、イタカがそう言うならそうなんだろうな。」
しっかり準備をしておいてくれと二人に伝え宙へ浮く。
まずは・・・隙を作らなければならない。
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「眩しいな・・・。」
外から眺めている全員が手を使いながら何とか調伏の儀の行方を追っている。
「太陽の化身って言うのはああいうもんだ。」
隣に立っている長野はサングラスを掛けて戦いを眺めていた。
「海を越えた海外の国では隼の姿をしてるらしい。
そっちは大空に浮かぶ太陽と月の神のようだが、大空関わる神は鳥の姿をしていることが多い。
そして化身と言われるぐらいだ、太陽と同じような光を放って当然だ。」
化身とは無形の観念が形となって現れた姿だ。
力を使えば太陽の力をまとってもおかしくはない。
「でも私が玉藻で力を使ってもああはならん。何が違うんやろ・・・。」
「そりゃ玉藻の前が天照大神と同一視されていること自体がかなりマイナーだからな。
それに比べて八咫烏は太陽の化身として日ノ本に多く知られている。
人々の信仰の力が神の力となっている事を考えれば力の差があって当然だ。」
純恋の隣に立っている玉藻の前は、
空高く舞い上がっている八咫烏を服の袖で口元を隠しながらじっと見つめている。
「・・あかんで。」
恨めそうに、だがその中に野望の炎をギラギラと燃やしている玉藻の前。
それに気づいた純恋が再度鋭い手刀を頭に入れるが痛い素振りを見せず、
八咫烏から目を逸らすことはなかった。
「玉藻。」
「・・冗談やん、そんな焦らんでもええやろ?」
本気で八咫烏の力を狙っていると純恋は察っし、
怒り混じりの低い声で再度玉藻を呼ぶといつもの飄々とした立ち振る舞いに戻った。
「太陽の神さんの力は確かに欲しい。
でも・・・流石にあれを見せられたらすぐに動こうとは思わんなぁ。」
指をさした先には八咫烏。羽ばたかせていた翼を動かすのはやめ、次の攻撃に移ろうとしていた。
「やけどまあ、その内にチャンスは回って来るやろ。」
指を差すのを止めた玉藻の前は、下に動く黒い風で出来た宇宙を眺める。
「・・空気が変わったな。」
その場にいる全員が光り輝く八咫烏から龍穂に目を移していた。
煌々と輝く八咫烏から目を逸らした理由。
それは龍穂達がいる場所、黒い宇宙の中にある力の質が変わったことにあった。
「アンタの王子様が生きている限り、あの烏も近くにおるってことやろ?
それならいつかは大きな隙を見せる時が必ず来る。そん時に・・・あの羽をむしろ取ってやればええ。」
最期口元を隠し、目尻を下げる。
「楽しみやなぁ・・・。焼き鳥にして食べてもうかな?」
再び口元を隠して笑う玉藻の前を見た再び手刀をお見舞いしようと腕を上げるが、
何かを考えた後、力を抜いた。
「・・叩かへんの?」
「アンタが龍穂に勝てるわけないやろ。冗談もほどほどにしいや。」
呆れたように玉藻を諭す純恋。
いつもであればそんなことを考えるのはやめろと力で抑えに来るはず。
調子が狂うと神妙な顔で純恋を見るが、その変化の原因が動こうとしていることに気が付いた。
「見とき?あんたがいくら寝首を掻いても無理だと今にわかるで。」
黒い風の魔力の質量が濃密になっていく。
龍穂が反撃の狼煙を上げようとしている。戦いはこれからだと見ている全員に知らせていた。
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