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第百二十七話 調伏の儀

長野さんが承諾してくれた次の日。

早速講師として国學館を訪れ、俺達に授業をしてくれることになった。

本来であれば様々な工程を踏んで生徒の前に立つことが出来るのだろうが、

皇太子様の計らいもあってかすぐさま実現してくれてありがたい限りだ。


「さて、授業をしていくが・・・・。」


説得に行った際には俺達に陰の力の知識を教えてくれたので、

一番初めの授業は座学だと思っていたが長野さんは教卓に立つことを選ばなかった。


「陰の力についての指導より前に、片付けなければならないことがある。」


俺達への指導でこっちに住まいまで移してくれたのに、

陰の力の授業以上に大切な事があるのだろうかと普通なら思うだろうが

長野さんの頭に乗る”答え”がそれが最重要事項だと分からせて来る。


「・・・・・・・・・。」


運動場に並ぶ俺達を黒い眼でじっと見つめ、三本足で長野さんの頭に止まる八咫烏様。


「このお方を誰が面倒を見るか。まずはそれを決めなければならない。」


賀茂御祖神社で古木さんから譲り受けた神様だが、誰とも式神契約をしていない状態だった。


「色々あったことは八咫烏様も十分に分かっておられるだろう。

だが・・・放っておかれたことに対してずいぶんご立腹の様で口も開かない。」


俺の自室で過ごしており、別に放っておいたわけでは無い。


「一応私達と八咫烏様で式神契約のお話はさせていたのですが・・・お気に召さないようで・・・。」


強大な力を持つ神様だ。その力を俺達のために使ってもらえるのなら心強いと

何度も契約の話しを持ちかけているが申し出を突っぱねられている。


「・・八咫烏殿、彼らの実力は本物です。契約される価値は十分にあるかと思いますが・・・。」


長野さんが上を見ながら説得を試みるが八咫烏様は口を開かない。


「・・何か御所望ならおっしゃって下され。気に入らない事でもなんでもいいですから。」


何を言っても口を開かない八咫烏様にどう対応すればいいか分からない長野さんは

何でもいいから引き出そうとお願いすると固かった嘴がやっと開く。


「・・相性が悪い。」


ため息交じりに吐いた言葉は俺達への不満。


「どいつもこいつも俺の力を引き出すのに適していない。契約をしたいとも思えん。」


俺は風の力。しかも宇宙の風の力の属性が強く太陽の化身である八咫烏様には適していない。

他の人達も得意な属性が異なるが、一人だけ最も適しているであろう人物がいる。


「純恋は・・ダメですか?」


太陽の力を扱う純恋なら八咫烏様の力を存分に引き出せる。

これだけ適している人物は日ノ本でも数えるほどしかいないだろう。


「その娘は確かに太陽の力を扱える。だが・・・化け狐に影響されているのが気に食わん。

我らが主神である天照大神様と同一視されている説があるが、

化けてよからぬことを民衆に吹き込み力を得たに違いない。

そんな奴と一緒に戦うわけにはいかん。」


世間一般では天照大神と玉藻の前が同一視されてはいない。

だが一部界隈ではそういった説があり、

純恋に聞いたところ簡単に言うと回りまわって同一視されているらしい。


「ふふっ・・お堅いなぁ・・・。」


純恋とは契約を結びたくない理由を言い終わると、玉藻の前が純恋の前に現れる。


「別にそんな毛嫌いしなくてもええのに。

ここで会ったのはきっと運命やと思って私に仕えてもええんやで?」


自らを嫌う八咫烏様を分かりやすく挑発する。

主を鞍替えして仕えろなんてよく言えたものだ。


当然八咫烏様は黙っておらず小さな瞳を細めにらつけると神力を高めていく。


「・・いい加減にしておけ。戯言とはいえ言っていいことと悪いことがある。」


応戦するように玉藻も神力を高めていくが、背中から鈍い音が聞こえる。


「あだっ!!!」


「邪魔や。大切な話しの途中やねん。」


玉藻は突然の痛みに背中を抑えながら片膝を着くと杖を持った純恋が姿を現す。

杖を両手で持っている所を見ると、どうやらあれで玉藻の背中を突いたようだ。


「痛ったた・・良い所で・・・。」


「何が良い所や。こっちはあんたのせいで契約の機会を逃してるんや。

刃が付いていないだけありがたいと思え。」


やり過ぎだと一瞬思ったが、こいつは日ノ本を傾けかけさせた大妖怪だ。

純恋の言う通り手心を加えただけでも温情が加えられていると言える。


「度胸があるいい女だな。玉藻の前の主人にしてはお勿体ない位だ。」


玉藻の前をねじ伏せる純恋を気に入ったようだが契約は不可能。


「・・他に気になる人間はおられませんか?」


どうにかして契約は勝ち取りたいと長野さんが俺たち以外に契約出来そうな人がいないか尋ねる。


「いないわけでは無いが・・・”あれ”との契約となるちと面倒だ。

それを除けば誰一人としていないことになる。」


契約は難しい。八咫烏様の口からそう言われると俺達も何もできない。

どうしてものかと悩んでいると黒い瞳が俺一人を捕えている事に気がつく。


「で、どうする気だ?」


そして改めて尋ねてくる。

寮で俺達の提案を一切飲まずに断っていた時は、このような態度は見せなかった。

八咫烏様は初めから俺達に何かを求めていたようで、室内ではなく屋外で行えることの様だ。


「・・手荒な真似はしたくはありませんでしたが、

調伏ちょうふく”をさせていただくしかありませんね。」


式神契約の方法はいくつかある。

俺達が行ったように体液を混ぜて契約する方法もあるが信頼関係を築いた者達が行う方法であり、

こうした契約を拒む者との契約方法としては調伏と言われる方法を用いる。

悪事を行った式神に対して自らの実力で圧倒し、

契約を無理やり行わせるという方法だがこれは平安時代から伝わっている。

陰陽道の確立がされておらず、体液での契約方法が無かった時代に主に使用されており、

現代では理性のない精霊や神を使役できる方法として重宝されている。


「・・よろしいのですか?」


とはいえ理性があり、日ノ本でも有名な神である八咫烏様を傷つけるのはよろしくはない。

長野さんも少し悩んだのち、八咫烏様に確認を取る。


「本人がそう言うのだからしょうがないだろう。

契約を拒む俺を・・・どうしても使役したいらしいな。」


神様の方から調伏での契約方法を望む場合もある。

自分より力の弱い者との契約は望まない。そう言った場合に調伏を望み実力を確かめる。


「ええ、お願いします。」


激しい戦いになろうとも契約できるのなら望むところだ。俺は六華を取り出し腰に差す。


「みんなは下がっていてくれ。」


敵が強い場合複数人での調伏もあるが、

その場にいた全員が揃っていなければ式神として扱えない契約になってしまうので、

出来るだけ単体での調伏が好ましい。

賀茂家の子孫として俺が調伏を行うが一番だろうと青さんの召喚して前に出た。


「そうだな。それが一番筋が通っている。」


長野さんも俺が戦う事に対して同意してくれる。


「・・青さん、お願いしますね?」


隣に立つ青さんに大太刀を手渡す。


「龍穂や、お主・・・調伏どころか精霊や神との式神契約自体初めてじゃろう?」


大太刀を持って鞘を外し俺に返してくるがまさかのツッコミも返ってきた。


「・・・・・・そうですね。」


勢いで話しを進めたが青さんは気付いた時から既に契約を結んでおり

木霊、ひいてはハスターも兼兄かもらって契約を結んだ。

一応イタカと契約したが、俺の両親と関係があったことからまともな式神契約とは言えないだろう。


「はぁ・・・まあ良い。八咫烏は何としてもこちらに手中に収めておきたいからな。」


ため息をつきながらも語り始めた。


「信頼関係を築いていない相手と契約を結ぶ場合、実力差を見せつけることが何よりも大切じゃ。

何時いかなる時逆らっても敵わない。そこまで思わせることで完ぺきな使役関係が完成する。」


平安時代、悪霊や荒御霊が多く、理性の無い相手との契約が主であり調伏と言う技術が発展した。

そういう相手は隙を見せたら寝首を掻いてくることが多く、

契約の際には瀕死まで追い込むことが基本であると現代まで語られている。


「分かっています。」


今回の相手は理性があるどころか、

日ノ本創設に関わっている偉大な神であるが調伏をする以上基本から逸れる事はない。

力の強い相手だからこそ寝首を掻かれることの無いように完璧な勝利をもぎ取らなければならない。


「ではこの調伏、俺が見届けさせてもらおう。」


長野さんが距離を取って向かい合う俺達の間に立つ。


「お互い不正は無しだ。正面から戦い勝利を勝ち取れ。」


もちろんその気はないがもし小細工を使って勝利をした場合、

難癖をつけられ調伏を拒否される場合もある。

俺は静かに首を縦に振り、鞘に手をかけ中腰の体勢を取る。


「では行くぞ。用意・・・始め!!」


この先の戦いを大きく左右すると言っていい戦いが始まった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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