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第百二十四話 懺悔を拒む要求

「・・二人を殺したのは俺だ。」


長野さんの懺悔の言葉を聞いた涼音は表情を崩さず顔をじっと見つめているが、

左手が綱秀の右手へと延びる。


「以前から追っていた密教の儀式があると連絡が入った時、

俺は信頼できる三人の部下をその場に送った。その内の二人が涼音、お前の両親だった。」


涼音がどうしても欲しかった情報である両親の死。

それを自らが手引きしたと言っている男を前にしてよく我慢している。


「当然涼音と言う小さな子供がいる事を俺は理解していた。死ぬことが出来ない理由をだ。

別にその理由を任務の達成に当てようとしたわけじゃない。

俺が育て上げてきた最高傑作、その二人に任務を任せれば必ず良い結果が帰ってくると確信があった。」


「・・その場で私の両親に一体何があったんですか?」


全ての罪を自らに集めようとしているがそれを聞いている涼音は怒りを浮かべることなく、

察したように憐れむような顔で長野さんに尋ねる。


「儀式を止めるように指示をしていたが、千仞の妨害にあった三人は止めることが出来なかった。


召喚された神が一体何なのか。それすら分からない。

だが・・・唯一分かっている事は制御が不可能になった神は暴走し、

儀式に関わった奴らを次々と殺し始めたことだ。

放っておいて市街地に出たらどれだけの被害が出るか分からない。

止むを得なく戦闘になり彼らは命を落とした。これが真相だ。」


涼音の両親が亡くなった真相。

それはそれは頼りにしていたはずの賀茂忠行が率いる千仞が起こした事件での戦死だった。


情報提供と引き換えに仕えてきたはずの男が自分の両親を殺した人物だったことに

衝撃を受けてもおかしくない所だが涼音は目を閉じ深呼吸をする。

裏切った際にトカゲの尻尾切りとして襲われた時から覚悟は出来ていたのだろう。

その姿を見た綱秀は手を強く握り返す。


「・・・・何故今頃になってその話しをしたんですか?分かっていたのなら・・・・。」


荒げたいであろう口調を抑えながら涼音は長野さんに問う。


本来であればその情報はいつ手に入ったかと聞きたいのだろうが

どうしても抑えきれない感情が問いただすような口調に変えてしまっていた。


「つい先日の事だ。お前達が行った修学旅行中、

この情報を持っている”唯一の人物”にやっと接触することが出来た。」


高野と戦闘を行ったあの場に長野さんがいたのかと尋ねると無言で頷く。

俺達と高野以外の気配は一切感じなかった。

現役を退いても業の長の強さは健在だ。


「あの場面でいたんならなんで助けてくれなかったってことやん。薄情者やな。」


「仕方がなかったと言わせてくれ。完全に気配を消していないと姿を現さない奴だったからな。」


俺達のあの場にいたが誰と接触を図ったのか分からず全員が記憶を振り返っている。


「・・あの高野と言う少年でしょうか?過去に密教に入っていたとか・・・。」


幼い体であれだけ強い神と式神契約をしているのだから普通ではないことは明らかだったが

儀式の妨害などいくつか矛盾している事を分かっていながら話しを進めるために

尋ねてみると案の定首を横に振る。


「俺が接触したかったのは・・・涼音の両親と共に任務を行ったもう一人の人物。

俺の・・・”愛弟子”だった男だ。」


愛弟子だった男・・・・。


長野さんの役職を考えるとどうしても兼兄の姿が思い浮かんでしまい、

難しい表情を浮かべてしまうがそんな俺達を見た長野さんは空笑いをしながら否定する。


「兼定じゃない。高野を回収しに来た男がいるだろう?

あれが俺の愛弟子だ。」


顔を隠して俺達と対峙したがすぐに引いた男は確かにいた。

あれが長野さんが追っていた男だったのか。


「任務で千仞と戦っていた人が今は千仞の一員に・・・。

一体何があったのでしょうか・・・?」


当然の疑問だ。戦っていた相手に一員になるきっかけがあったはず。


「・・・・・事件の現場には三人しかおらず今まで詳細が分からなかった。

奴が賀茂忠行の元へ下る事を阻止で来ていれば涼音もこんな思いをしなくて済んだはずだ。」


縁側から立ち上がり、空を見上げ思いにふけながら歩いていく。


「チャンスはあった。事件の後、奴は数年姿を隠していた。

事件の後を見るに殉職したかと思っていたんだが・・・。

とある日、姿を現し業から抜けたいと言ってきた。


詳細を聞くこともできたが皇に仕える部隊である業は漏らしてはいけない情報を持っている。

除隊は許されない。もし申し出る者が出た場合、長がその者の命を奪う規則となっていた。」


「でも・・・そいつは生きている。」


「・・仕留めそこなった。奴を追い込みこそしたが命を奪う手前で情が邪魔をした。

その隙を突かれ奴は逃走、殺すどころか有益な情報を引き出すことが出来ず

俺はその責任を追われ兼定に業の長を譲った。」


煙草に火を着け、空に向かって煙を吐き出す。


「これが今まで君に何も言えなかった理由だ。

愛弟子と思っていたアイツからもっと信頼されていれば、

俺が情を掛けずにあいつを捕えて情報を引き出されていれば。

・・・・君は選択を間違えることなくもっと素晴らしい人生を送っていたはずだ。」


第三者視点から聞けば仕方ないと思うが

当事者の涼音からしたら許せない部分が絶対にある。

燃え切った灰に煙草を投げ入れ再び涼音に対して頭を下げる。


「・・・・・・・・・。」


すまないと言われた涼音は目を閉じて何も返さない。

聞いていた俺達は何も言葉を発することが出来ず風が通り、

草木が揺れる音が聞こえるほどの沈黙が流れた。


「・・許せません。」


一分ほどたった後だろうか、涼音が口を開いたが放たれたのは長野さんの謝罪を否定する言葉だった。


「・・・・・・・・そうか。」


どう答えられても長野さんは言葉通りに受け入れると決めていたのだろう。

小さくつぶやいた後、涼音が再び口を開く。


「この懺悔を許してしまえばあなたが業を抜けた意味が成されてしまう。


あなたのお世話になった両親はそれを望むでしょうが

私はただ情報が欲しかったわけでは無く、”その先”を望んでいる。

だからここであなたを許すわけにはいかないのです。」


欲しかった情報を手にして涼音が満足するわけがない。

そのセリフを聞いた俺達は涼音を止めようとするが既に綱秀が動き出していた。


「涼音、ダメだ。」


その一言を、その一歩を踏み出してはいけない。

口に出してしまえば引き返すことが出来なくなると強い眼差しで訴えていた。


「私達は龍穂と共に歩むと決めたでしょ。その先には私が望む結末が必ず広がっているの。」


「結果が同じだとしてもだ。それを望めば結末は違ってくるぞ。」


復讐。ここにいる全員が察している。


「俺はお前に生きてほしい。何度もそう伝えている。

両親を殺した奴が龍穂との戦いで瀕死なった時、復讐を望んでいれば必ず息の根を止めようとする。


「・・・それの何が悪いの?」


「その瞬間、一番大きな隙が出来る。

敵は俺達が想像できないほど年月を生きてきた化け物だ。

その隙を突かれた涼音は必ず殺される。」


綱秀の必死の説得の姿を長野さんはじっと見つめている。


「・・・・・・・分かった。」


復讐はしない。綱秀の説得で涼音は納得した。


「・・だとしてもまだ許せない。隠居なんてしてほしくはない。

悔いがあるのなら隠居なんかせずに私達に尽くしてほしい。

アンタ後悔を・・・私達に託してほしい。」


講師になってくれることは先ほど承諾してくれたが、

涼音はそれだけは足りないと主張しこんなところで身を隠している暇があるのなら

こちらに来いと言い始める。


「・・なぜこのような村があるのかわかるか?

さっきも言ったが業は外に漏らしてはならない情報を各々が多く所有している。

だからこうした辺境の地に押し込み情報を遮断させているんだ。

そして俺はこの村を脱走した者達を処罰する役割を担っている。

そんな俺が向こうに住み着いてみろ。

出ることを禁じられている者達の不満が溜まり何をしでかすか分からない。」


ざっと見ただけだがこの村にはコンビニなどが置かれておらず昔からの商店しか見かけなかった。

外からの物流も制限され、畑で野菜を育てたりして生活しているのだろう。

国に尽くしてきたのに不自由な生活を強いられていては納得していたとしても

心のどこかに必ず不満が溜まっている。


一度爆発してしまえば大変な騒ぎどころか国の一大事になることは目に見えていた。


「・・・納得できない。何とかして。」


だが涼音も引く気配は見せない。

個人の要望と国の一大事を天秤に乗せた時、どちらが重いのかは理解しているだろう。

無理を通すにも流石に手札が少なすぎると千夏さんが止めに入ろうとするが手を前に出す。


普段であれば俺が率先して止めに入るところだが、どこかが不自然に感じた部分があった。

綱秀も言っていたが涼音に生きてほしいという事は再三言ってきた。

そして修学旅行での喧嘩でそのことは涼音がよく理解しているはず。


あくまで俺の予想だが・・・あれは長野さんに綱秀が

頼れる男だとわざと見せたのではないだろうか?

そしてこうした強気な発言も何か裏があるはず。

平や賀茂忠行の配下として国學館に一年以上潜伏していた実績は、涼音の肝の太さを意味している。

本人には口が裂けても言えないが、そうした行動が何か意図があることを俺に伝えていた。


「・・俺が何とかしましょうか?」


その答えが玄関から声と共にやってくる。


「・・・・・・・お前の差し金だな?」


やっていたのは兼兄。

柔らかい口調でこちらに歩いてきているが手には得物である刀を手に持ち、

頬には飛び散った血が付いていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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