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第百二十三話 役目を終えた者達の里

修学旅行から帰ってきて数日たった後の休日。

兼兄から連絡があった場所に向かっている。

いつもの四人に綱秀と涼音を加えた七人は、畑の広がる自然豊かな景色の中を歩いていた。


「どこにあるんだ・・・・?」


都内での田舎と呼ばれる場所があるのは知っていたが、八海と遜色ないとは思ってもいなかった。


「ここらへんだぞ・・・。」


俺の携帯を見ながら必死に長野さんの家を探している綱秀と涼音。

千夏さんと楓は少し先にいる畑仕事をしているおばあさんに話しを聞きに行っており、

純恋と桃子は遠くを辺りを見渡していた。


「東京にこんな所あるやな。」


「びっくりやわ・・・。」


俺と同じくここが東京だと思えないと喉かな風景を眺めている。


「聞いてきましたー!!」


つられて辺りを見渡していると、楓達が声を上げながら戻ってくる。


「どうだった?」


「この先の突き当りにあるお家だそうです。」


続いている道の先を指差すが、長く続いている道の突き当りは遠い。


「まだ歩くんか・・・。」


タクシーを使う選択肢はもちろんあったが、

信頼を勝ち取らなけれならない涼音のためとあえて歩くことで会話の機会を増やすという

俺と綱秀の選択が裏目に出た。


いや、道中や探しているなかで会話が生まれたので狙い通りではあったが、

まさかここまで道のりが長いことは想像していなかった。


「・・もう少しだけ頑張ろう。」


疲れた顔をする純恋は励ましながら歩き出す。

帰りは絶対タクシーを呼んで楽に帰ると心に誓いながら足を進める。


「涼音って長野さんっていう人とはどういう関係なん?」


俺も気になっていた事を桃子が尋ねる。


「両親の上司みたい。私、二人が何の仕事をしていたかあんまりよく知らないんだ。」


「両親の・・・上司か。」


長野さんは元業の長。という事は涼音の両親も業だったという事だ。


「両親を失った私の事をかなり気に掛けてくれていたんだけど

仕事中の事故で亡くなっちゃったからあんまり良い印象はなかったの。

だから手を挙げてくれた平さんを頼ることになってそれっきり会ってないんだ。」


業は皇直属の部隊。

公にはされていない部隊であり、その任務は危険と隣り合わせなのだろう。


「・・・・そうなんや。」


綱秀と涼音も業の事を知っているだろうが、長野さんが元業の長という事は知らないようだ。

桃子が俺にアイコンタクトを送ってくるが小さく首を横に振る。

俺達から説明することは出来るが、

長野さんも涼音に対して話したいことや説明したいことがあるはずだ。


「・・色々聞かなきゃいかんな。長野さんに。」


全て長野さんに任せた方が向こうもやりやすいだろう。

俺の気持ちを汲んでくれた桃子は知らない風に話しを進めてくれた。


「これか・・・。」


突き当りに小さな家が建っており表札には長野と書かれている。

元業の長が住む家としてはかなり小さい。

隠居のみであるのなら今までの苦労の日々を労うために、

もっと裕福な生活を送ってもいいのではと感じてしまう。


「呼び出しのチャイムは・・・ないか。」


玄関にチャイムが無くドアをノックしてみる。


「・・・・留守か?」


返事はなく人の気配を感じない。

兼兄が連絡をしてくれているはずなのでいないなんてことはないだろうと

長野さんと呼びながら再びノックをすると、ドアの奥からでは無い所から人の声がする。


「おーい。こっちだぞー。」


外から聞こえてくる声を聞くと、どうやら小さな庭がある方から声が聞こえている。

呼ばれた方向へ足を進めていくと焦げ臭いにおいが鼻の中を襲った。

火事かと思ったが煙は上がっておらず、

何なんだと思っているとすぐに答えが目の前に広がる。


「おう。」


長野さんがトングを手に持ちながら、屈んで灰の山を突いている。

煙が見えない所を見ると全て燃やし尽くしたようで中に何かを入れているようだ。


「お久しぶりです。長野さん。」


「よく来たな、大変だっただろう。」


「・・東京にもこんなところがあるなんて驚きました。」


冬の寒空の下で半纏を着た長野さんは灰の中から所々焦げたアルミホイルを取り出す。

軍手をしている手で剥くと、中からサツマイモが出てきて俺に手渡してきた。


「ほれ。」


「えっ・・?あっつ!!」


先ほどまで高温の中にいた焼き芋を素手で持ったら流石に熱い。

落とすわけにはいかずにお手玉をしていると、

その姿を見た長野さんは大笑いをしておりそれを見かねた手袋をした千夏さんが焼き芋を持ってくれた。


「性格が悪いですよ。」


「はは、悪い悪い。」


腹を抱えながら縁側の方へ歩いていくと用意していた軍手を持ってこちらにやってきて手渡してくる。


「全員分用意した。食べながら話そうか。」


始めから持ってきてくださいよと文句を言いながら軍手をし、

再度渡された焼き芋を手に持ち縁側に座る。

いい具合に焼かれた焼き芋はとろとろになっており、

口の中で冷ましながら乾いた空を見上げる。


「・・ここに来るまでにばあさんに会っただろ?」


話したいことはあるがまだ陽は高い。

焦る必要はないと流れに身を任せて皆で焼き芋を食べていると長野さんが口を開く。


「・・はい。その人に家を聞いてここまで来たんです。」


「あの人も以前”業”だった。ここら辺一帯の家が業出身の奴らしかいない。」


長野さんの一言に驚き思わず食べている手を止める。


「ここは用済みになった者達の村。姥捨て村と言ったところだ。」


姥捨て伝説。高齢化した者を諸々の理由で用済みとして山に置き去るという民話のような

村だというがここまで来た俺達の感想は違っていた。


「・・御冗談を。何が用済みとなった人たちの集まりですか。」


この村にたどり着いてからどこからか視線をずっと感じていた。

だが敵意はなく、あくまで俺達を見張っているだけの視線。

なので特に気にすることなく長野さんの家を探して歩き続けていたが、

もし怪しい行動を取れば視線の主達が俺達を亡き者にしようと襲い掛かってきただろう。


「ずっと視線を感じていました。

きっと長野さんが俺達が来ると伝えていなければ襲われていたんじゃないですか?」


「・・・・・・・・・。」


長野さんは俺の問いに答えることなく焼き芋を頬張る。


「私達が道を尋ねたおばあさん。

背中は曲がっていましたが、体の使い方からして恐らくそんな姿勢ではなく普通に歩けるはず。

恐らくまげてできた服のたわみに何かを仕込んでいたのでしょう。

用済みなどと言う言葉が似合わない実力者だったと思われます。」


俺の意見を楓は後押ししてくれる。現役から退いた方々が集まる村。

業のとしての役割を全うすることが出来なくなった人達なのだろうが、

緊急事態に備えて人があまり来ないこの地で待機しているのだろう。


「・・何の話を聞きに来たんだ?」


答え合わせをしようとしない長野さんは俺達がここに来た理由を尋ねてくる。


「兼兄から聞いていませんか?色々と話しに来たんです。」


事前に兼兄から話しが通っているはず。

あの人なら俺達がしやすいように事前情報を話してくれているはず。


「聞いてるよ。何から聞きたいんだと言っているんだ。」


全てを答えるつもりだと言わんばかりに俺達を急かしてくる。

講師の件など頭の中に浮かぶが、一番大事な話を抱えている涼音の顔を確認する。

緊張した面持ちをしており、これはすぐに本題に入らない方が良いと

まずはジャブを打ち込むことにした。


「・・単刀直入に言います。俺達の陰の力を教えていただきたいんです。」


「陰・・陰陽の陰の力だな。」


あまり知識のない俺達だけでは成長に限界がある。

だからこそ詳しい長野さんに講師をお願いしたいと申し出た。


「俺も隠居の身だ、時間が余って仕方ないからな。」


「それじゃあ・・・。」


良い返事が聞ける流れだったが長野さんは俺の言葉を遮った話しを続ける。


「そもそもの話しだ。陰の力は宇宙の力だが・・・

それが日ノ本に置いてどうやって開拓されたか知っているか?」


長野さんは陰の魔術を受ける前段階の知識を俺達に授けようと一つの疑問を俺達に投げかけてきた。


「いや・・・わからないです。」


「修学旅行で行ったと聞いたいたがそこまでは知らなかったか・・・。」


聞こえないほどの声で何かを呟いた後、半纏の中に隠していた巻物を取り出す。


「この日ノ本に陰陽を根付かせた人物。

それまで天文道・暦道・陰陽道の三つに分業されていたものを

全て一つにまとめた龍穂の先祖である賀茂忠行だ。

それを広めたのが弟子である安倍晴明だが・・・賀茂忠行は安倍晴明に”間違った”陰陽を

教えていたとされている。」


そして巻物を広げ、俺達に説明をし始めた。


「間違っているって・・・何がですか?」


「お前達も兼定から聞いたはずだ。陰とは宇宙の力であると。

それを仮定した場合、今までの陰陽の陰の力には矛盾がそうじる。」


巻物を見せてくるが底意は陰陽の性質表が書かれている。

俺も多少なり知っているが全てを記憶しているわけでは無い。

だがそれを見た千夏さんが呟いた。


「・・所々違いますね。」


「ああそうだ。この陰陽性質は日ノ本に広く知られているがそれは賀茂忠行が初期に考え出したもの。

そしてこれは奴が根城にした賀茂御祖神社に伝わる性質表だ。

陽は変わらないが陰に違いがあり、それら全てが宇宙の要素に書き換えられているんだ。」


陰陽とは結局の所人の視点で考えられたものであり、

当時宇宙の存在など知る由もなかったので当たり前と言えば当たり前だ。


「この新しい陰の要素を取り込むことで陰の力を伸ばすことが出来る。

だから兼定も俺に講師を頼んだのだろう。」


俺達だけでは間違った知識しか持ちえなかったが、それを知っている長野さんの存在は大きい。

だが今までの話しを聞いて一つの疑問が浮かび上がる。


「長野さんは・・・以前賀茂御祖神社にいたことがあるんですか?」


賀茂忠行が根城にしていたことを知っているという事は

賀茂御祖神社と深く関わりがあるという事だ。


「ある。面白い術があると噂で聞いて修行させてもらったことがある。

安心しろ、その時は既に反賀茂忠行を掲げていたからな。」


大丈夫だとは思っているが一応確認させてもらった。

敵か味方かしっかりと判断しなかったことよって痛い目にあってきたからだ。


「お前達は陰の力の基礎から叩き込んでやる。

そうすれば今以上の力を持って奴らとも対抗できるだろう。」


そして講師になってくれるという言葉が口から放たれた。これで目的の一つが達成された。


「・・一つ伺ってもよろしいですか?」


一安心していた所に綱秀が小さく手を挙げる。


「君は・・綱秀君だな。」


「お初にお目にかかります。

ここは業の里という事はあなたも元々業という事でよろしいですよね?」


二人は長野さんの事をよく知らないどころか綱秀に至っては初対面だ。

俺から紹介するべきだったと後悔してしまうが綱秀は頷く長野さんに再び尋ねる。


「涼音から長野さんは両親の元上司と話しを聞いています。

という事は・・・涼音の両親も業であり仕事中の事件で命を落とした、という事ですね?」


事実確認と同時に本題に入っていく。涼音が千仞に入るきっかけになった事件だ。


「・・・・・・ああ。」


綱秀の問いを聞いた長野さんは空を見上げながら小さく呟く。


「俺達はその話しを聞きに来ました。

涼音も・・・あなたの口から事実を聞きたがっています。」


涼音は緊張が消え、覚悟を決めた顔で長野さんを見つめる。


「・・・・・・・・すまないと思っている。」


事件の詳細が語られるかと思っていたが、長野さんの口からこぼれたのは涼音への謝罪。

だが涼音はその謝罪を受け入れることなく、次の言葉を静かに待っていた。


「危険な仕事だと分かっていた。だからこそ二人を送り込んだのだが・・・間違っていた。」


懺悔の言葉を空に向かって放つ長野さん。


「・・二人を殺したのは俺だ。」


そして勢いのままに自らが涼音の両親の命を奪ったのだと自白した。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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