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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第二幕 修学旅行
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第百二十二話 疑惑の答え

新幹線に揺られながら窓を眺める。


「・・・大丈夫か?」


向かいには綱秀のみであり、俺の隣には火嶽が座っている。


行きの車内とはえらく様変わりした配置になっており、

涼音は桃子と千夏さんとともに座り、純恋は楓と真田と楽しそうにしている。


「大丈夫だ。それにしても・・変わったな。」


涼音は以前のように俯くことなく、三人と陰の力について前を向いて真剣に話している。


「・・そうだな、感謝する。」


「あんま謝りすぎんなよ。別に俺は大したことはしていない。」


これほどまでに関係が良好になったのは、

涼音が扱う氷の陰の魔術の技術が俺達にとって必要であったこと。

それに今までとは違い、はっきりと前に向いたことが会話を弾ませていた。


「・・お前が変えたんだよ、誇れ。」


それは全て綱秀が今まで頑張ってきた成果だ。何も謝る必要はない。


「・・・・ああ。」


俺が窓を見ながら憂鬱になっていたのは決して今の状況に対してではない。


(・・・・・・・・・・・・・。)


俺を悩ませていたのはあの話し合いが終わった後の出来事だ。


———————————————————————————————————————————————


「兼兄、ちょっといいか?」


話し合いを終えたのち、みんなが客室に戻ろうとしているタイミングを見計らい兼兄に声をかける。


「ん?なんだ?」


綱秀達と毛利先生がこの場を去っている事を確認し小さな声で尋ねる。


「・・俺の記憶を封印したって本当か?」


ずっと聞けず終いになっていたことをようやく切り出せる。

実家に帰るタイミングで聴こうとしていたが、結局バタバタで兼兄と落ち着いた時間を過ごせなかった。

これを逃せば次はいつ会えるか分からなかったので、半ば無理やりだが尋ねることにした。


「・・・・・・・・・。」


俺の問いに驚いた表情を浮かべたが、

すぐに手のひらで口元を覆い、目線を逸らして何かを考え始める。


「・・・誰から聞いた。」


先ほどまでの柔らかな口調は冷たく変わる。


「質問を質問で返さないでほしい。先に答えてくれ。」


だがここでひいてはいけないと俺も強気を通しぬいた。

俺がこれを尋ねるきっかけは涼音の口から長野さんの名前が出てきたからだ。

お正月から怒涛の展開に頭から飛んでしまっていたが、

これを深堀しておかねば兼兄を信用することはできない。


「・・・・・・・・・ああ。」


兼兄は俺にこの情報を与えた人物に心当たりが無い様で、目線を逸らしたまま簡潔に答える。


「じゃあ・・土御門も関わっている本当か?」


本題はこっち。敵であるはずの土御門が俺の封印を関与しているのはなぜなのか。

これを答えてもらわなければ、これから頼る事さえ躊躇してしまうことになる。


「・・・・・・・はぁ。」


口元から手を離しバツが悪そうに頭を掻く兼兄。


「答えてくれ。」


「・・ルール違反だ。龍穂の質問に答えたら俺の質問に答えるんだろ?」


連続での質問を指摘して、なんとしてでも情報提供者を引き出そうとして来る。

この質問をした時点で長野さんが教えてくれたことを明かすことは決めていた。


「長野さんだよ。陰陽師試験の時に教えてくれたんだ。」


伊達様、真田様、そして酒井様に招かれた長野さんが、

俺に情報提供をしてくれたと説明すると

大きなため息と共にあのおっさんとめんどくさそうにつぶやく。


「・・情報ってのはな、持てば持つほど良いってわけじゃない。」


全てを察し、覚悟を決めたのか、俺達に視線を移し話し始める。


「そこまで知っているのならある程度は話しを聞いているんだろう。

俺が封印を掛けたのは龍穂と純恋ちゃんの記憶、そしてその他諸々の封印だ。

知っていては身に危険が及ぶ可能性がある記憶のみの封印。

お前達の事を思って封印させてもらった。」


「・・そのおかげで純恋は悲しい思いをした。俺たちの事を思っていたのは本当なのか?」


京都での辛い日々に、俺との楽しい記憶があったのなら少しは辛さが和らいだかもしれない。

純恋が国學館に来るきっかけは間違いなく封印されていた楽しい記憶なのだから。


「本当だよ。現に今も楽しく過ごせているだろう?」


たの・・しく?


「八海での出来事はこれ以上考えるな。これは賀茂忠行、クトゥルフには関係ないからな。」


そんな言いかたをされてしまえば逆に気になってしまう。

今の俺達の状況を深く知っている兼兄の口から出た楽しくという言葉が気になってしょうがない。


「俺の口からはこれ以上何も出ない。察してくれ。」


だが押しつけがましい一言を期に兼兄は黙り込んでしまう。

こうなってしまえばこの人は何も語ることはない。

本当なら深堀したいのだが、まだ聞かなければならないことがあるので後回しにするしかなかった。


「・・じゃあ土御門との関係は?それは答えてくれるよな?」


その質問をしたタイミングで、綱秀達を自室まで送っていた毛利先生が帰ってくる。


「何かあったのですか?」


「ああ、俺が龍穂達に封印を掛けたことがバレた。春も隣で聞いてくれ。」


業である毛利先生を横に立たせ、再び口を開いた。


「土御門と俺は・・・兄弟だった。竜次達と同じ、血が繋がっていない。」


「ってことは・・・土御門も?」


「ああ、”元”白の一員だ。そんで春も同じく元々は白の一員。」


さらっと驚きの発言をするが、俺達の反応に構うことなく話しを続ける。


「俺達はずっと同じ道を歩んできた。

それは前も言った通りクトゥルフを倒すという大きな目標に向かってな。


クトゥルフ教団を潰しまわって日ノ本に拠点を移した後、

三道省に入ることが出来れば賀茂忠行の情報がより多く入ってくると考えていた俺と土御門は

国學館から直接三道省に就職した。」


毛利先生は話しに一切口を挟まない。

この話しが真実であると無言で語っている。


「俺は結局業に入ることになるんだが・・・土御門が神道省に入った。

務めを果たしながら賀茂忠行の情報を集めてくれていたんだが・・・

功績をあげ昇進していくうちに様子がおかしくなったんだ。」


「・・賀茂忠行に魅入られてしまったのか?」


「そうだ。俺や白の家族達と離れている内に賀茂忠行に目をつけられ、

奴の闇に飲み込まれてしまった。

元々あいつは深い慈悲を持った良い兄として皆に愛されていたが・・・

俺達が接触した時にはもう手遅れだった。


冷徹で・・・卑劣。

賀茂忠行のためだったら何でもやるような下衆に変わっていた。

それは八海での出来事で龍穂達の十分に理解しているはずだ。」


無関係の猛や真奈美をクトゥルフの神々の力を無理やり与え、八海を襲わせた。

確かに兼兄が言っている内容に当てはまっている。


「封印を掛けたのは神道省に入る前だ。その時はまだ正気を保っていた。

龍穂の事を思っていたからこそだ。」


「・・俺は土御門と以前会ったことがあるってことか?」


「ああ、幼い頃だ。覚えていないのも仕方がない。

これが俺と土御門が封印を掛けたことに対する答えだ。

以前の慈悲深い時の土御門と龍穂に封印を掛けた。

春、間違ってないな?」


毛利先生が深く頷く。

深い関係である毛利先生が言うのなら間違いではないのだろう。


「・・警戒するのは当然です。敵である土御門の名が出てきたのですから。

元は家族であった彼とは袂を分かつことになった。

兼定と彼の関係性は封印を掛けた時とは変わっている。

決して今も二人が”手を組んでいる”ことはないので安心してください。」


依然仲間であったことが明かされるが

その関係性の結末が裏切りであったことを聞いて少し後悔する。

信頼の確保のための確認だったので必ず聞かなければならなかったが、

予想外の結末に聞いた俺が心を痛めてしまった。


「・・昔のことだ。もう心の整理は済んでる。だからそんな悲しそうな顔をするな。」


そんな心情が表情に現れてしまったのか俺の頭を撫でてくる。


「思わず驚いたがいいタイミングで聞いてくれた。これであの人に色々押し付けられる。」


先ほどまでの真剣な表情から一変し、いつもの柔らかい表情に戻った。


「俺に一言無しに龍穂に色々教えた罰として講師を必ず受けろって長野さんに伝えてくれ。

それでも断られた場合は・・・青さんにどうにかしてもらおうかな。」


確か陰陽師試験の時にこの話しをしていいと言ったのは青さんだ。

兼兄はそこまでお見通しのようで青さんが出てくるがばつが悪そうだ。


「いいですね?青さん。」


「・・全く、どこまで知っておるんじゃ。気持ち悪いぞ。」


「なんてことを言うんですか。自分が悪いのに。

ある程度情報を整理すれば青さんも関わっている事は察しがつきますよ。」


「はぁ・・・。何とか言いくるめよう。」


ため息をついて兼兄の提案を渋々飲んだ。


「まあそう言う事だ。長野さんは間違っていないが、それは昔の話し。

龍穂や純恋の封印を掛けたのは俺達だが、それは龍穂達の事を思っての封印であ

今は土御門との関係を絶っている。それでいいか?」


飲み込むことが出来る答えをもらい俺からは何も言う事が無くなったが、

後ろにいた千夏さんが口を開く。


「一つ聞きたいことがあります。

私も記憶を封印されていると上杉捷紀さんからお聞きしました。


記憶の封印を掛けられる人物は日ノ本でも限られている。

私に封印を掛けた人物。そしてその記憶の事について兼定さんは何かご存じないですか?」


そうだ。千夏さんも記憶を封印されており、俺達より複雑に、そして堅固な封印は今も掛けられている。


「・・”俺から話せる事”はない。」


千夏さんとしても知っておきたいだろうが、帰ってきたのはあまりにも曖昧な答えだった。


「・・・・どういうことですか?」


そんな答えでは満足できないと千夏さんは

言葉の真意を尋ねるが兼兄は申し訳なさそうに答える。


「すまない、実は俺もよくわからないんだ。

仙蔵さんから千夏ちゃんの記憶の封印の事は知らされていたが、詳細は伏せられていた。

いずれ明かすと言っていたが今となっては聞くことすら叶わなくなってしまった。」


記憶の封印を解くカギは仙蔵さんが持っていたようだが・・・既に亡くなってしまっている。

もうどうする事も出来ない。千夏さんは無念そうに兼兄を睨みつける。


「私は・・・ここまで龍穂君と共に戦ってきましたが、

どうしてもあなたの手のひらの上で踊らされているように感じて仕方ありません。

あなたは・・どこまでご存じなのですか・・・。」


全ての出来事に兼兄が絡んでいるのは確かだ。

俺たちの事を気にかけている証拠なのだろうが、

自らの体に秘められた謎が解けないことに対するイラつきからか兼兄を目の敵にし始める。


「・・君達より長く、そして濃い人生を送ってきたからかな。

君達より色々知識があり、それは視野を広げ様々な予想がつくようになった。

同じようなことを言うが情報ってのは善し悪しがあり知らないほうが良いことも多く存在する。


俺は龍穂達が賀茂忠行に勝てるように情報を制限させてもらっているだけだ。

それが手のひらの上にのせていると感じるのだろうが、君たちに生きてほしい。

そう思っているからこその制限だと受け入れてほしい。」


様々な戦いに勝利してきたからだろうか、

兼兄が自らの行動の意味を隠すことが少なくなってきた。


だからこそ千夏さんは怪しんでいるのだが、決して悪いようにはしないと兼兄は俺達に我慢を強いる。


「夜も深い、ここまでにしておこう。」


千夏さんはまだ何か聞きたいことがあったようだが、兼兄の一言でこの場はお開きとなった。


———————————————————————————————————————————————


話しの内容としては非常によい収穫だったと思うが、

千夏さんが言っていた手のひらの上という言葉が頭に引っかかって仕方ない。


今まで気にならなかったことを気にするようになり、

新たな知識をいれて視野が広くなったかと思えば謎はさらに深まっていくばかり。


「知らなくてもいい情報か・・・・。」


記憶の封印と情報の制限。

この二つの単語を聞けば確かに手のひらの上で踊らされている気になるだろう。


「・・何かあったんですか?」


隣に座っている火嶽が不思議そうな顔で見つめてくる。

心の中でつぶやいた気でいたが、どうやら口に出してしまったらしい。


「・・・・・いや、何もないよ。」


白に所属している火嶽に聞けば何かわかるかもしれないと頭に一瞬よぎったが、

きっと火嶽にも兼兄の息がかかっている。


何を聞いても答えてくれず、俺が尋ねてきたことを兼兄に報告されるだろう。


(同じ道を歩む仲間か・・・・。)


仲間であるからこそ気を使うのは当たり前だが、

兼兄の事を気にするあまり勝手に駆け引きをしてしまっている。

こうした態度は相手に不信感を与えてしまう。

あまり意識はしない方がいいだろう。


それに対して新たに仲間になった綱秀と涼音は俺達同様に情報を持っておらず兼兄との関わりも浅い。

それすなわち変な意識をせずに過ごせることになるので

俺や周りのみんなもストレスを溜める事はない。

そういった事を踏まえても涼音たちとは早く信頼関係を築かなければならない。


新たな仲間と新たな情報。

手にした力をどう活用していくかを考えつつ

もやがかかった頭で過ぎていく外の景色を眺めていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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