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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第二幕 修学旅行
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第百十三話 歴戦の余裕

本殿を出て境内に出るとそこには無数の深き者ども達。

これだけの数がいきなり現れると八海での出来事を思い出すが、

全員がローブを羽織っており組織されたことが見て取れる。


「これだけいると壮観だな。」


焦ってもいい状況なのに、竜次先生はのんきとも取れるただただ冷静な一言を呟く。


(突破して逃げるか?いや・・・それだと被害が大きくなる・・・。)


これだけの数の深き者ども達が街に出れば必ず市民に被害が出る。

だがここで立ち止まって古木さんが体を張った意味が無くなってしまう。


「・・竜次先生。」


どうするか決められずに竜次先生に指示を仰ぐ。


「ん?俺が戦うぞ。お前達は逃げることに集中しろ。」


そしてさも当然かの様に俺達に指示を出してきた。

俺も人よりも戦いを経験しているが、それでもこういった時の判断力の差を感じてしまう。


「分かりました。」


青さんに指示を出し、龍の姿に変わってもらう。

みんなを背に乗せ空から逃げようとするが、眼の隅に何かが輝くと遠くから破裂音が聞こえてくる。


「・・・!!!」


深き者ども達に距離を詰められないように急いで背に乗ろうとしてきた俺達は無防備。

しまったと思う前に竜次先生が槍を振り回すと何かが刃に当たり、俺達を避けて本殿を貫いていく。

後ろからは突き刺さった音ではなく、どこかへ飛んでいった様な音が聞こえる。

相当威力のある実弾で俺達を狙ってきたようだ。


「そこだな。」


胸元から棒手裏剣を取り出し、破裂音がした方向へ最短で投げ入れる。

近くに生い茂っている林の中へ向けて放たれた棒手裏剣は、木に刺さるどころか貫いて見せる。

先程放たれた実弾と同等の威力を発揮した一撃に、隠れながら俺達を狙った人物を無理やり引き出した。


「・・さすがは古き英雄ですね。」


奴らと同じローブを身にまとった背丈の低い人物。

ローブの下には迷彩服を身にまとっており、その服装には覚えがあった。


「神道省の・・・服?」


実習の時に身に着けることもあった神道省の実働部隊が身に着ける迷彩服と酷似している。

他の二道省も同じような迷彩服を採用しているが、

ローブの隙間から見える胸元のマークは神道省の刻印と酷似していた。


「狙いはよかったよ。敵が背を向ける時こそスナイパーに取って一番の好機だ。

だが・・・俺がいる限りやらせんよ。」


俺達の前に出て手首を返すように扇ぎ、早く逃げろとハンドサインを送ってくる。


「もう・・・隠していても意味がありませんね。」


青さんの背中に乗りつつも敵の動きに警戒していると、俺達を狙う刺客がローブを剥ぐ。


「え・・・?」


その顔を見た瞬間、思わず体の動きを止めてしまう。


「弟の弔い合戦と行きましょうか。」


俺達を狙った奴の正体。江ノ島で実習の時にお世話になった猛の姉である清水瀬千尋さんだった。


「そりゃご苦労なこったな。だが負けるお前の弟が悪いよ。」


「それで済ませられるほど私は無情ではないのですよ。特に・・・”家族”となるとね。」


後ろにいた楓が固まっている俺の体を引っ張り上げると、

青さんの足が地面から離れ景色が遠のいていく。


「狙いどころだったんじゃないか?スナイパーなんだろ?」


「そうすればまたあれと投げる気でしょう?あなたを倒してからじっくり後を追わせてもらいますよ。」


なぜ千尋さんがここにいて俺達を狙っているか。

頭の中に様々な考えが入り乱れるが、

逃がすために命を張ってくれた古木さんのことを思い出し頬を叩く。

竜次先生が近くにいたとはいえ、予想外の出来事に大きな隙を作ってしまった。


不甲斐ないとしか言えないがまだ事は終わっていない。

ひとまず安全な所に移動するため、動き出した竜次先生を見つつ携帯を取り出した。


———————————————————————————————————————————————


千夏さんが使役している雀で辺りの安全を確保しつつ、

毛利先生に連絡を取ろうとするがいくら待っても電話に出ることはない。

綱秀達の引率として外に出ているはずだ。何事も無ければすぐに電話に出るだろう。


「襲われたのは俺達だけじゃないみたいだな・・・。」


兼兄は何かあった時のために旅館に待機しているはずだ。

毛利先生と連絡を取ることを諦め、すぐに兼兄に連絡を取ろうとすると都合よく向こうから着信が入る。


「もしもし。」


『龍穂、そっちで異変はないか?』


「襲われた。竜次先生が対処してくれて俺達は空へ逃げているよ。」


『そうか。竜次は一緒じゃないか・・・。』


俺達の無事の確認を喜んではおらず、竜次先生が付いてきていない状況に頭を悩ませている。

何が起きているか分からないが、兼兄が弱音を吐くという事は事態は相当深刻の様だ。


「何があったんだ?」


『全てを説明するのは時間がかかるから簡潔に話すぞ。

涼音ちゃんが襲われた。春や綱秀君達が対応に当たっているが戦況は厳しい。


俺も龍穂達に連絡を取ってからここを出ようと思っていたところだ。

携帯に春から送られてきた位置を龍穂にも送っておく。

激しい戦闘になると思われるが、準備を整えてきてくれ。』


俺の返事を待つことなく兼兄は電話を切る。

相当焦っているようで、いつも俯瞰して状況を見ている兼兄しては相当珍しい。


兼兄との会話の内容と送られてきた位置を全員に周知をし、

青さんにその場所に飛んで行ってもらおうとするが頭に鋭い痛みが走る。

見ると俺の傍を飛んでいる八咫烏様が俺の頭を突いてきており、頭の上に止まった。


「そこではない。俺が指示する場所へ向かえ。」


「えっ?でも指示にはここって・・・。」


兼兄は俺たちが来ることを想定して動いているはずだ。

そこにたどり着かなければ取れたはずの連携も取れずに涼音が殺されてしまうかもしれない。

八咫烏様の指示と言えど流石に聞くことはできないと判断したが、

青さんは俺が指示した方向に飛ぶのを止めてしまう。


「八咫烏よ。どこに行けばよい。」


青さんは八咫烏様の指示を聞くつもりだ。それを聞き、俺の頭から飛び立った青さんを先導し始める。


「兼定さんが指定した位置はあくまで毛利先生が送った時点での位置情報。

詳細な情報は分かりませんが戦況はすぐに変化するものです。

そして八咫烏様は導きの神と呼ばれていますから

恐らく我々にとって一番最良の場所へと導いてくれるのでしょう。」


何かあった時の事を踏まえて司令塔の役割を担っていた兼兄が動いたという事は

深刻な事態が起きているとだけ思っていたが、

あまりの情報の無さに自ら現場に出向くしかなかった可能性もある。


千夏さんの言う通り戦況はすぐに急激な変化を見せる。

電話に出れないほどの事態のなか送られてきた位置情報は既に古い情報にであり、

その位置に毛利先生や綱秀、そして肝心の涼音がいるとは限らない。


「・・俺達は戦闘の準備だ。何が起きても良いように神融和を済ませておいてくれ。」


既に戦闘が始まっており、奴らの狙いが涼音である以上敵の殲滅、

もしくは涼音を連れての逃走が目標になる。


この二つのどちらになったとしても涼音や自らの身を守ることはあっても

持久戦になることはほぼなく、短期決戦での決着となるだろう。

着いてすぐに戦闘になる可能性を考えると、

準備不足で出遅れることよりか多少の消耗を覚悟した上での準備を整えたほうがいいだろう。


「戦いの準備も大切ですが・・・心構えもしておきましょう。

ここからどのような事態に対面しても動じることなく、

例え誰であってもすぐに得物を振るえる準備をしておいてください。」


千尋さんが千仞だとするならその上司の達川さんも俺達の前に立ちはだかる可能性もある。

これ以上の驚くことがあるのだろうかと考えるが、

先ほど見せた隙を再度見せるわけにはいかないと決意を決める。


先導していた八咫烏がこちらに戻ってくる。どうやら目的地が目の前のようだ。


「八咫烏様。お力添えをお願いできますか?」


ついて来てくれる時点で力を貸してくれると思っているが、改めて申し出る。


「ああ、戦いの中でお前の力を見定めさせてもらうぞ。」


古木さんや先代の宮司に頼まれているので断ることは無いが、

これからも共に戦ってくれるかは俺の実力次第。

涼音を襲っている人物との戦いに、より一層力が入る。


「全員しっかり掴まっておけ。森に突っ込むぞ。」


八咫烏様が示した場所は深い森の中のようで青さんが速度を変えずに突っ込んでいく。

鱗に捕まりながら全員が低く屈み、

衝撃に備えると細い体で木々の中に突っ込み森の中を駆けるように飛ぶ。


避けきれない木の枝を手でうまく払いながら必死にしがみついていると、開けた場所に出る。

整備はされていないものの、人が頻繁に通っているのか出来た道の先には

古臭い石段と風化された門があり、その先には今にも崩れそうな寺が立っている。


そして開かれた門から見えたのは得物を持ちつつも、

苦しそうに膝をつく見慣れた制服を着た男子生徒と何者かに首を掴まれている女子生徒。

そして必死に軽々と女子生徒を持ち上げる深くまで帽子をかぶった背の低い男の姿だった。


「綱秀・・涼音・・・!!」


「まずいか・・・いや、間に合う!!」


今にも決着がつきそうな光景を見た青さんはさらに速度を上げる。


「お前達!わしはこのままあの男に向けて突っ込む!!

その後の事は考えんぞ!うまく飛び降りてあの小娘を救え!!!」


契約している俺の心に青さんの焦りが伝わってくる。

涼音の命に手が掛かっている危機的状況だとはいえどんな状況でも焦らない青さんを

そうさせる別の何かがある。


だがその何かを尋ねる余裕もなく、門をくぐり抜け男目掛けて突っ込んでいく。

俺は黄衣を身にまといながら青さんの背中から飛び降りた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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