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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第二幕 修学旅行
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第百十二話 受け継がれてきた大罪

「賀茂忠行がこの神社を根城にし始めたのは平安時代の事です。

時期としては安倍晴明が宿敵である蘆屋道満の罠にかかり、命を落とした時と伝わっています。」


古木さんが口を開いて説明をし始めた時、青さんが姿を現す。


「おや・・龍を使役しているのですね。しかもその鱗の色は・・・。」


「気にするな、話しを続けろ。」


何時になく威圧的で、少しイラついた表情を浮かべているように思える。

かつて契約を結んでいた安倍晴明が命を落とした時の事を青さんは覚えているだろう。

きっとその時の記憶が頭の中に思い返されて苛立っているに違いない。


「・・一度命を落とした安倍晴明は再び生き返るのですが、その時の説は様々あります。

その一つに師匠である賀茂忠行が蘇生の秘術を使ったという説がありますが、

その蘇生した現場はまさにこの本殿なのです。」


「そう・・なんですか?青さん・・?」


「・・・・忘れもせんわい。

罠にはまった晴明の遺体を何とか守るために戦い道満を追い払った後、

切れた契約を後を追ってこの神社に来て見ればなんと晴明が息を吹き返しておった。

その傍らには確かに賀茂忠行もおったが、まさかその時から奴の計画が始まっていたとはな・・・。」


思い返している青さんはイラつきから恨めしそうな表情に様変わりしている。


「ええ、賀茂忠行はあえてこの神社で蘇生の秘術を使ったのでしょう。

元々縁のある神社だという事で何度も足を運び、当時の宮司と親密な仲を築いていました。

そんな仲の良い宮司の前で蘇生の秘術を使い、強い興味を引かせ教えを請いたいと思わせることで

根城として使う契約を結ばせたようです。」


「蘇生の秘術・・・ですか。」


楓も失いかけた命を仙蔵さんに救ってもらった。

蘇生の秘術を否定することはできない。


「命の灯が消えかけていたものの内臓の機能が停止していなかった楓の時とは違い、

晴明の心臓は完全に止まっておった。

奴は無から有を生み出したんじゃ。仙蔵の時とは大きく異なる真の秘術と言えよう。」


「そんな出来事があったのですか・・・。仏の仙蔵、さすがの実力ですね。」


誉め言葉を送られたはずだが、千夏さんは悔しそうな表情を浮かべる。


「まあ・・奴の場合も・・・その秘術を追っていたからな。

再生術に関しては日ノ本だけではなく、海外の国々を含め随一だっただろう。」


「話しを戻しましょう。表では京都を代表する神社として、

裏では秘術を学ぶ密教の社として機能していたのです。

賀茂忠行が亡くなったと公表された後も、

奴はこの賀茂御祖神社を根城として密かに勢力を広げていったのです。」


「・・質問をしてもよろしいですか?」


悔しそうな表情を解き、真剣な顔で千夏さんが口を開く。


「賀茂忠行は何故この賀茂御祖神社を選んだのでしょうか?

縁のある神社であれば高鴨神社がありますが・・・。」


「奴は自ら亡き後も神道省の前身である陰陽省で力を持つために弟子達を陰陽道に送り込んでいました。

奈良も当然日ノ本の歴史に欠かせない都市ではありましたが、

平安時代以降に東京に首都を移すまで都として機能していました。

賀茂忠行が裏で働きかけていたと記述もありますが・・・

京都御所が近いこの場所が奴に取って都合の良い場所だったという事でしょう。」


「なるほど・・・賀茂忠行に取って一番都合のいい場所・・・。

では、東京に皇が移り住んだことは賀茂忠行に取って予想外の出来事だったという事ですか?」


「ええ。東京行幸とうきょうぎょうこうを賀茂忠行は予想していませんでした。

江戸からすぐに帰ってくるだろう、根回しもしてあると書状に残されています。

ですが結局の、皇はそのまま江戸を東京と呼び変え首都としました。


これには様々な人物が関わっておりますが・・・

魔道省初代長官である徳川慶喜も関わっているとされており、

あなた方もご存じの通り、阿部忠秋から言い伝えられてきた内容を明治天皇にお伝えしたからこそ

起きた出来事だったのでしょう。」


ここに来て阿部忠秋の名が出てきた。

賀茂家の使命を支えてくれた俺達の恩人はここまで影響を与えていたのか。


「当時の宮司は皇を呼び戻すために手を尽くしていたようですが、

先程の阿部忠秋の話しと当時の賀茂家の血を引く者との接触により

賀茂忠行が何をしていたのかここで初めて知るのです。


いざという時に日ノ本の役に立つため、蘇生の秘術を学んでいたはずが

まさか大虐殺に手を貸していた事実は当時の宮司や弟子達を深く悲しませました。


ですが賀茂忠行に対抗する手段を持たない彼らは何もすることが出来ず、

ただ今まで通り賀茂忠行に従うしかできなかったのです。」


「・・結局、アンタは敵っちゅうことか?」


純恋は再び強い敵意を向けるがそれをすべて受け入れるように古木さんは佇んでいる。


「ですが元はこの京都を守る歴史ある神社であり、その誇りを宮司は忘れていなかった。

密かに密教を解散させ、再び賀茂家の血を引く者がこの場所を訪れた時に

最大限のお詫びとして力を貸すように言い伝えてきたのです。」


古木さんは神体である鏡に目を向ける。


「・・一昨日の事です。

神体である鏡の手入れをしていた時、私しかいないこの部屋で奇妙な影のような何かが鏡に映りました。

そしてその夜、夢に私と同じ装束を身にまとった者が現れ”時が来た”と伝えてきました。


翌日。何のことかと思っていた所に兼定君から電話があり、賀茂家の血を引く龍穂君が来ると聞いた時に

私の先祖である当時の宮司が伝えてきたのだと悟ったのです。」


そして座卓に置かれた一枚の古びた札を手に持ちこちらに差し出してくる。


「これが我々があなた方にできる最大のお詫びです。

我々が犯した罪に対して足りないと思われても仕方ないでしょう。

ですが・・・”このお方”であれば、必ずあなた方の力になってくれるはずです。」


札に神力を込めると中に封じられていた何かが飛び出し、古木さんの肩に停まる。

漆黒の翼に大きな嘴。出てきたのは烏だが大きさが野生の個体とは異なりかなり大きい。

親父達も同じように式神として使役しているが体に込められている神力が段違いだ。


これは・・・青さんに匹敵するどころかそれ以上かもしれない。


「この式神は一体・・・。」


「賀茂御祖神社を祭神、賀茂建角身命。

あまり耳にしたことがない神様だと思いますが、この神様は別名があります。


八咫烏鴨武角身命やたからすかもたけつのみのみこと

日ノ本の最初の王が国を治めるために東へ遠征で彼を導いた神様です。」


よく見ると通常の烏とは違い三本の足を持っている。

有名な神様である八咫烏が目の前に現れた。


「この神社の祭神である八咫烏様を我々に託す・・・という事ですか?」


「ええ。そのつもりでいます。

賀茂忠行の力は非常に強い。八咫烏様と言えど通用するか分からないほどです。

ですが・・・八咫烏様には人を導く力がある。

心を通わせることが出来れば非常に強力な仲間として共に戦ってくれることでしょう。」


八咫烏様をこちらを品定めする様に見つめてきているが、

いきなり翼を羽ばたかせると飛び上がり純恋の頭に止まる。


「な、なんやぁ!?」


「・・座り心地が悪い頭だ。」


そして嘴を開けるとしゃべるどころか、純恋の頭への悪態を突き始めた。


「人の頭に止まっておいて・・・!!」


悪口を言われた純恋は頭上に手を伸ばし捕まえようとするが、すぐに飛び立ち空を掴む。


そして座卓の上に止まりなおすと俺の方へ向き直った。


「賀茂の血を引くのはお前か。自ら言うのは何だが呪われた血を引いたものだな。」


呪われた血か。間違ってはいないだろう。


「ふむ・・・。面白い神を体に込めている。使役している式神達も面白い。

そして何より・・・込められている神力は相当なものだな。

これなら奴に対抗できるかもしれん。」


「お気に召されましたか?八咫烏様。」


俺の力を品定めしている八咫烏様に向けて古木さんは尋ねるが、その顔は強張っている。


「・・これはこの血を後世に残した俺自身の罪滅ぼしでもある。

だが・・・契約を結ぶとなれば話は別だ。」


俺達に力を託すとなれば式神契約は必須だろう。

強い力を持つ八咫烏様となればそう簡単に契約は結べない。


断りを入れられたのにも関わらず、古木さんは安堵の表情を浮かべる。


「では・・・彼らについて行って下さるのですね?」


「気は進まぬがな。何代も前から何度も願い出られては断ることもできぬ。」


そして再度翼を羽ばたかせると、次は俺の頭を止まり木代わりに使い始めた。


「これで・・我ら一族の罪滅ぼしが成される・・・。」


古木さんは眼に涙を浮かべ、こちらに向かって座り直し手を床に着け深々を頭を下げる。


「ちょっ・・!?」


その姿勢を見て止めに入ろうとしたが、頭に鋭い痛みが差し込んで来た。


「阿保が。しっかりと受け入れろ。」


八咫烏様が固い嘴で俺の頭を突いた。

このお方は歴代の宮司様を見舞ってきた祭神であり、この人達の苦悩を知っているのだろう。


「我らが出来るお力添えはわずかではありますが・・・なにとぞ賀茂忠行を討伐お願い申し上げます。

先程は罪滅ぼしと先走りましたが、あなた方が奴を倒して時こそ我らの罪滅ぼしが成される瞬間。

ですからなにとぞ・・・なにとぞ・・・!!」


涙声で俺達の懇願して来る古木さん。

奥に備えられている鏡には古木さんの後ろに同じ様に頭を下げる歴代の宮司様の姿が見えた気がした。


「・・・・・・・・!!」


必死の願いを聞いている最中、竜次先生が何かに反応して得物を取り出す。

何が起きたのかと辺りを見渡していると、鼻の奥に入ってくる強い血の匂いが飛び込んで来た。

先程外にいた巫女さんが人払いをしてくれたので参拝客などは近くにいないはず。

となるとこの血の匂いは・・・・。


「全員、得物を持て。」


竜次先生の寒気のするような静かで強い声を聞いて得物を取り出し、辺りの警戒を強める。

血の匂いとは別の生臭い匂い。この匂いは・・・深き者ども達だ。


「・・かなりの数に囲まれているな。警戒はしていたはずだが・・・。」


古木さんの話しを聞きながらも辺りを警戒していた竜次先生の探知を掻い潜り、

本殿を囲むほどの深き者共が何故近寄れたのは非常に気になるが、今はそれを考えている暇はない。


本殿は神体を治めるように作られた建物であり、得物を振るには不向きな場所だ。

ここでの戦闘は非常に危険。今すぐここを出なければならない。


「・・皆様、ここは私にお任せください。」


涙をぬぐいながら立ち上がり、胸元から札を取り出す古木さん。


「アンタ、死ぬ気か?」


「こうなる事は賀茂忠行を裏切った何代も前から決まっていたのです。

それが私だった、それだけのことです。」


一枚の札から刀を取り出すと、袴に差して手早くたすき掛けをする。


「しかも賀茂家の方々を守って死ねるとなればもはや本望。ここで引き留めるのは無礼だと思われよ。」


生臭い匂いが血の匂いをかき消していき、どこからか水滴が床に落ちるような音が鳴り響く。


「八咫烏様、後はよろしく頼みます。そして・・龍穂君とそのお仲間の方々。

何度もお願いをして申し訳ないのですが・・・奴を、賀茂忠行の討伐を・・・よろしく頼みましたよ。」


先ほどまで泣いていたとは思えないほどに覚悟の決まった表情を露わにする古木さん。


「本殿の奥に抜け道がございます!!そちらの方へ駆けていきなさい!!!」


式神を出しm勢いよく出入口方へ駆けていく古木さん。自らを囮にして俺達を逃がすつもりだ。


「いくぞ!!!」


指示通り本殿の奥に向けて駆け出す。

後ろからは金属が打ち合った時に響く鋭い金属音や火が燃えるような音。

そして・・・鋭い何かで肉が割かれるような音が耳に入ってきた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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