表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第二幕 修学旅行
110/292

第百十話 重婚

「寒くないか?」


浴衣に着替えて温かい飲み物を買い、一人寂しく待っている桃子に声をかける。


「・・龍穂か、気を使って来てくれたんか?」


「竜次先生に言われたんだよ。桃子が寂しそうに純恋を待っているから行ってやれって。」


桃子もお風呂を済ませたようで浴衣姿だが、上着は着ておらず見るからに寒そうだ。


「上着、持ってこようか?寒いだろ。」


飲み物を手渡し、桃子に尋ねるが首を横に振る。


「大丈夫や。それより少し話し相手になってや。」


すぐ横に置いてある椅子を叩いて座るように催促される。

そのために来たので断ることなく、椅子に座り飲み物の蓋を開けた。


「ふぅ・・・純恋一人で出かけたわけじゃないよな?誰が付いているんだ?」


「私の両親や。お正月前は純恋と父ちゃんと同じで顔は見れたけど、

あんま話しできなかったからちょっと話せてよかったわ。」


桃子も飲み物を飲んで天井を見上げながら一息つく。


本当なら家族水いれずで過ごしたかったのだろうが、純恋のためだと我慢したのだろう。


「そうか・・・。」


「おかげで私は待ちぼうけやけどな。まあこれも従者の役目、しゃーなしや。」


主人の指示に従う役目を持つ従者は、こういった寂しく待つ場面を体験しているのだろう。

楓にも同じよう事をさせていたのかと少し後悔する。


「お父さんに会うってなると時間がかかるか。楓達も呼ぼうかな?」


「申し訳ないからやめてや。犠牲になるのは龍穂だけでええやん。」


「なんだそれ・・・まあいいよ。桃子は大丈夫なのか?純恋に振り回されて疲れてないか?」


「疲れてへんよ。やけど・・・あんま大丈夫やないな。」


「大丈夫じゃない?何かあったのか?」


言葉とは裏腹に深刻そうな顔はしておらず、何か吹っ切れたような表情をしている。


「戦いで活躍出来てないやん。

千夏さん達も苦戦してたけど・・・黒川との戦いで龍穂の力を使って力を付けていた。

私、取り残されてるねん。どうすればええんやろ。」


「桃子は強いよ。魔王の力を操れてきている。

純恋を守る役目があるから見えにくいかもしれないけど、自信を持てばいい。」


力を付けてきていると上向きな意見を桃子に渡すが、何故か少し不機嫌になる。

励ましてほしいわけじゃないのか?


「・・本当にそう思ってる?」


「思ってるよ。安心してくれ。」


念を押して伝えると桃子は明るい笑顔を浮かべる。


「そう思わせてもらおうかな。ふふっ・・・・ん?」


何故か笑っている桃子は何かに気が付いたようで、玄関の方を見ながら立ち上がる。


「お・・かあさん?なんでいんの?」


そこにいたのは桃子に似た長身でスーツ姿の美人な女性。

腰には刀を差しており、護衛を務めていたのが見て取れる。


「色々あってね。でも安心しな、純恋とお父さんは引き合わせたよ。」


駆け寄る桃子の頭を撫でると、こちらに顔を向けて早足で歩いてくる。


「・・君が上杉龍穂だね。初めまして。桃子と純恋が世話になっているね。」


立ち上がって挨拶をすると俺に肩に乗せるためか手が伸びてくる。


「・・・・・・・・。」


勇ましい中に優しさが込められた笑顔に一瞬殺気が差し込むのを感じ、

伸びてきた手を軽く払い、腰に刺さっている刀の頭に手を添えた。


「良い反応だね。でもその体制じゃ足が伸びてきた時は対応できないんじゃないかい?」


見るからに危険な二つを押さえたが、刀の頭を押さえるために前傾姿勢になっているので

顎ががら空きであり、桃子のお母さんからは格好の的になっているだろう。


「・・出していただいてもいいですよ。ですが・・・代償は大きいかと。」


殺気が差し込んで来た時からこの体制になることは分かっていた。

だからこそ、隙が生まれないような布石を打ったうえで止めに入っている。


「殺気を治めてください。出なければ・・・足が吹き飛びますよ。」


俺の周りには無詠唱で作り上げた空弾が漂っている。

至近距離での回避はほぼ不可能。

もしこのまま殺気をぶつけてきたのなら足の一本や二本はもらっていく気でいる。


「へえ・・・でも私には式神がいるよ。まだ詰みじゃない。」


腰にかけている札には確かに式神を封印する印が刻まれている。

動くと同時に式神を出せば、もしかすると空弾は防げるかもしれない。


「いえ、詰んでいますよ。分かりませんか?」


俺の脇から刀が伸びてきて首元で刺さる寸前で止まる。

楓を俺の背中に隠れるように呼び出しており、何かしようとしたら首を刃が貫くだろう。


「・・・いいね、合格だよ。」


殺気が無くなり、両手を上げながら後ろに下がっていく。

そして玄関の方へ眼を向けると、自動ドアが開いた先には純恋と二人の男性が立っていた。

一人はスーツを着ているので桃子のお父さんだろう。どこか面影を感じさせる佇まいだ。


そして純恋に寄り添うようにこちらに歩いてくる和服を身にまとった男性。

少し痩せ細った印象を受けるが、優しい笑顔を浮かべながら俺の前に立った。


「陰陽師を勝ち取った実力は本物みたいだね。いや、疑っていたわけでは無いんだよ。」


「純恋の・・・お父さんですよね。」


ああと一言呟いて俺をじっと見つめてくる。純恋が後からついて来てお父さんの隣に立った。


「龍穂、うちのお父さん。挨拶しいや。」


殺伐として状況だったので純恋の指摘通りちゃんとした挨拶はまだだった。

しっかりと挨拶をするとうんうんと頷いてくる。

桃子のお母さんの行動と言い、何だか品定めをされているようで変な気分になってくる。


「お父さん、龍穂はどうや?気にいった?」


「この年の娘にそれを言われると困るな・・・。」


純恋はなんてことを言っているんだ。

無視してほしいと思っていたが俺の期待を裏切るように口を開く。


「・・腕っぷしもいいし家柄もいい。

抱えている事情を親としては見過ごせないが”使命”を果たせた時、大きな力を手にするだろう。」


俺の使命を口にした。親父達から伝えられたのか、それとも純恋が伝えたのか。


「だが・・・何より純恋が気に行っているんだったらいいんじゃないか?

私は純恋の意志を尊重するよ。」


・・認めてしまった。

また面倒なことを思っていると、後ろにいた楓と遅れてきた千夏さんが俺の脇を固めるように佇む。


「純恋さん、一体何をしているのですか?」


「そっちが無理やり内を攻めたからな。となれば”私達”は外堀を埋めさせてもらうで。」


そう言うと近くにいた桃子の腕を引いて近寄せると、楓と千夏さんに向けて子供のように舌をだす。


「ちょっ・・純恋!?」


「京都に来た時から考えてたんや。

何とかお父さんに龍穂を紹介できひんかって。

忙しい人やから難しいと思ってたけど・・・近くに泊まることが出来た。

あとは兼定さんに頼んでお父さんを京都御所からほんの少しだけ連れてきてもらえばこの通りや。」


透明な自動ドアの先には兼兄の姿が見えるが、何故か俺の方を面白そうに覗いている。

あの人・・俺が困るのを分かっていて純恋の頼みを受け入れたみたいだ。


「純恋、桃子を巻き込んじゃないよ。アンタの従者ではあるけど桃子にも選ぶ権利があるんだよ。」


桃子のお母さんが純恋の頭を小突くが、桃子自身は反論すらせずにこちらを見つめている。


「・・あんた、”それでいいのかい”?」


「まあ・・うん・・・。」


桃子の答えを聞いた二人は笑顔を浮かべるが殺気に似た雰囲気を醸し出している。

昼間に仲が良いと思っていたがこの瞬間、俺の考えが全て瓦解してしまう。


「これは・・とんだ色男がいたもんだね。この子達全員に好かれるなんて・・・。」


俺にはどうしようもできない。

だが好意を受け止めることが出来るのはたった一人。それ以上は日ノ本の法律が許さない。


「さて・・・アンタの答えを聞こうかな?龍穂君。」


桃子のお母さんが俺に迫ってくるが、その様子を見た兼兄がやっとこちらにやってくる。


「まあまあ伊勢さん。そこらへんにしてあげてください。」


「冗談じゃないよ。私の子供達が一人に男に誑かされているなんて親として見過ごせない。

しかも答えを出せないなんて男らしくない。

このままずるずる行けばいい結末なんて迎えるはずがないじゃないのさ。」


綺麗な見た目をしており、傍から見ればおしとやかな雰囲気を醸し出しているが、

伊達様と同等ぐらいに男勝りな桃子のお母さんは兼兄に向かって詰め寄る。


「アンタの弟なんだろ?しっかり答えを出させておくれよ。」


「まあまあ・・・。先ほど伊勢さんが娘さんに言ったように、龍穂にも選ぶ権利はあります。

それを無理やり答えさせようとするということは

この若者達が歩むはずだった青春を奪うことになりかねませんよ?」


校長先生の言葉を借りながら兼兄は言い返す。


「それに・・・龍穂は無理に”選ぶ必要はない”訳ですから。」


あまりに無責任な兼兄の返しが伊勢さんの琴線に触れたのか、さらに詰め寄られる兼兄。

面倒な事になったと思ったのは確かだが好意を受けること自体嫌ではない。


どうやって対応すればいいか分からないだけで、

いずれ自分自身の答えを出してしっかりと責任は取るつもりだった俺に対しても失礼な一言だった。


「それはあんたの弟が甲斐性の無い男だって言いたいんだね?」


「違いますよ。そう言う事ではないのです。」


兼兄はこちらを見ながら言う。一体何が言いたいのだろう。


「伊勢、やめなさい。兼定君の言う通り彼には選ぶ権利がある。

それは誰一人選ばないこともできるし、全てを選ぶこともできるということだよ。」


「・・・全てを選ぶ?一体どういうことですか?」


俺と桃子のお母さんは同じ顔を浮かべている。

純恋のお父さんの言っている意味が深く理解できずにいた。


「間違ってないね?兼定君。」


「ええ、そうです。なにせ龍穂は使命を終えた後、賀茂家の子孫繁栄を皇が直々に求めています。

ですから・・・日ノ本に置いて唯一”重婚”が可能になるのですよ。」


兼兄の口から放たれる衝撃的な一言に、俺は唖然としてしまう。

三道省合同会議終わりに皇から直々にお話をいただいた際に

そんなことを言っていたと遠い記憶に残っているが、

それがまさか重婚が可能になるという意味だったなんて思ってもいなかった。


「ですから彼女達全員を選ぶことが出来るです。

彼女たちはいがみ合っているようですが・・・その必要はない。

むしろこの先龍穂と共に歩む仲間になるかもしれません。

ですから・・・仲良くしていた方が懸命だと俺は思いますがね。」


兼兄は相対している四人に対して言い放つが、誰一人として耳を貸す様子を見せない。


「・・そんなこと全員分かってるねん。

やけどそんなことより誰が龍穂の一番になれるのか、それを私らは競ってる。」


純恋が他の三人に向けてアイコンタクトを取ると、俺の逃げ場をなくすために囲んでくる。


「この先選んでもらうから。誰が一番かをな。」


四人の意志を代表して純恋が俺に言い放つ。

ぐちゃぐちゃの頭で追い込まれ冷や汗が額を伝う。俺は一体どうすればいいのだろうか?



ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ