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第百五話 壮絶な過去

桃子の口から漏らされたのは訃報。

少し察していた部分もあるが、いざ話しを聞くと何とも言えない気まずさがある。


「龍穂が純恋と八海で会う少し前の話しや。

私はその時純恋の近くにおらへんかったから詳しい話しは分からんけど・・・

純恋のお母さん病気で亡くなった。」


「病気か。それは・・辛かっただろうな。」


「だからそんな辛い時の会った龍穂の事はしっかり覚えてんねん。

辛かった毎日を明るく照らしてくれた事、ちゃんと感謝してんねんで。」


幼くして母親を亡くした時に支えてくれた子が俺か・・・。

純恋が俺の事を求めていた理由が明かされる。


「そうか・・・。だから俺がいる東京に来たかったんだな。」


「いや、違う。純恋がこっちに来たかった理由はもっと根深い話しや。

いい機会やからこれも伝えとく。」


先ほどまで和らいでいた桃子の顔が、いつの間にか真剣な表情に切り替わっている。

今からする話しが相当重い内容だということなのだろう。


「純恋の両親は母方が皇族の血が入っとる。

やけど父方は京都御所を守る役目をもつ一族出身で、格もそんなに高くない。

いわば不釣り合いの格差婚。周囲の反対を押し切り無理やり結婚したんや。」


「駆け落ち・・・はしてないか。お父さんは今も京都御所に勤めているんだもんな。」


「警戒はしていたみたいやけど本人達が拒んだんや。

逃げても日ノ本は出られない、なら周りを認めさせようって

父方の家に入って京都御所を守る役目を勤め始めた。


やけど・・周りの皇族からひどい扱いをされてな。

皇族の血を汚した者。

お前にはもうこの国の王の血は入っていないとか色々な事を言われたみたいやけど、

本人たちは気を病むことなく戦い続けた。


京都御所の仕事を完璧にこなし、皇の手助けもあって徐々に二人を認め始めた。

念願の子供の純恋も生まれ、忙しくも楽しい毎日を過ごしていたとある日・・・

お母さんが倒れてもうたんや。」


桃子のわずかな説明でも壮絶な毎日を過ごしてきたことが伝わってくる。

だが・・・ハッピーエンドは訪れない。


「末期の癌やった。

懸命の治療も虚しく亡くなってしまったんやけど、本当の地獄はここからや。

皇族を殺した。日ノ本を汚したとお父さんが周りから避難をされ始めた。

それは徐々にエスカレートしていき、

命に危険が迫ることもあったみたいやけどそれでも逃げずに一人で戦ったんや。


やけど大切な一人娘である純恋に対しても不満が飛び始めて、

密かに皇に直訴して伊勢に避難させた。

龍穂の家に遊びに行ってたのは伊勢家に純恋を迎えるための準備期間を作るためや。

お母さんを亡くし、ボロボロになった純恋の心を龍穂に癒してもらった後、私は純恋を出会ったんや。」


今更になるが純恋との思い出を振り返ると

確かに初めはかなり暗い表情で、酷くふさぎ込んだ感じだった。


純恋のお母さんが亡くなっていると知ったのはついさっき。

そんなことは知らずに遊んでいたが、

悲しみを忘れるには憐みのない純粋な気持ちの方が良いと親父が判断したのだろう。


「従者として失礼の無いように堅苦しく接していたんやけど、純恋は私と友達になりたいと言ってきた。

その時には記憶は封印されていたんやろうけど、

龍穂との楽しい思い出が体に刻み込まれていたんやろうな。


私のお母さんは純恋に仕える身ではあるけど、母親代わりとして優しく、時には厳しく叱ったり。

それなりに楽しく過ごしていたんやけど・・・

ここで純恋に目を付けていた皇族たちの魔の手が純恋を襲った。」


「・・玉藻の前か。」


「ああ。皇族の中でも純恋の才能は飛びぬけていた。

そんな純恋を羨み、妬んだ奴らが日ノ本の汚した罪を挽回させてやろうと

玉藻の前の封印を提案してきた。

当然皇や私達は反対したで。でもな、本人である純恋がそれを望んだんや。」


桃子本人は気付いていないだろうが話しに力が入ってきている。

その当時の状況を思い出し、行き場のない怒りを抱えているのだろう。


「自分が玉藻の前を封印できれば周りの見る目が変わり、

京都御所で働いているお父さんを少しでも助けられるかもしれないと純恋は考えていたんや。

そして幼い体に玉藻の前を封印した。それでも・・・奴らは二条家を見る目を変えなかった。


そもそも変える気はなかったんやろうな。

むしろ日ノ本を混乱に陥れた化け狐を体の中に入れて、さらに汚れた血になったとバカにしてきたわ。

一人にしないために私も魔王を体に封印したけど・・・純恋の心はボロボロやった。

封印の影響で体調を崩して多分一番辛い時期やったと思う。


純恋、京都校の子達嫌いやったやろ?

この時に汚い大人たちに騙されてから、腹に一物を抱えて近づいてくる奴らを全く受け付けなくなった。

トラウマになっているんやろうな。」


純恋が交流試合で生徒達と距離を取ったり、先生に強く当たっていた真実が明らかになる

そしてそれと同時に日ノ本の闇の一部を覗いてしまった。

純恋はずっと自らの地位のために家族を陥れようとする奴らと戦っていたのか。


「それは・・・辛かっただろうな。」


「純恋は龍穂にそれを気にしてほしいわけやない。

でも覚えておいてほしいんや、純恋は今でも戦っている事を。

そんで出来れば力になってほしい。純恋とお父さんを救うために・・・。」


桃子も純恋と同時に戦っている。

だけど・・・皇族相手に力になるなんてできるのだろうか?


そんな汚い奴らに下手に手を出せば日ノ本に反逆したと言い出しそうだ。

そうなればさらに純恋達が傷つくことになる。

頷くことさえできずにいると桃子が口を開く。


「・・これは一つの手やで?

このまま龍穂が賀茂忠行を倒したら、

遥か昔から日ノ本を脅かしてきた悪党を成敗したって国の英雄として名があがるやん。


そんな龍穂と純恋が結婚したら、

国の英雄を日ノ本の皇族に迎え入れたとして純恋達の見る目が変わるかもしれん。

そうすれば純恋達を貶すなんてことはそう簡単にできんはずや。」


「だけど・・二人と式神契約結んじゃったんだよなぁ・・・。」


遥か昔だが陰陽師が結婚した証として式神契約を結んでいたらしく、

楓と千夏さんに責任を問われているのでそれなりの対応をしなければならない。


なのでそう簡単に結婚するなんてできないと

暗に桃子に伝えると、何故かきょとんとした顔でこちらを見つめている。


「別に・・関係ないやろ?賀茂忠行を倒せばどうにでもなるやから。」


どうにでもなる?桃子は何を言っているんだ?


現在の日ノ本では一夫多妻は禁じられており、婚約相手はたった一人しか認められていない。

桃子の言いかただと俺がいくら結婚したとしてもかまわないような口ぶりだったが、

法に触れて本当の罪に問われることになる。


「いや、誰彼構わず結婚なんてしたら捕まるだろ?」


正論を桃子に返すと、何故かしまったという表情と共に口を押さえてそっぽを向いてしまう。


「・・聞かなかったことにして。」


・・どういうことだ?

今の発言が桃子にとってマズイ発言なのは分かるが、それがなぜなのか理解できない。

問い詰めようと口を開いた所で境内に響く元気な声が耳に入ってくる。


「買ってきたで~!!」


意識外の声に驚いて顔を向けると、純恋達が屋台の食べ物を両手に持ちながらこちらへ歩いて来ていた。


「幸運な二人への貢物って・・・どうした龍穂。驚いた顔して。」


「あ、いや・・・。何でもないよ。」


先ほどまで純恋の暗い話しをしていたので、説明するのはまずいと平然を装う。


「本当か~?桃子を口説いてたんちゃうやろうな?」


手に持っている荷物を俺に押し付けて桃子の腕に抱き着き、渡さへんでと言い放ち俺に舌を出す。


「こ、こら純恋!お行儀悪いで!」


桃子も切り替えて純恋を叱るが、

先程聞いた話しからは想像できないほど明るい純恋の姿を見て俺も思わず笑顔がこぼれる。


「あ!笑ったで!確信犯や!!」


ふざける事を止めない純恋を見て楓と千夏さんも笑っている。


「まあまあ、純恋さん。龍穂君が悪いですがここは落ち着いてください。」


「ちょ、ちょっと!?」


予想外の千夏さんの発言に思わず突っ込みを入れると、純恋が俺の方を指さして大笑いをする。


「あはは!千夏さんはお笑いを分かってるな!」


「ふふっ。冗談はここまでにしてここからは離れましょうか。

年越しを迎えてここからさらに人が増えるでしょうから、

ここで食べてしまうと邪魔になってしまいます。


ですから少しお行儀が悪いですが、道中で食べながらおじいさまのお家に帰りましょう。」


周りを見るとさらに人が増えてきており、

このままだと移動するのすら困難になってしまうかもしれない。

千夏さんの指示に従って出口にに足を向けて歩き始めるが、純恋は桃子の腕を離さずに歩いている。


「楽しいわぁ・・・桃子もそう思わへん?」


心の底から出た言葉なのだろう。上目遣いで尋ねる純恋に向かって漫勉の笑みで返す。


「そうやねぇ・・。こっち来てよかったわ。」


二人の苦労が分かる一幕だ。

この二人を守りたいという気持ちが自然と溢れ出してくる。


人はそれぞれ様々な事情を抱えている。

それは大なり小なりあるだろうが、国學館のような格が高い一族が集まるような場所なら

なおさら複雑なのだろう。


手の届く範囲の人達を守る。その大変さを皆を過ごしていくと強く感じる。


確実に俺は強くなってる。

それは周りにいる純恋や千夏さん達も同じだが、強力な敵に毎回手こずってしまっている。

帰り道にみんなが浮かべる笑顔。俺はしっかり守れ切れるのだろうか?

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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