第百二話 与えられた罰
千夏さんの部屋に向かっていると、ドアの前に雫さんの姿が見える。
「・・おっ、来たね。」
どうやら俺を待っていた様だ。
「あの・・・千夏さんに呼ばれたんですけど・・・・。」
「聞いているよ。罪作りな龍穂君?」
雫さんの言葉が俺の心に刺さる。
千夏さんのお姉さんの役目をしている人だ。何を知っていてもおかしくはない。
「・・すみません。」
「謝る必要はないよ?でも・・自覚があるのならしっかり”答えてあげて”もいいんじゃない?」
「答えた・・つもりではいるんですけど・・・。」
「・・相手が喜ぶ答えだけを与えて満足させるだけなんて自分勝手だね。それじゃ逆に嫌われるよ?」
俺が出した答えに雫さんは怒っている。
確かに中途半端な答えではあると思っているけど・・・俺の素直な気持ちを二人に伝えただけだ。
「それでも俺は・・・。」
「これだけ言っても自分の意志は曲げないんだね。そこだけは評価できるかな。」
俺の答えを最後まで聞かずに、雫さんは部屋のドアの前を開ける。
「千夏ちゃんが選んだ男だから間違いないとは思っているよ。それでも、一応言っておくね?」
そして立ち去るために廊下を歩き、俺の横に来た時。低く声で呟く。
「これ以上あの子を悲しませることがあったら、その時は・・・分かっているね?」
殺気の籠った声を俺の耳に差すように発し、立ち去って行った。
「・・・・・・・・。」
悲しませるつもりはない。
だけど・・・俺が出した選択肢が千夏さんを悲しませてしまうのであれば・・・・。
(・・・どうする。)
今ここでどちらか選ぶか?
いや、既に出した答えを引っ込める事は出来ない。
大きく深呼吸をして千夏さんの部屋のドアをノックする。
もう結論を出してしまったんだ。もう腹を括ったはずだ。
「・・・・はい。」
部屋の奥から千夏さんの声が聞こえる。
「龍穂です。入っていいですか?」
「どうぞ。」
入室の許可が下りて扉を開けると、
寝間着姿の千夏さんがベットに座っており、少し俯いて少し緊張の面持ちをしていた。
「用事って・・何ですか?」
最低限の生活家具が綺麗に整理整頓された千夏さんらしい部屋に足を踏み入れる。
ベットに腰を掛けている隣に座るのはあまり良くないと思い、
千夏さんの前に立つが何も言ってこない。
「・・・・・・?」
聞こえなかったかなと思い、もう一度尋ねるために口を開こうとしたその時、
家鳴りのような音が部屋に響く。
「!?」
その音が聞こえてきた方向、入ってきたドアの方を見ると
そこには札を張っている楓の姿があった。
「・・龍穂さんが悪いんですからね?」
楓が真剣な顔で俺に語りかけてくる。
張られた札に書かれているのは封印の術式。
しかもただの封印ではなく、音を遮断する遮音の結界も兼ねているようだ。
「こちらに掛けていただけますか?」
ここでやっと千夏さんが口を開くとベットの上を軽く叩き、座るように催促して来る。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
嫌な予感がする。
それをひしひしと肌で感じていた俺は足を動かせずにいたが、
こちらに近づいてきた楓が俺の腕を抱くと、力強く引っ張り無理やりベットに座らされる。
お日様の匂いがする柔らかいベットで助かったが、ほぼ叩きつけるような強引な行動。
楓が俺にこんなことをしたのは記憶にない。
「用事と言いますか、一つ確認をさせていただきたいのです。」
千夏さんの声はひどく緊張している。その理由に・・・心当たりがある。
「昨日の答え・・・聞かせていただけますか?」
千夏さんの告白の答え。それを求めている。
「・・・・・・・・・・・・・。」
口が開かない。それは千夏さんに対する答えが決まっていないわけでは無く、隣に楓がいるからだ。
ここに楓がいるという事は昨日の答えを白黒つけるという事なのだろう。
千夏さんに答えた後、すぐさま楓から同じ質問が飛んでくるはずだ。
「私は・・龍穂君をお慕いしています。
龍穂君は・・どう・・思っていらっしゃいますか・・・?」
「俺は・・・・・・。」
ここまで来たら答えるしかない。そして・・・ぶれるわけにはいかない。
「千夏さんの事は・・・好きです。
お慕いしている気持ちを・・受け取りたいと思っています。」
俺の答えを聞いた千夏さんは小さく息を飲む。
一応嬉しいと思ってくれているみたいだ。
「じゃあ・・私はダメってことですか?」
予想通り、楓が俺に尋ねてくる。
その声は・・今迄に聞いたことの無い悲しく、すがるような声だった。
「いや!そうじゃ・・なくて・・・。」
「そうじゃないって・・どういう事なんですか・・・?」
「・・・・俺は楓の気持ちも嬉しい。
昨日直接言葉を受け取っていないけど・・・そう言う事だと思っている。」
「・・ええ。好きだという事を素直に伝えるためにキスをしました。」
「だから・・それも・・・受け取りたいとは・・・・思ってる。」
自分で言っていてなんとも情けない受け答えだと実感する。
二人に好意を向けられること自体は問題ないだろうが、それを受け取ることが出来るのは一人だけ。
そんなことを分かっていなかったのかと自分が情けなくなる。
会わせる顔が無いと思わず俯いてしまった。
「・・龍穂さん。今ご自身が何を言っているのか分かっていますか?」
俺の答えを聞いた楓が、責める前口上を言い放つ。
「私達両方の思いに答えたい。そうおっしゃる意味、分かっていらっしゃいますか?」
俺の腕を掴む力が強くなっていく。
「・・龍穂君があの映画館で握った両方の手。
両方の思いに答える、その”罪”を自覚していらっしゃいますか?」
千夏さんも俺を責めてくる。
それは当然の権利であり、受け入れるしかない。
「龍穂君。あなたは悪いお人ですね。」
二人の言葉が心に刺さっていき額からは汗が滲んでくる。
「これは・・・罪です。私達の心を大きく傷つけた罪。
ですから・・・罰を与えなければなりません。」
腕を掴んでいた手が離れ、楓の足が俺の前までやってくる。
「この罰は傷つけられた私達が行います。龍穂さんは・・・受け入れる覚悟がありますか?」
受け入れるしかない俺は俯いたまま首を縦に振る。
「千夏さん、覚悟は良いですか?」
そして罰をする千夏さんにも尋ねる。
「・・・・・・・・ええ。」
千夏さんも返事を返すと楓が俺の肩を叩く。
こちらに向けと言う指示だと首を上げると、
サキュバスの翼を広げ、その翼で俺を包みながら体を近づけてくる楓の姿が目に写り
「んんっ・・・。」
昨夜の様に唇を奪われた。
昨夜より口の中に迫ってくる楓。これは・・罰なのだろうか?
広げられた翼に視界を遮られ、周りで何が起こっているか分からない。
まるで自分だけ見てほしい、そう俺に伝えてくるようだった。
「・・・ぷはっ!」
一分ほどたった後、楓がやっと唇から離れてくれる。
「今から・・・罰を与えます。罪を清算したいのなら・・抵抗しないでください。」
そして額と額を合わせ、愛おしそうにこちらを見つめてくる。
「この罰の証は・・・一生刻み込まれます。ずっと背負ってもらいますからね・・・?」
刻み込まれる・・?楓達は俺の体に何かしようとしている。
「・・・・・・分かった。」
俺は拒否権はない。むしろそれくらいで済むのであれば拒否する理由はない。
「良い子ですね・・・。」
楓が俺の額にキスをすると、翼をしまい視界が広がる。
ベットから離れた楓の横には白い小袖を着た千夏さんが立っているが・・・下を履いていない。
「えっ・・ち、千夏さん?」
何かの間違いだと視線を逸らすが、千夏さんは動じる様子すら見せずににこちらを見つめる。
「・・龍穂君は人間との式神契約のちゃんとした方法をご存じですか?」
近づいて来る足元が見え、両頬に小さい手の感触が現れる。
優しく俺の顔を上げると先ほどとは違い、頬を赤らめた千夏さんの顔が目の前に現れた。
「わから・・ないです。」
「式神契約は刻印を刻みます。
お互いの体液と体液、神力と魔力が交わった状態での儀式を行いますが、
現代では簡略された儀式方法だと言われています。」
俺の部屋で楓と行ったのがそうだ。俺の血と楓の唾液で行った契約の儀式。
一度途絶えてしまったがその時の傷跡はまだ残っている。
「原初の儀式方法。それは契約を深く刻み込みお互いの力を大きく向上させると言います。
私達はこれからも龍穂君と共に戦いたい。だから・・・力を分けてほしいのです。」
千夏さんは羽織っている小袖を繋ぎとめるための紐をつまみ・・・引っ張る。
大きめの小袖は、小さな千夏さんの体に引っかかることなく重力に逆らわずに床に落ち・・・・
「・・・・・・・・・・・・。」
白い下着のみを身に着けたの千夏さんが露わになった。
「は・・・・え・・・・・?」
思ってもいない出来事に体は固まるが、視線は千夏さんに釘付けになる。
誰も手をつけていないであろう白い肌に引き締まった体。
赤らめている頬は俺の視線を感じている証拠であり、恥ずかしさからか手を前に組んでいる。
「その・・・この姿であれば・・・・大体予想は出来ていると思います。
龍穂君も・・・男の子ですし・・・・。」
千夏さんは何かを言おうとしているが、言葉が喉から出てこない。
それは決して忘れているのではなく、その恥ずかしさから言えないのがよくわかる。
「ねえ、龍穂さん。」
俺の隣に楓が座るが、先ほどまで寝間着を身に着けていたはずの楓も黒い下着しか身に着けておらず
引き締まった体に実ったものをこちらに押しあててきた。
「さっき下で千夏さんが手渡した飲み物あるじゃないですか?
あれ、ドラッグストアで買った精力剤が入っているんですよ?」
体からは汗が止まらない。
それは先ほどの強い後悔と焦りが引き起こしたにしては体のほてりが抜けない。
楓が俺の寝間着のボタンをはずしながら耳元でささやく。
「恥ずかしがっていますけど・・・千夏さんもやる気満々なんですよ?
当然私も・・やる気はありますよ?」
上を全て剥がれた後、楓が立ち上がり、俺の前に並んだ二人が左右の手を握る。
「どちらにしますか?千夏さんからか私からか。
あの時は両方選びましたが・・・今回は許しません。初めにしたいほうを・・握ってください。」
これは・・罰と言っていいのだろうか?
いや、二人が罰と言うのならそうなのだろう。
刻むのは俺の方であり、二人はそれを望んでいる。
「・・・・・・・・・・・・・。」
異常なほどに高鳴る胸。そして回らない頭。
緊張が最高潮に高まり、正常な判断が出来ないかもしれないが・・・決めなければならない。
本能に従い、決めた方の手を強く握ると・・・明かりが消え、部屋が闇に包まれた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




