3:女子禁制?
そんなこんなで2週間が経ち、夏も本番真っ盛りを迎えようとしていた。
そう、恐怖の夏休み。
この時期になると、子供やお母さんたちが昼間っから店にやってくる。店内の気温も一気にあがり、タオルが欠かせなくなってくる。
蓮治もここ最近、昼間は店に顔を出さない。だでさえ汗っかきなのに、人の多さと店内のサウナ状態に更に止まらなくなるからだとか・・・。
後から聞いた話だと、トラックに閉じ込められなくても尋常じゃない汗をかく蓮治はいつも着替えなんかをロッカーに大量に持っているらしい。
しかも、バイクで通ってるから、電車なんか乗ってないって。・・・ってことは、私はまんまとはめられて家へ上げたってことじゃない。
悔しい・・・。
「よくも騙してくれたわね。まったく、新陳代謝どんだけいいのよ。」
嫌味たっぷりにそう言ってやったけど、電車だったらって例えを出しただけ。と俺は悪くない発言。
しかも、汗をかくのは若い証拠、あぁ、若いってすばらしいね。と流されてしまった。3つしか変わらないくせにっ。ふんっっ!!
休憩にもなるとバックヤードの休憩室には行かず、その途中にある例の事件のあった荷物搬入口付近で休憩をとることが多くなった。
シャッターが開いていて風通しもいいし、コンクリートが気持ちよくて思わず寝転がってしまいたくなる。ってか、寝転がってる。
今日もゴロンと仰向けに寝転がると、大の字に体を伸ばす。そよ風が気持ちよくて、目を閉じる。
いつのまにか寝てしまったらしい。
顔につめたいものを感じる。しかもちょうど眉間のあたり。顔を振っても、振っても追いかけてくるように眉間に当たる。なんだろう。
うっすらと目を開けると、涙を瞳いっぱいに浮かべた小さな男の子だった。ゆるゆると口を開いたかと思うと、
「ママァ・・・。」
違います。
私はママじゃありませんから。
急いで起き上がりあたりを見回すけど、ここはバックヤード。
普段からお客さんが入ることなんてまずありえない。でも、この子はここにいる。
まったく親は何やってんだか。
「どうしたの?ここは入っちゃダメだって書いてなかった?どうやって来たの?」
極力怖がらせないようにと、目線をあわせ、それなりのスマイルで聞いてみた。すると男の子は私の手を引き、入ってきたらしい入口に案内する。
いくつかあるバックヤードへの扉のうち連れてこられたのは、つい最近扉が壊れて営業時間内は開けっ放しにしてある扉。
「あぁ、張り紙が見えなかったんだねぇ。」
ポンポンと頭を撫でると、涙を流しながらくっついてきた。ん~カワイイ。
「僕、おトイレなの・・・。」
ええぇぇ~~??!!
あとは解るでしょ?
急いで子供を担ぐと、従業員用のトイレまで猛ダッシュ。
ズボンもパンツもいっぺんに引っぺがすと、ストンと便座に座らせた途端、思いっきり・・・。あと数秒遅かったら・・・
いやぁ~~!!!
「ふぅ、よかったね。間に合って。」
男の子の頭を撫でながら安心のため息が漏れた。話しかけながらも、コレは半分自分に言い聞かせた言葉な気がする。
「おねぇちゃん。ありがとう。」
すっきりしたのかさっきまでのぐずぐずは無くなり、笑顔がこぼれていた。
トイレから出ようとすると、ちょうど入ってくる人と鉢合わせ。すいません、と横を通ろうとして頭の上からの聞き覚えのある声に驚いた。
「ちょっと、ここ女子トイレよ!!あんたの入るのはアッチ!!このスケベッ!!」
ビシィ~ッ、と指を反対側の男子トイレへ指した・・・・はずだっだのに。
あれ?おかしい。反対側の扉に見えるのはニコニコ顔の女の子。男子トイレには帽子を被った男の子が描かれていたはずなのに。
「お前が、スケベだよ。ここ男子トイレだけど?」
えっっ?振り返ると、ずらりと並ぶ男子用のトイレ。
あぁ、思い出した。トイレに入る瞬間この子が僕はアッチ!と男子トイレを指差したんだ。迷ってる暇もないし勢いでそのまま私まで入っちゃったんだ。
「そっかぁ。思い出した。こっちが男子トイレだったねぇ、うん、スッキリ。」
「何がスッキリだよ。俺だってスッキリしてぇよ、てっかお前は男だったのかよ。」
かなり考え込んでいたのか、蓮治はもう我慢できないらしく、乱暴に私をどけるとトイレの前に立った。
なっ、女の子に向かって何よその態度はっ。ムッと睨みつけていると、蓮治の口から大きなため息が出る。
「お前さぁ、見られてたら出るものも出ないし、出すものもだせないでしょ?」
何言ってんの?と口を開きかけたとき、コレコレと蓮治が人差し指で自分のズボンのを指す。
丁度、股間の辺り・・・と思った瞬間、一瞬にして顔が沸騰したかと思うくらい熱くなった。私は子供を抱えると猛ダッシュでその場を去った。