2:アクシデント
私と蓮慈の知り合うきっかけになったのは商品の搬入。
レジだけではなく、長くバイトをしていると仕入れや搬入、在庫の管理なんかも任されてしまう。
ようは、いいように使われてるってだけ。
頼まれると断れない性格の私はそのうってつけ役。特にいやでもないし、最初は未知の世界に足を踏み入れる瞬間みたいにドキドキしてた。
そんなある日。
トラックから荷物を降ろし終え、最終確認。バッチリと思ってトラックを見ると運転手がいない。後ろをみると荷台のドアも開けっぱなし。
「無用心だなぁ。」
私はトラックの扉を閉めると、多分休憩室にいるであろう運転手のおっちゃんのとこまで走った。
「荷台の扉閉めといたから。」
タバコと缶コーヒーを持って店員と立ち話をしていたおっちゃんに声をかけると、ういぃ、と片手を上げて答えた。
ついでだと私にもジュースをご馳走してくれて、その場で5分ほど談笑。その後トラックまで戻ってみると人だかりができていた。店長がトラックの後ろでオロオロしてる。
「どうしたの?」
近くに居た子に聞いてみると、どうやらトラックから物音がするらしい。誰かが閉じ込められているとか・・・。
まさかっ。おっちゃん人さらいでもしてきたの?
ワシのトラックじゃぁ、とドカドカ歩いて近づく。確かに物音と人の声。みんなにさがっちょれ。と人払いをすると、思いっきり扉を開いた。すると、おおきな物体が倒れこんできた。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思ったぁ。」
その汗だくのびしょぬれの物体こそが蓮慈だった。
いつもは私とおっちゃんの2人で荷物を降ろすんだけど、合い積みしてきた荷物があったらしく、その担当が蓮慈だった。しかも灼熱の太陽の下に停めてあったトラックの中はドンドン温度が上がってみたい。
「ごめんっ、私が中確認しないで扉締めちゃったから閉じ込められたんだよね。」
横たわる蓮慈に申し訳なくて持っていたジュースを差し出した。
引っ手繰るようにジュースを奪った蓮慈は一気飲みをしたのはよかったけれど、炭酸飲料だったので喉でつっかえたのか思いっきりむせて噴出した。
そう、私の顔面に向かって・・・。
その後は喧嘩に発展。私がサイテーと叫べば、誰が閉じ込めたんだと蓮慈が呆れる。ギャーギャー言い合っているうちに、周りにいた人だかりもなくなり、おっちゃんまでもが、後は若いモンで・・・。なんて意味不明なこと言いながら去っていった。
「とりあえず、帰るか。」
落ち着いたところで、蓮慈が言うもんだから、またイライラが。
「誰のせいで帰ることになったと思ってんのよ。」
顔面はねばっこいし、白いTシャツは炭酸飲料の色で変色しちゃってる。見かねた店長が今日はもう上がっていいって。
蓮慈は立ち上がるとパンパンと膝についた埃を払い、からのペットボトルを私に渡した。
「ついでだし、俺もシャワーかして。」
「なっ・・何のついでよっ。私のせいで閉じ込められたからって、1人暮らしの女の家に上がりこむなんて、とんだ狼男じゃない。」
一歩後ずさって大声で叫んだ。
冗談じゃない。なんで家に男を入れなきゃいけないの。確かに私が悪いことしたと思うけどさ、だからって何でシャワー貸さなきゃならないわけ?意味わかんない。
「俺にこんな格好で帰れって?こんな汗だくで?誰のせいで汗だくになったと思ってんの?サウナに閉じ込めれたからだぜ?それとこのジュースの匂い。汗とミックスしてすごい匂いしてんだろうなぁ。電車だったら他の人に迷惑だろうなぁ、お前のせいで俺が白い目で見られるんだろうなぁ。」
そりゃ確かにそうだ。こんな奴が乗ってきた日にゃぁ車内が地獄と化してしまうかも。
「それに、罪のない人たちを巻き込むのか?」
・・・・敗北決定。
結局、バイトの近くに借りていたアパートまで蓮慈を連れて行った。
蓮慈に先にシャワーを使わせて、帰ったのを確認してからシャワーを使った。
使ったタオルはきちんとたたんで置いてあるし意外といい奴かも。なんて思っていたけれど、そのタオルをどかすと・・・
「なっ、何よこれぇ~!!!」
そこには無造作に脱ぎ捨てられた蓮治のTシャツと、ひょう柄のボクサーパンツらしきものがおいてあった。
しかも、ピンク。ぴんくってどうなのよ。人に見せられるようなパンツはいてよね!!
次の日、その怪しい物体をスーパーを袋につめて奴の前に突き出してやった。蓮治は驚いたものの、子供のような笑顔でと笑うとサンキュッ!と袋を受け取った。
一言言ってやりたかったはずなのに。
着替え持ってるじゃん。とか、忘れてくなっ。とか、悪趣味っ。とか。
でも言葉が出てこない。
そんな笑顔見せないでよ。あまりのギャップに一瞬胸がキュンとしちゃったじゃない。