158、飼育方法
「ミルクが貯まるのを待つ間に、ホワイトカウの飼育方法を説明しても良いかな?」
俺のその言葉にカルフォン伯爵がすぐに頷いてくれたので、俺はホワイトカウの飼育について重要なポイントを話すことにした。
「まずホワイトカウの飼育場なんだけど、基本的には広く作ってその中で自由に動かせてあげるんだ。だから……今のこの柵は狭すぎるかな。三匹でもこの五倍ぐらいの広さは欲しいかも」
「そんなに広くないといけないのですね」
「その方がストレスを感じなくてミルクの味が良くなると思う。あとホワイトカウの寿命も伸びるよ」
まあこれは、前の世界とこの世界のホワイトカウが同じだった場合なんだけど。でも見た目は……ほぼ完全に一致してるし、性質も共通点は多いはずだ。
「それはやるべきですね」
「うん。数が増えたからって倍々に広くしていく必要はないから、この十倍ぐらいの広さになら五十体ぐらいは飼育できると思う」
「かしこまりました」
「次に……餌かな。捕まえてから餌は何をやってた?」
俺のその質問に答えてくれたのはヴィッテ部隊長だ。
「ニワールと同じものということで森から適当に取ってきた雑草をあげたのですが、あまり食べてくれなくて」
「あぁ、それは食べないかもね。ホワイトカウの餌は基本的に枯れ草なんだ。飼育してるホワイトカウにあげるなら、藁が一番良いと思う。あとはトウモもたまにはあげると、ミルクの味が濃く美味しくなるよ」
捕まえた時からほとんど餌を食べてないなら早めにあげないと可哀想かな。ホワイトカウは一日のほとんどを食事に費やすほど、量を食べる魔物なのだ。
「空間石に少し入ってるから、藁をあげちゃおうか。パトリス、お願いしても良い?」
近くにいたパトリスに声をかけると、パトリスと数人の冒険者が藁を囲いの中に運んでくれた。するとホワイトカウは、少し警戒しながらもすぐに藁を食べ始める。
「本当ですね……今までは全く食べなかったのに」
「これからはとりあえず藁さえあれば大丈夫だよ。今あげた量の、五倍ぐらいで一食かな」
「そんなに食べるのですか!?」
「うん。だから藁を他の領地から買った方が良いかも。うちの領地で大量に出るから、ミルクと米の交易を整える時に藁も運べるように手配しようか?」
後半の言葉はカルフォン伯爵に向けて発すると、伯爵は「ありがとうございます」と深く頭を下げた。
――よしっ、これでまずはうちの領地との交易を整えることになるな。
俺は父上の要望に応えることができそうで、ほっと安堵の息を吐いた。まあ理由がなくても、うちの領地との交易を優先させることはできるんだけど。何か理由があったほうが伯爵も気が楽だろう。
「次にミルクの管理に関してなんだけど、まずホワイトカウの乳房は毎日綺麗に拭き取って清潔にしてあげて欲しい。それをしないとミルクの品質が下がるからね。あとは体も定期的に洗ってあげたほうが良いかな。それからもちろんだけど、飼育場の掃除もしっかりね」
まず何よりも必要なのは清潔感だ。これを実現するのは簡単なようでかなり手間がかかるだろうけど、これをしないとミルクに悪いものが混じってすぐに傷んでしまったりする。
「管理は徹底しないとダメなのですね」
「そうだね。そうして採取したミルクはできれば大きな鉄製の蓋がある器に入れて、氷で冷やしたい。冷やさないと昼間なら数時間でダメになるよ。だから保管場所に製氷器は必須かな。交易を整える時にも、品質維持には気をつけようか」
「かしこまりました。製氷器は一つあるのですが、追加で購入を視野に入れようと思います」
最近は製氷器の生産も順調だし、購入しようと思えばすぐに買えるかな……一応カルフォン伯爵を優先するように伝えておこう。このぐらいの贔屓は良いだろう。
それからも色々と細かい注意事項を話していると、意外と時間が経って採取していたミルクが溜まったようだ。俺は自分で囲いの中に入って、採取していた容器を取り外して中を覗くと……中には綺麗な真っ白のミルクが入っていた。
ミルクを持って囲いの外に出ると、皆が興味深そうに近づいてくる。まず口を開いたのはティナだ、
「これを、そのまま飲むのですか?」
「……そういえば、説明を忘れてた。これはそのまま飲むんじゃなくて、一度火にかけて殺菌するんだ」
そのままでもいけるとかって書いてある本もあったけど、高温で殺菌するのが基本だって書かれてるのがほとんどだったし、ここは殺菌すべきだろう。やっぱり火を通さないって怖いよな。
「火にかけるのですね」
「うん。だからこれから大量にミルクを採取するようになったら、大きな釜が必要かも」
その言葉にカルフォン伯爵が頷いてくれたのを確認して、俺はさっそく殺菌を実演してみようと空間石から鍋を置くための石を取り出した。
そしてその石に魔法陣魔法で火を燃やして、採取したミルクを鍋に入れてミルクを火にかける。
「どのぐらいの時間を火にかければ良いのでしょうか?」
「沸騰させてから三分が基本かな。ただ心配ならもう少し長くても良いと思う」
俺はカルフォン伯爵にそんな説明をしつつ、空間石からレードルを取り出してミルクを混ぜ始めた。




