157、ホワイトカウとの再会
俺が馬車から降りると、パトリスとヴィッテ部隊長がすぐに駆け寄ってきてくれた。二人とも元気そうで良かったな。
「フィリップ様、ご足労ありがとうございます!」
「俺が見てみたかったから良いんだよ。この柵の中に魔物がいるの?」
「はい。さっそくご覧になりますか?」
「そうだね。カルフォン伯爵、俺が見ても良いかな?」
「もちろんでございます」
一応カルフォン伯爵に確認を取ってからヴィッテ部隊長に頷いて合図をすると、ヴィッテ部隊長は俺を柵が途切れている部分に案内してくれた。王宮でニワールの飼育場を作った時のように、一ヶ所だけ木箱を置いて出入り口にしているようだ。
「ティナも見る? 怖かったらここで待っててくれても良いけど」
「いえ、私も見てみたいです」
ティナは瞳を輝かせてそう言ったので、俺はティナの手を取ってから木箱を退かすよう騎士にお願いした。そうして木箱が無くなった隙間から柵の中を覗いてみると……中には三匹の魔物がいた。
あれは……間違いない、ホワイトカウだ!
「どうでしょうか? 色合いや形、それから魔物にしてはおとなしい性格までフィリップ様から聞いていた特徴と一致しているのですが……」
「あれは確実にホワイトカウだよ」
「おおっ、やはりそうだったのですね!」
これでついにミルクが手に入る……! ミルクがあればお菓子系が発展するだろうし、俺はシチューやミルク煮が大好きなんだ。
「ではあの魔物が、我が領地の特産品となるのでしょうか?」
「そうだね。でもあの魔物自体じゃなくて、あの魔物から取れるミルクが特産品になるよ」
とりあえずホワイトカウを飼育するのに最低限必要なものを揃えて、後は餌もあげないと可哀想だ。それからミルクを無駄にしないように貯める道具も装着してあげないと。
ホワイトカウのミルクはお腹辺りにあるいくつかの乳房から採取できるんだけど、数秒で一滴ずつぐらいのペースでずっと垂れ流しが基本なので、早めに貯め始めないと勿体ない。
「ホワイトカウのミルクとは、どのようなものなのでしょうか?」
「もちろん食品だよ。そのまま飲んでも美味しいし、料理にも色々と活用できる。あとはミルクからチーズっていう美味しい食材も作れるんだ。チーズの作り方も知ってる限りで教えるから、それも特産品にしたら良いよ」
これでピザがまた一段と美味しくなるな。やっぱりピザにはチーズが必要だって思ってたんだ。それにコメをトマソースで煮たリゾットにもチーズをかけたら美味しいし、パンに載せても美味しいし、今思えばチーズって凄いな。
「どのような味なのか……飲んでみることはできるでしょうか?」
「確かに味見したいよね」
この世界のホワイトカウから取れるミルクが、俺が知ってるものと違うって可能性もあるからな。とりあえず……簡易のミルクを貯める道具を作って、少しだけ採取してみるか。
「ちょっと道具を作っちゃうから待っててくれる? えっと……ティナ、少し手伝ってくれる?」
「もちろんです」
誰かに手伝ってもらおうと辺りを見回したらティナと目が合ったので、俺はティナを指定して空間石からテーブルを取り出した。そしてその上にいくつかの魔物素材を取り出す。
長い紐で器を胴体に固定して、器はとりあえず軽いものってことで木製にして……それから乳房からズレないように弾力性のあるものを木製の器に取り付けて……
「ティナ、そっちを抑えてくれる?」
「かしこまりました」
「あとそれを取って欲しい」
「こちらですか?」
「ううん。その右にあるやつ」
「これですね」
そうしてなんとなく記憶に残ってる道具をあるもので再現してみると……意外と上手くできたみたいだ。他の皆は俺の作業をじっと見つめていて、今は完成品を興味深そうに眺めている。
「お待たせ。こういう形のやつをホワイトカウに装着してミルクを採取するんだ。取り付けてみるから見ててくれる?」
「かしこまりました」
「フィリップ様、危なくないのですか?」
「ホワイトカウは大人しいから大丈夫。こっちから攻撃でもしない限り、何かをしてくることはほとんどないよ」
だから野生で生き残っていたのは、結構な奇跡な気がするんだよな。ハインツの世界では繁殖力が高いと言われてたし、それでなんとか生き残れてたのかな。
「フレディだけ一緒に来てくれる?」
「かしこまりました」
フレディは護衛なので絶対に譲らないだろうと思って同行を許すと、ホワイトカウをかなり警戒している様子で俺に付いて来てくれた。
「ごめんね、ちょっと器具を付けるけど痛くないからね」
ホワイトカウに話しかけながら、絶対に痛みは感じないように、背中を撫でつつ紐を縛って付けていく。
「よしっ、これで大丈夫かな」
一ヶ所からしか取らないとなるとそこまでの量にはならないけど、まあ試飲だから良いだろう。ホワイトカウの飼育をするならこの道具も量産しないとだな。
「あの木の器にミルクが貯まるのですね」
「そう。本当はもう少し器が大きい方が良いし、胴体に巻いてる紐も幅広い布の方が良いと思う。あとは乳房を覆ってる弾力性がある物質も色々と試してみて、一番良いやつを探って欲しい」
「かしこまりました」
カルフォン伯爵は俺の話を真剣に聞いて、さらにはその近くにいる伯爵の従者なのか、伯爵家の文官や執事なのかって感じの人が必死にメモを取っている。
ミルクが貯まるまで時間があるし、メモをとってくれてるなら飼育方法も説明しちゃおうかな。




