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フルメタル  作者: 湖灯
鐘楼の鳩が飛ぶとき
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トーニとナトー②

 車から降りて、東の街中を探す。

 ヤルタは元々帝政ロシアの観光地として開発された街だから、どこに行っても人が多い。

 ナカナカいい場所に紛れたものだ。

 2人で手分けして探していると、トーニからセルゲイに似たような人物を見つけたとの連絡が入ったので、トーニには追跡をいったん中断するように指示した。

 <なんで中断なんだよ!>

 思った通り、反論された。

「相手はセルゲイかも知れないからだ」

 <俺一人では、追うだけでも手に負えないというのか?>

「間近で私とグラコフの戦いを見たトーニなら分かるはずだ。兎に角、私が合流するまで、お願いだから待っていて」


 うひょ~!

 セルゲイらしき人物を見つけて連絡をしたのはいいけれど、追うなと言われてつい反論しちまって正直マズいなぁ~と思っていたところ、まさか“お願いだから待っていて”なんて可愛らしい言葉を掛けられるとは。

 いつもは、まだ愚図っているはずの俺様が、思わず「ハイ」と返事をしちまった。

 了解ではなくて、ハイだぜ!

 まるで中学の時に、美人の研修教師に対して以来のハイって返事を使っちまったぜ。

 こんな素直な俺って、自分でも信じられねえ。

 直ぐにナトーが走って来た。

 さすがにナトーだけあって、来るのが早い。

「待たせてしまってスマナイ。だが、最後の大詰めで仲間を失う可能性のある事は避けたかったんだ」

「いいぜ」

「信用していないわけではないんだ。むしろその逆で、……失いたくないんだ」

 “信用していない”の逆は“信用している”はずなのに、失いたくないって、俺の聞き違いか?

「セルゲイに似た人物は、この小道を走って行ったんだな」

「ああ」

「では、追おう!」


 そこは森の中の小道。

 散歩に丁度いいコース。

 道は木々に覆われて、丘の上に伸びていた。

 車で逃げるときに自動小銃を撃っていたが、まさか人の多い場所を逃げるのに自動小銃を持っていては目立ち過ぎるから持っていても拳銃だけだろうが、待ち伏せに在ってはかなわない。

 だからこっちも工場で敵から奪った拳銃を手にして、用心しながら進むと丘の上にある教会に着いた。

 ピンク色の綺麗な教会。

 外には第二次世界大戦中に破壊された鐘が吊るされてあった。

 周囲を探すが、誰かが隠れている様子はないので、礼拝堂の中に入ったが、ここにも誰も居ない。

 “敵は、何所に行った!?”

 考えているときにカーラから連絡が入った。

 <ナトー中尉、こちらカーラ。西に向かった敵を見失ってしまいました>

「状況を詳しく伝えろ」

 <リカ・ヴォドバドナヤ川の東岸にある‎、カトリック教会‎の前に広がる森で消えました>

「消えたと言うのは、目視で、と言う事なのか?」

 <いえ、赤外線反応もです>

「わかった。付近の家に逃げ込んだ可能性もあるから、その場で待機し引き続き敵を探してくれ。できれば低空で付近に隠れるものがないか探ってくれ」

 <了解しました!>

 カーラからの連絡を終えると、直ぐにステラとメリッサからも連絡が入る。

 ステラからは、南に向かった敵を海岸通りのロシア教会礼拝堂付近で見失った連絡。

 メリッサからも街の北にあるホテルの近くで見失った。

 付近に教会はないかと尋ねると、近くに‎アルメニア聖フリプシメ教会‎があるとのことだった。

 3人……いや、我々を含めて4人共、教会で敵を見失った事になる。

 “これは一体どういうことだ”

「教会で、かくまってもらっているんじゃねえか?」

 たしかにトーニの意見も一理あるが、追い詰められて居ない者がワザワザその様な事をするだろうか?

 そもそも4人が四方に散った意味はなんだ?

 戦力は集中したほうが普通は有利なはず……。

 もしかしたら敵が分散したのは、私達を分散させるための作戦か?

 おそらくカーラもステラもメリッサも、同じ内容の連絡をハンスに入れているはず。

 ハンスは、当然その3箇所に部隊を派遣するだろう。

 3箇所だけではない。

 当然トーニと私の応援にも人は割かれ、セルゲイがアジトに使っていた工場にも人は残さなくてはならない。

 更に工場に残った部隊には3つの仕事が待っている。

 1つは、捕虜の管理と尋問。

 これを怠ると、敵が逃げて新たな脅威になるし、忙しいからと言って尋問を先延ばしにしてしまうと直ぐに得たい情報も得ることが出来ない。

 2つ目は、工場内の捜索。

 他に敵が潜んでいないかは勿論のことだが、証拠物品や作戦計画書などを探し出して押収する事は、こういった事件に対して非常に重要になってくる。

 そして3つ目は、今メリッサたちが行っているような各部隊への支援活動や情報の整理。

 いわば司令部機能の為に割かれる人員で、これは私達前線に出動する者にとっては無くてはならないもの。

 司令部機能を持たない軍隊だと、散らばった各班との連携や敵の情報をいち早く入手

出来ないばかりか、引くことも進むこともままならない。

 つまり逃げたセルゲイたちが4方に散ったことで、我々は少ない人数を更に分割させなければならなくなったのだ。

 しかし、セルゲイのこのトリックにも仕掛けがある。

 答えは散開した4人を見失った近くに、必ず教会があるという点。

 これには2つの着目点がある。

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