トーニとナトー①
トラックに飛び乗るとき、トーニが空を見上げていた。
「なんだアレは?」
「メリッサたちのドローンだ!」
「メリッサたちも来ているのか?なんてこった。知らねえのは俺だけ??」
「すまない。知っていたら余裕ができて敵に怪しまれるから」
「信用ねえな」
「だから、ゴメン!」
トラックのギアを入れて、門を出て、街に向かった車を追いかける。
「メリッサたちは知っていたのか?」
「……ああ、イザック准将から伝えられていた」
「ユリアは?」
「私から伝えた」
「一旦フランスに帰ったはずのマーベリック中尉は?」
「ハンスから……」
「みんなは?」
「おそらく昨日、エマかハンスからだ」
「そうか……知らなかったのは俺だけか」
助手席のトーニが、はあっとため息をつく。
「だから謝っている」
「謝らなくてもいいよ。どうせ俺に教えてしまったら、変なことを言って作戦がぶっ壊れっるのは分かりきっているんだから」
「そんなんじゃないって」
「交差点でよぉ、顔に似合わない、まるでプロポーズ見てぇに臭ぇセリフを吐いちまったとき、さぞ笑いを堪えるのに大変だっただろうな。ゴメンよ勘違いしていて」
「そんなことない!」
「“俺の大切なナトーを俺に守らせてくれ”っかぁ~、我ながら笑っちまうぜ」
<アロ!ナトちゃんセルゲイの車は今大通りを左に……>
「あとにして!」
メリッサのドローンからの連絡を切った。
「嬉しかったよ。だって恥ずかしがり屋のトーニに、あんなこと言ってもらえるなんて初めてだったもの」
「俺は恥ずかしいよ。俺の手の届かねえところに居るナトーと一緒に行動できたことに有頂天になって、詰まらねえ笑い話なんかしちまってよ」
「笑い話じゃない。本当に嬉しかった」
「我慢すんなって……」
あんまり意固地になっているトーニに手を焼いて、車を止めた。
「セルゲイを追うんじゃなかったのか?それとも、ハンス隊長たちが来て、もう俺はお払い箱か?だけど俺は降りねえぜ、なんてたってハンス隊長からオメーのボディーガ……おっ、おい……」
路肩に車を止めた途端、いきなりナトーが俺に覆いかぶさってきてキッスをしてきた。
ナトーの温かく柔らかい唇が、俺の唇を何度もスタンプする。
ナトーの豊かな胸の膨らみが、俺の胸の上にまるで極上の毛布みてえに乗っかる。
そしてナトーのプリップリッの太ももが俺の股の間に割って入る。
「おっ、おいナトー、どうしちまったんだ!?せ、セルゲイを……」
「駄目。もう誤魔化さないで」
ナトーの手が俺のズボンのベルトを緩めチャックを外し、俺の一物を柔らかくしなやかな手でパンツから取り出す。
俺はもう、それだけで天国に昇ってしまいそう。
「バカ!セルゲイを追うぞ‼」
トロンとした目で俺に覆いかぶさって居るナトーの頬に、軽く平手打ちを当てて気合を入れる。
「でも、トーニは嫌な思いをしているんでしょう?だったら私……」
「俺の気持ちも、ナトーの思いやりも関係ねえ!折角ここまで追い詰めたセルゲイを逃しちまったら、またどこかでテロが勃発して罪もねえ人々が犠牲になる。だから今はヤツを追う事に集中しろ!」
「はいっ!」
かなり勿体ないが、正気に戻ったナトーが慌ててトラックを発信させる。
「メリッサ、セルゲイの車は?」
<街の中心近くで乗り捨てられて、乗っていた4人はそれぞれ東西南北に別れて行ったの。こっちのドローンは3機しかないので、私は北に行った奴、カーラは西、ステラは南に言った奴をそれぞれ追っているわ>
「あとは東に行ったやつだけか」
<ごめんなさい>
「いいよ、探してみる。セルゲイを発見したら直ぐに呼んでくれ」
<了解!>
車から降りて、東の街中を探す。
クリミアは東欧のハワイみたいな観光地だから、どこに行っても人が多い。
ナカナカいい場所を見つけたものだ。
隠れるのには好都合。
人に溢れる街を歩いていると、教会のお祈りの曲が聞こえてきた。
「トーニ、聞こえるか?」
「なにが?」
「教会のお祈り」
「ああ。でも、それがどうした?」
「さっき、あの教会の前を通った時に、門は閉められていた」
「最後に入った人が閉めたんじゃねえか?」
「休館日や夜中なら分かるが、普通閉めないだろう?」
「あっ、そうか!観光地にある教会だったな」
「行ってみる。トーニは中に入らずに外で見張っていてくれ」
「嫌だ。俺も行く」




