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フルメタル  作者: 湖灯
鐘楼の鳩が飛ぶとき
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クラウディからの招待③

 私は彼女がタックルを仕掛けてくるタイミングで、反転して背中を向けて逃げた。

 思いがけない私の行動に、慌てて追って来るクライディー。

「逃げても無駄だ!」

 倒れたままの敵兵や、置かれたままの木箱を上手に避けながら、時々後ろを確認する。

 彼女がつまづいたり、バランスを崩したりしたときこそ、私にとっての最大の反撃機会が訪れる。

 しかしお世辞にもスマートな体系とは言えない彼女は、重心が低く安定していてチョッとやそっとではバランスを崩しそうにもない。

 おまけに後ろばかり振り向いていた私は、今にも彼女に掴まれそうなほど追い詰められていた。

 慌てて加速するために前を向くと、目の前には壁が迫っていた。

 しかも壁の左右にはコンテナと、フォークリフトが置かれていて逃げ場がない。

 絶体絶命のピンチ!


 珍しくナトーが敵に背中を見せている。

 こんな状況を見るのは、アイツが入隊した日の武道場以来だ。

 特別な入隊試験で元アメフトの超有名選手だったモンタナと、キックボクシングのクルーザー級オランダチャンピオンのブラームを倒した後、事も有ろうに外人部隊で……いやフランス陸軍でも最強のハンス隊長を対戦相手に指名したアイツ。

 その試合で俺はレフリーを務めた。

 正直その前の2800m走でも俺たちより速いタイムを叩き出しやがって驚かされたが、何よりも車やバイクレースに登場するグリッドガール並みのプロポーションと女優顔負けの端正な顔立ちに、もうその時点で心がワクワクして俺は燥ぎまくっている心を落ち着かすことが出来なくなっていた。

 言ってみれば、一目惚れ。

 しかも、俺の人生で経験したこともない、そうとう重症な。

 そんなアイツが、ハンス隊長に不用意に当てたローキックを捌かれて、後ろを取られそうになって道場の端まで慌てて逃げた。

 何ともコケティッシュな、その姿。

 足も速いし、格闘技も恐ろしく強い。

 とても俺なんかが惚れて良い相手じゃねえと思っていたアイツが、ここに来て初めて見せてくれた可愛らしさ。

 屹度コイツの本質は、可愛いに違げえねえ。

 誰かが支えてやらねえとイケねえ。

 そして俺の命に掛けてコイツを守りたいと思った。

 だからその時反転して、背中を向けたセルゲイに撃たれる事も気にしないで、ナトーの所に向かって全力で走った。

 幸いセルゲイは俺に銃を発砲しなかった。

 クラウディーに追い詰められるナトーは、もう壁にぶつかるというのに一向に減速もしないまま突っ込んで行く。

 でも俺は知っている。

 ナトーが、ただ逃げているだけじゃねえって事を。


 壁にぶつかる直前で高く足を上げて、縦の壁を駆け上がる様に走り、それから思い切り蹴り上げて床と水平宝庫にジャンプして半分捻りを入れると、急に私が消えた事で壁にぶつかりそうになったクラウディーのバックを取る事に成功した。

 彼女は私の駆け上った先を負う様に、窮屈に伏せていた体を大きく後ろに逸らして、胸を張る格好になっていた。

 丁度、その後ろに着地した私は、そのまま彼女のウエストに両手を回し、抱え上げてから体を反らしブリッジの体勢を取るように後ろに投げ飛ばす。

 プロレスリングの必殺技のひとつ、ジャーマン・スープレックス・ホールド。

 ドスン。

 大きく弧を描いた90㎏のクラウディーの体が、コンクリートにめり込むように打ち付けられる。

 敵ながら、さすがに鍛えているだけのことはある。

 めり込むような着地の仕方は、肩と首の付け根の筋肉を上手に使って受け身を取った証拠。

 無知ならば、ゴンという激しい衝撃と共に頭蓋骨ごと床に打ち付けてしまう。

 しかしながら、木の床やマットの上とは違って、コンクリートの床では衝撃も半端ない。

 まして全く無防備に、体を後ろに伸ばした状態からだったので、抵抗する事も出来ずに速い速度で後方に投げ飛ばされたのだから猶更だ。

 ブリッジを解くと、彼女の体は、だらりと大の字になり動かなかった。

「さすがだぜ!大丈夫たあ思っていたが、まさかその手があるとは恐れ入ったぜ」

 まだ床に手を突いていた私に、トーニが手を伸ばして起こしてくれた。

「有り難う」

 トーニが私を迎えに来てくれる事は、期待していたのだが現実にそうなるとは思っていなかったので、とても嬉しかった。

 何故なら、この場所は偶然の場所ではなく、幾つもの候補の中から選んで得た場所だったから。

 クラウディーから逃げていたのも、この場所を探すため。

「トーニ、着いて来い!」

「このフォークリフトで戦うんじゃねえのか?」

「動くものか!それよりその向こうのドアから一旦出る」

「出て、どうする?」

「とりあえず、エマたちに連絡を入れる」

「エマたちは、もうベラルーシのミンスクに向かっているんだぜ!」

 私たちが倉庫から逃げ出す事に、ようやく気の付いた敵たちが銃を撃ってきたが、私たちが外に出る方が一瞬速かった。

 もちろん簡単な作りの倉庫の壁を銃弾は突き抜けて来るが、基礎部分のコンクリートは拳銃では貫通出来ないので、姿勢を低くして移動した。

 暗い倉庫から飛び出した私たちには、一瞬周囲が真っ白に見えたが、そこが次の建物へ続く通路だという事は直ぐに分かった。

 走りながらエマに連絡をする。

「エマ!セルゲイは、こっちに居る!」

 <了解よ!>

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