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フルメタル  作者: 湖灯
鐘楼の鳩が飛ぶとき
671/700

ボディーガード①

「ハメたわね……」

「すまない」

「いいよ。でも、条件があるわ」

 エマは渋々OKしてくれたが、私が無茶をしないようにボディーガードを1人つける条件を出してきて、私はそれを吞むしかなかった。

 ただしこの条件には、ハンスの了解が必要となるので破談になる可能性は高い。

 私がエマの条件を呑んで、ハンスが了解すれば、作戦は実行。

 もしハンスがボディーガードの件を了解しなくても、それは私のせいではないから作戦は実行される。

 私にとって分の良い条件。

 早速私はハンスの元へ行き、交渉にあたった。

 エマに交渉に当たらせると、自分の有利になるように持っていくだろうから、私は端的に作戦の趣旨を伝えた後でボディーガードの件を付け加えただけ。

 屹度ハンスは、作戦そのものにNGを出すはずだから、付け加えた条件を提示するまでもなく却下するだろう。

「――と言う訳で、1名私のボディーガードが必要になるが、出してもらえるか?」

 ハンスは少しだけ考える素振りを見せたあと珍しくニヤッと笑い、いいぞと言った。

「ならこの話は、聞かなかったことに……。ハンス、今、なんて言った!?」

「だから、“いいぞ”と言った」

「なんで!?部隊は今、人手が足りないし、危険な任務なんだぞ」

「だから、ボディーガードが必要なんだよな。1人で良いか?」

「あっ、ああ」

「じゃあ今日、非番の奴がいるから連れて行け」

「非番の奴って、危険な任務なんだぞ」

 G-LéMATのメンバーならいざ知らず、誰でもいい訳にはいかない事くらいはハンスも分かっているはず。

 しかも今回の任務は囮作戦の色が濃く、危険なばかりでなく要領を得ていないと敵にこちらの意図がバレてしまう可能性もある。

 特殊部隊の中でも、諜報活動の経験がある者か適性のある者に限られる。

 ハンスとはリビアで1度組んだ事があるから申し分ないが、今は基地司令だから無理。

 ニルスとブラームも、ホンの少しだけど経験はあるけれど、今はそれぞれが司令部と新米軍曹を補佐するという重要な立場。

 カールは元アサシンだから、こういう事も経験があるに違いないが、だからと言ってあまり顔を外に晒すのは元の依頼主経由で素性がバレてしまうのでNG。

 素人を連れて行くしかなく、それだとこっちがボディーガードの心配をしなくてはならなくなるが、作戦のためには止むを得ず渋々承諾した。

「では、当人を呼ぶぞ」

「ああ、でも相手が嫌だと言えば無理には連れて行かない。これはDGSEの任務だから、外人部隊に強制力はない。しかも1人だけ非番って言うことは、病欠なんだろう」

「ああ、強制はしないから、本人に内容をよく理解させたうえで判断してくれ」

「私が?」

「俺は司令官として任命するだけだ。ただしこれは外人部隊本来の任務ではないから、説明を聞いた隊員が嫌だと言った場合は俺も解任せざるを得ないが、それでもかまわないか?」

 さすがハンス!

 私の気持ちを良く分かってくれている。

 そうなれば、もうこっちのモノ。

 敵の1人が私の命を狙っていて、私たちは敵が待ち構える真っただ中に武器も持たずに飛び込むのだから、とんでもない馬鹿でもない限り承諾するはずがない。

 しかも説明するのは、ボディーガードを連れて行きたくない私自身だから、誰であろうとも辞退する方向に話を持ち込むことができる。

 ハンスに言われて会議室で待っていると、その人物らしき者が廊下を通って来る音がした。

 なんとなく聞き覚えのある足音がやって来て、ドアをノックした。

「入れ」

 ギィ。

 ゆっくりと開かれるドアが来訪者を私に次げ、書類から目を離して顔を上げる。

「よう、ナトー。俺になんか用か?」

「トーニ!!」

 入って来たのはトーニ。

「まだ腹が痛いのか!?」

「面目ねえ」

「だから歓迎会など出ずに、ゆっくり休んでいろと言っただろう。それに消化が悪いから脂っこいものは食べるなと言ったのに、ソーセージなんて食べるから。そんなに痛むのか?」

「すまねえ。それ程でもねえが、一旦パトロールに出ちまうとトイレに不便だからな。まさか戦闘の装備をしたままコンビニに入れないだろう?もちろん俺はそれでも休むつもりは無かったんだが、モンタナがハンス隊長に告げ口して無理やり……」

「もう、しょうのない奴だな。それで朝、珍しくオートミールとサラダだったのか」

「まあ、今更ナトーの有難さが分かったていうか」

「お腹を温めて、今日はベッドでゆっくり休んで暴飲暴食はしないこと。あと生理食塩水は冷蔵庫で冷やさず、常温の物を確り飲むんだぞ。あとでリンゴを磨り潰したものを持って行くから、それまでおとなしくして居なさい」

「リンゴは良いのか?」

「ああ、りんごに含まれている“ペクチン”は腹痛には効果的だといわれ、下痢にも効くんだ。まあ薬ではないから劇的な作用は無いけれど医食同源といって、日々の体調管理は体の調子にあったものを食べると良いらしい」

「いつも、すまねえな」

「じゃあ、部屋に戻って、ゆっくり休んで早く治すんだぞ」

 私の言葉に、席を立ったトーニだったが、そこから外に出ようとしない。

「どうした?」

「それだけ?」

「それだけって?」

「いや、ハンス隊長から会議室に行くように言われて来たんだけど、まさか俺の体調を気遣って呼んでくれただけじゃなくてなんか、他にあったのかなと思って……」

 しまった。

 病欠はトーニだったのか!

 これなら危険な囮任務だと説明しても効果はない。

 それどころかトーニなら、私が危険な任務に着くと分かっていたら、足や手が折れていたって私を守るために着いて来てしまう。


 〝図ったなハンス″

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