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フルメタル  作者: 湖灯
鐘楼の鳩が飛ぶとき
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トーニの腹痛③

 エマと会議室で打合せをする。

 先ずは情報交換から。

「どこまで、調べている?」

「セルゲイ大佐は、ロシアの極右政党の幹部と、政党をバックアップしている企業の融資を受けて今回の作戦を行っていることが分かったわ。もちろん公にはなっていないけれど、現役の兵士たちが参加していると言う事は、国もある程度関与していると言う事に他ならないでしょうね」

「特にセルゲイ大佐は1999年に勃発した第二次チェチェン紛争で頭角を現し、2008年の南オセチア紛争、2014年のクリミア危機・ウクライナ東部紛争に関わったとされる人物だけに支援する側も力が入るだろうな」

「そう。だから、逃がしたままにしておくことは出来ないの」

「潜伏場所は?」

「それについて皆目見当がつかないから、こうしてナトちゃんを頼って来たのよ。もう何か調べて、分かっていることもあるんでしょう?」

「実は2人の人物に関して、コヴァレンコ警部に調査を依頼していた」

「2人!?」

 私が目を着けたのは作戦会議に出席した環境・天然資源省の担当者と、もう1人は我々の部隊と同行したブレジネフだと話すと、作戦会議では納得していたのに何故かと聞かれた。

「でも、彼等はシェルターを守る方の立場じゃないの?」

「だが、警備は厳重では無かった」

「たしかに……でも、ブレジネフは単なる保安員で肩書も主任クラスよ。それに、危険なシェルターにはナトちゃん達と同行して任務の達成に強力さえしている功労者のはずよ」

「だが、奴は私を罠に掛けようとした」

「罠!?」

 そう。

 原子炉とサプレッションプールに分かれて戦う事になったとき、原子炉に向かう私がサプレションプールへの近道を聞いたとき、原子炉内部の隙間を通るルートを教えた。

 もちろん危険なルートであることは分かっていたし、緊急事態の場合は止むを得ない手段である事もチャンと奴は付け加えた。

 しかし私はそのルートを通ることなく、サプレションプールに辿り着く事が出来た。

 サラが別のルートを知っていたから。

「サラ!?あのPOCの女?」

「ああ。だけど、彼女は敵ではない」

「敵ではないって、どういうこと⁉」

「私は、サラに助けられた。もしあの場所に彼女が居なければ、私は敵の銃弾に当たっていただろうし、当たっていなくても原子炉の爆発物の除去には相当な時間を要していただろう。そして危険な原子炉内を通ってサプレションプールに行き、潜んでいた狙撃兵に撃たれていた」

「やはり、本当のお姉さんなの?」

「分からない。だけど彼女は武器商人だ。お金を払えば誰にだって武器を売る」

「売るって、今までのPOCはそのテロに深く関与していたでしょう?」

「トップが変われば、方針も変わる」

「トップが変わればって、もしかして」

「そう。今は彼女がトップだ」

 サラからは口止めされていて誰にも言っていないが、エマだけには事実を知って欲しかった。

 親友だから……いや、エマもサラも私の家族だから。

 サラを姉と認めたわけではないが、彼女は私を妹だと言ってくれた。

 いまの私には、それで充分だ。

 エマに彼女の事は口外しないように言うと、直ぐに分かってくれた。

 武器商人が武器を買ってくれたクライアントを裏切る行為をするのは重大な違反行為となり、POCだけでなくサラの命さえも危うくなる。

 エマも、その事は分かってくれた。

 コヴァレンコ警部に調査してもらったクリミアから届けられた荷物の事を伝えると、エマも怪しいと言いブレジネフに事情聴取しようと言ってくれたので、早速奴のアパートに行くためにコヴァレンコ警部にも電話を掛けておいてから司令部を出た。

 さっき乗って来た車に乗り込んで急いで発進させて、しばらくするとエマが鼻をクンクンさせて微かにトイレの臭いがすると言い出して後ろを振り向くと、前の座席と後部座席の隙間にトーニが隠れるように寝ていた。

「アンタ、こんな所で何してんのよ‼」

 エマに叩き起こされたトーニは、まだ起ききっていない重い目蓋を薄く開けると「予想通りだな」と勝ち誇ったように言った。

「予想通りじゃないでしょ!なんで、ここに居るのよ⁉」

「そりゃあDGSEに戻ったエマが、ここを訪ねて来ると言えば何かのミッションだろう?そしてそのミッションにはナトーの協力が居るはずだ」

「だけど、それとアンタが着いて来るワケはなに?」

「そ、そりゃあ、その……」

 名推理までは良かったけれど、そのあとの回答を用意していなかったのがトーニらしくてハンドルを握りながら笑っているとエマに怒られた。

「だいたいトーニが乗っているのを知りながら、なんで車を発進させたの⁉ いいえ、何故乗っているのを知りながら、別の車を選ばなかったの⁉」

「えっ、バレていたのか?なんで??」

 トーニが私たちの間に顔を突き出してきて私を振り向いて驚いた声を上げるものだから、ショートカットの耳に容赦なく息がかかり、ゾクゾクさせる。

「アンタなに耳で感じてるのよ!」

「えっ、か、感じてなんか」

「だいたい幾らトーニちゃんが小さいと言っても、70㎏もある物が乗っているんだから、サスペンションの沈み具合で分かるでしょう?」

「普通は分んねえよなあ!」

 怒って反論しているのか、私を感じさせようとしているのか分からないけれど、トーニはより私の近くで声を上げる。

「普通の人は分からないけれど、ナトちゃんなら遠くからでも簡単に分かるのよ。ねえナトちゃ……あらヤダ、ナトちゃん顔真っ赤よ。息もハアハア言わせて、運転中に勝手にイカないでよ」

 顔なんて赤くなかったし息もハアハアなんてさせていなかったのに、そんなこと言われた途端顔が真っ赤になり、急に自分の呼吸音も気になりだしてしまった。

「イクって、なに??」

 恥ずかしいのに、輪をかけてトーニが後ろから私の顔を覗こうとするものだから、余計に心拍数が上がり唇が少し開いて息が洩れてしまう。

「大丈夫なの、ナトちゃん!」

 エマが私の太ももを摩る。

 迂闊にも今日は空港にエマを迎えに行くため、慌ててスカートに着替えたからストッキングを履いていない。

 生足の太ももに、エマの手が直に肌に触れる。

「大丈夫なのかナトー!」

 心配してくれているのは有り難いが、走行中にズット空気椅子状態で居るトーニは息が荒くなっていて、それが耳に当たり余計に私をゾクゾクさせる。

「しっかりして、ナトちゃん」

 心配なんてチットモしていないエマの摩る手が、大胆に太ももの付け根にまで迫って来る。

 人が運転中で、逃げられないのを良いことに……。

 ハンドルを握る手に力が入り、ピンと伸ばした足に力が入る。

「はあ~……」

「ど、どうしたナトー!??」

「イッタの??」

「信号待ちで止まっただけだ!」

 頬が熱いと思っていたら、知らない間にエアコンの温度設定がHOTに切り替えられていた。

 信号待ちの間に窓を開け、エマを睨んでいるとエマは「チェッつまんないの」と言って舌をペロリと出した。

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