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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影
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ポリーシャ・ホテルでの戦い②

 ホテルの後ろ側をクリアにした後、場所を空挺と替わり我々の部隊は正面に回り、司令部を訪れる。

 数時間離れていただけなのに久し振りにハンスの顔を見る感覚が不思議だった。

 状況を聞くと、敵の司令部にもセルゲイが居なかった事を確認した。

 シェルターにも居なかった。

 そこでハンスにある事を提案する。

 提案の内容は、休戦。

 そして彼等の投降。

 司令官が居なくなった以上、彼等にとってこのホテルを守る意味など、もう無いのだ。

 ハンスは無駄だと言った。

 しかし私は、やる価値があると引かず、とりあえず15分の時間の猶予を取り付けた。

「撃ち方止めー!」

 先ずハンスが味方に対して、号令を掛ける。

「Я хочу говорить!С этого момента я иду туда.(話がしたい、いまからそっちへ行く)」

 相手からは何の返事もない。

 それでも、銃声は止んでいる。

 駄目でもともと。

 ハンスは俺が行くと言ったが、断った。

 ハンスは司令官。

 部隊の大将だ。

 もし撃たれて指揮が執れなくなれば、形勢は一気に逆転してしまうし、敵もそれは充分に分かっているはずだから危険だ。

「これを持って行け」

 ハンスが用意したのは白旗。

「嫌だ。それでは話を始める前から我々が不利な状況に見える」

「しかし不利なのは向こうの方だぞ」

「戦場の撃ち合いの中で、冷静に状況判断できるのは極一部の者だけだ。それに戦っている以上誰も負けは認めていない」

「まったく、お前ってやつは……、それでもコレは使者としてのルールだから持って行け」

 ハンスに無理やり白旗の付いた棒を押し付けられた。

 横にある回廊側を通らずに、正面玄関の階段をゆっくり下りて行く。

 ハンスには悪いが、白旗なんて掲げるつもりは一切ないから、階段を降りる前から手前の壁に立てかけておいた。

 私一人撃たれても、多くの人の命が救えるのなら、賭けてみる価値はある。

「ナトーの奴、白旗も掲げず、武器を持ったままです」

 ハンスの元に慌ててマーベリックがやって来て告げる。

「あの、じゃじゃ馬娘!」

 階段を降りて一旦立ち止まり、ホテルの屋上を見上げる。

 屹度このホテルの隊長は、いま屋上から私の事を見ているに違いない。

 左右から人の気配を感じた。

 回廊側からトーニ、そして階段の奥から現れたのはカール。

「何をしに来た」

「ナトーが散歩しているのを見て、つい来ちまった」

「俺は、いつもの単なるスケベ心」

「戻れないかも知れないぞ」

「「いつもの事」」

 今更帰れともいえないので、そのまま3人並んでホテルの正面玄関を目指す。

 ホテルの窓からは沢山の狙撃銃が、そして正面玄関に据え付けられたKord重機関銃とRPGが我々を狙っている。

 そして強い横風が砂塵を上げ、束になった枯草を転がして行く。

 その中を私たち3人は、肩を並べてゆっくりと、そして堂々と前に進む。

「Выбрось свое оружие!(武器を捨てろ!)」

 玄関の奥から司令官らしき男の叫ぶ声が聞こえた。

「どうします隊長」

「なんか鳴いていますぜ」

 トーニもカールも度胸が据わっていて、怯える様子などない。

 上等。

 無視して数歩歩くと、更に大きな声で武器を捨てるように叫んできた。

 その声は、追い詰められているようにヒステリックに聞こえる。

「Я хочу говорить с той же точки зрения. Я не использую оружие, но и не выбрасываю его.(同じ立場で話がしたい。だから私は武器を使わないが、捨てもしない)」

「あの馬鹿!何言ってやがる」

 エネルゲティック文化会館から双眼鏡で見ていたハンスが胃を抑えながら机を叩いた。

「ハンス司令!あれを見て下さい」

 再びハンスが双眼鏡を覗くと、そこに見えた物に驚く。

 なんと敵の司令官らしき人物がホテルの正面玄関から、同じように2人の部下を連れて現れ、ナトーの方に向かっている。

「馬鹿な……」


「ポリーシャ・ホテル守備隊長のザイツェフ大尉だ」

「G-LéMATのナトー中尉だ」

「その若さで中尉?もしかして……」

「君たちの暗号では“ニケ”と呼ばれているらしいな」

「やはり……ところで何の用だ。我々はたとえ司令部が落ちても、ここを死守しろと命令を受けているから降伏はしないぞ」

「何のために?」

「……」

「セルゲイ大佐は居るのか?」

「……」

「俺たちはセルゲイが居るはずのシェルターから、さっき戻ってきた」

「馬鹿な」

「これが、証拠の記録映像だ」

 胸に挿していた録画機のモニターをザイツェフ大尉に見せる。

 そしてセルゲイ大佐が、ここで何をしようとしていたかも。

 驚いて食い入るようにモニターを見るザイツェフ大尉。

「我々は2つの爆発物ユニットを解除した。解除できなければ君たちも私たちも、今頃は争う事も無く仲良く天国に旅立っていた事だろう。いま現場は完全に君たちの仲間は排除され平和に事後処理を行っている」

「まさか、そんなこと!」

「屋上から見なかったのか?沢山の消防車や救急車、そして警察車両が見えるはずだ」

「確認しろ」

 ザイツェフ大尉が隣に居た兵士にモニターを渡し、ホテルに戻らせた。

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