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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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サラとナトー③

 サラは暗闇の中、見事に配管に飛び移り、約束通りライトを照らしてくれた。

 おかげで私も、難なく配管に飛びつくことが出来たが、40年近くもメンテナンスされていない施設はそう甘くなかった。

 暗がりの中でどの配管がどうなっているのか分からないから、私は直ぐに違う配管に移りサラの隣に並んだが、その時カツンカツンと断続的に嫌な音がし始めた。

 音の衝撃は私の配管に伝わってきているが、それが配管本体のものなのか数本の配管を繋いでいる支柱を伝わってきているものなのかまでは分からない。

 まだ飛び移ったばかりで、下までは8mほどある。

 サラが急ごうとすると、余計音は大きくなったので止まるように言って、私はゆっくり下りる。

 もう直ぐ横に並べると言うときに、それまで鳴っていた高い音から急に低く大きな音に変わった途端、フッとサラの影が視界から消えた。

「サラ‼」

 つま先を配管に引っ掛けて、まるでポールダンサーの様な恰好で思いっきり体を仰け反らせて手を伸ばすと何とかサラの手を掴む事が出来た。

 折れた配管が落下してカランカランと音を立てる。

 その拍子にライトを落としてしまったので、辺りは真っ暗闇。

「有り難う。助かったわ」

「おあいこだ。それより状況は分る?」

「ゴメン。私もライトを落としてしまったわ」

 迂闊に壊れそうな配管を掴んでしまうと、今度こそOUT。

 かと言って、今掴まっている配管も何かヤバそうな音を立てている。

 手探りで探しあてた配管に命を委ねるか……。

 とその時、辺りがほのかに明るくなった。

 “何!?”

 灯りは私が肩から下げている白い袋から。

 ユリアのドローンだ。

「ユリア、聞こえているのか!?」

 問いかけても返事はない。

 通信が生きているのか、それとも急な動作による衝撃に寄るものかは分からない。

 けれどもこの灯りのおかげで辺りの様子は、ぼんやりと映し出されてサラは他の丈夫そうな配管に掴まる事が出来、私も体制を直すことが出来て何とか下まで降りる事が出来た。

 ユリアに聞こえるとは思わなかったが、ドローンに有り難うと伝えると、バッテリーが切れたのか灯りは徐々に暗くなっていった。

 落としたライトを拾い、1階層下のサプレッション・プールに入ると、銃弾が配管に当たる音が幾つも聞こえる。

 モンタナたちB班とは建屋の反対側なので距離はあるが、敵を挟み撃ちに出来る高位置。

「真ん中は通っちゃ駄目よ。高濃度のデブリがあるから」

「サラは、どうする?」

「乗りかかった船。と、言いたいところだけれど、これ以上関与するとマズい事になるからここでお別れするわ」

「ありがとう。……また、会えるか」

「……勿論よ。だって姉妹なんですもの。じゃあ後は頼んだよナトちゃん」

 サラは、私の肩をポンと叩くと、直ぐに反対側の端に駆けて行った。

 “姉妹……”

 感動している場合じゃない。

 首をプルプル振り、気合を入れ直し、私も仲間の居る方に走った。



「シモーネ、撤退しろ!」

「でもまだ戦えます!」

「馬鹿野郎!オメーの傷は蚊に刺された程度かも知れねえが、放射能防護服は重症だ!」

「でも!」

「でもでも煩ぇ!これはナトー隊長の命令だ!サオリさん一緒に付いて行ってもらえますか?」

「OKよ」

「敵の人数が多い、カールとキースの2人を呼ぶんで良いか?」

「ああ、フランソワ。そうしてくれ」

「トーニ君は?」

「あいつは、真ん中辺りで孤立している。怪我はねえらしいがパソコンが敵の銃で壊された」

「誰か応援に行った方が」

「馬鹿かオメー、シモーネが引いて2人しか居ねえんだぞ、1人行っちまったら孤立する場所が変わるだけだろうが」

「私が行く」

 ブレジネフの言葉に一瞬動きが止まった。

「……」

 モンタナがフランソワの顔を見る。

 フランソワがコクリと頷く。

「シモーネ、一応暴発しちゃあいけねえから弾倉から弾は抜いてから、銃と弾を渡してやれ」

「了解」

「いや、銃は要らない」

「要らない?」

「おそらく、持っていても使わないし、使ったことがない」

「分かった。それなら弾の入っていねえ銃だけ持って行け」

「空の銃を?」

「どうしても使わねえとならねえときに弾をトーニから貰え」

「わかった」

「上出来だ、援護してやるから突っ走れ!」

「有り難うフランソワ君」

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