原子炉建屋へ①
タービン建屋から、厚い扉を開けて、原子炉建屋に入る。
敵は7人。
どこに居るか分からない。
ドアの隙間からユリアを入れ、ドローンに装着されているセンサーで敵の有無を確認してもらう。
<OK、クリアよ>
「了解」
ユリアが天井付近からLEDライトで部屋を照らす。
入った部屋は配管回廊。
壊れた配管が所狭しと散らかっていた。
配管回廊の隣の部屋は、コンクリートで埋められているから、ここから階段を使って上にある脱気室に上がる。
ユリア機がLEDを切り、再びセンサーモードで先行する。
<クリア!>
脱気室に上がると、脱気棟と呼ばれる巨大な筒状のタンクが2つ斜めに折り重なるように倒れていた。
脱気室から斜め上の外気取入口室に入ると、ここからはコンクリート片が多く散らばっていて、炉心側の壁の上部が爆発の影響で内側に傾いている。
外気も今までの部屋に比べて幾分熱く、4人とも声も出せずに周囲の惨状に圧倒されていた。
それにしても、敵はどこだ?
待ち伏せるにしても危険な炉心部で待ち伏せることは無いだろうと思っていたのだが、この分だと炉心部での戦闘になりかねない。
残る部屋は、気水分離器室と原子炉の2つだけ。
いったい、どうしたと言うのだ……。
先に気水分離器室に入ったユリアから、敵が戦闘中であると言う思いもよらない連絡が入った。
「モンタナたちか⁉」
<いえ、仲間同士よ‼>
「仲間同士?」
「どうします?」
ブラームに聞かれて一瞬迷う。
敵同士の撃ち合いならば勝手に数が減ってくれるのだから、私たちがそこに関与することは無いし、流れ弾に当たる可能性だってある。
しかし混乱した奴が起爆スイッチを押されたら、元も子もない。
「ユリア、詳しい状況を伝えろ!」
<OK、どうやら戦闘は原子炉で行われているみたいだから、行ってみる>
報告が入るまでは先に進まない。
今いる脱気室で既に40ミリシーベルトと、あの爆発が起きた後のコントロールセンターで測定された1ミリシーベルトの40倍となっている。
更に敵が戦闘状態だとしたら舞い上がる放射能塵の影響で放射線量はもっと上がるだろう。
一旦2つ前の配管回廊まで戻り、お互いの防護服に着衣の乱れや破損がないかチェックをした。
ここの放射線量は25まで下がっている。
「我々は配管回廊まで下がった。ユリア状況は?」
<・げ・在、原子炉‥よ。1・炉内・落ちて・るわ。ば・だんの設置は、まだ・ようね。戦闘・、・く弾・業員と、見張り・間で・・で・る・・う>
「そっちの放射線量は?」
<・千5…・―ベ・ト>
「もう一度!」
<2・5ひゃ・しー・・ト>
「よし、戻って来い」
<り・・・い>
放射線の影響か受信状態が極端に悪くなっていたが、ドローンの高度で2500ミリシーベルトなら、炉心により近い彼等の居る場所では5000前後あるに違いない。
ユリア機から送られてきた映像を確認すると、爆弾らしきケースを炉心内に降ろすためのロープが張られているが、ケースは未だ降ろされては居ない。
室内はとても暑いのだろう、着衣が乱れている。
所々に変な色の液体があるように見えるのは、おそらく嘔吐の後なのだろう。
人は、放射線量が1000~2000ミリシーベルトを越えた辺りで吐き気を催すのだから5000も有れば吐いて当たり前で、銃撃戦を続けている今では更に放射線量は上がっているだろう。
戦いは、爆弾設置班3人と見張り員3人の間で行われていた。
1人足りないが、付近に死体は無い。
「直ぐ行きますか」
ブラームが聞いてきたが無駄だと答えた。
いくら任務とは言え、部下に数日から数年後に確実に死が訪れるような任務に就かせるわけにはいかない。
私が命令できるのは、生きる見込みのある任務のみ。
いくら将校であろうとも、噴火口に降りて、バケツで溶岩をすくってこいなどとは言えないのだ。
「ユリアさんが戻って来ません!」
ドローンが戻って来ないのを心配してイライシャが言った。
「ユリアは、もう戻っては来ない」
「何故なんです?」
「被ばくしたからだ」
地図を広げて対応を考える。
私が単身で乗り込んだとしても、あの爆発物を1人で持って帰ることは出来ない。
では、どうする?
ブレジネフに連絡を取ってみた。
原子炉の真上にある天井クレーンは使えるのかと聞くと、将来行われる廃炉作業のために新たに設置された物でメンテナンスはしてあり電源も入っていると言う事だったが、基本的には遠隔操作なので手動に切り替える事が出来るかは分からないと言う事だった。
「ユリア、もう1度原子炉に飛んでくれないか?今度は天井クレーン付近の放射線量とアクセス経路を調べてくれ」
<行くつもり⁉>
「ああ」
<……了解>




