タービン建屋での戦い②
ユリアの機体が左右に揺れた。
準備OKと言う事。
あとはタイミング。
折角ユリアがフラッシュを光らせても、敵が気付かなければ意味はない。
最低でも、向こうに居る2人が見る必要がある。
“揃った!”
ユリアに合図を送ると、直ぐにドロンから強い光が放たれた。
その光に気付いた敵が、銃を構えて狙いをつけ、そしてその背中をブラームとイライシャに狙撃されて倒れた。
反対側の通路に居た敵が、仲間の方を見て銃を構えようとした。
「Hey!」
タービンを越えて飛び降りるときに声を掛ける。
振り向いた敵は、いま声がした場所に銃を向けるが、もうそこに私は居ない。
直ぐに銃を振り解く。
最新式のAS Valだけど、安全装置はAKシリーズと同じ形状のものが同じ位置に付いている。
だから触った瞬間に安全装置を入れて、トリガーをロックした。
床に落ちた銃を蹴飛ばして、下の通路に落とすと奴が直ぐに私を掴もうとしてきたので、小指側から手の平を掴んで体の外側に向けて捻る。
奴が私の横を通り抜けしやすくなるように前を開け、大きく弧を描いてやると、思い通りに横を抜けてタービンのカバーに向かってくれた。
あとは奴がスピードを落とさないように捻り上げて加速させる。
奴は私に掴まれていない方の手で、顔がタービンカバーに当たらないように防御したが、その動作こそ私の思うつぼ。
ただでさえ腕を後ろから捻られて仰け反っているのに、更に半円形のカバーに突っ込むときに顔を庇って手を突いた。
仰け反った体の臀部目掛けて強烈な前蹴りを入れてやると、激しく打つ場所は男なら誰でも同じ。
私には全く聞こえないが、奴の耳にはキーンと言う凄まじい耳鳴りが聞こえたに違いない。
奴は仰け反った体勢から一瞬ぴょんと跳ねたと思うと、そのまま股間を押さえてうずくまった。
短時間で決めたかったとは言え、我ながら短絡的過ぎたか……。
直ぐに駆けつけてきたブラームとイライシャの表情からも、それは直ぐ見て取れた。
モンタナから青いビルで、私がエレベーターの中で6人を倒した話を聞いているに違いない。
なにせこの攻撃は、男子にとって敵味方無しの本能的に共有しなければならない重要事項に違いない。
つまり、急いでいるときに私が手段を選ばず“金的を撃ってくる”と言う事実を。
「ロープ……ロープを貸せ!」
イライシャの持っているロープを要求したが、彼は敵に同情してボサっとしていたので繰り返して強く言った。
「あっはいスミマセン‼」
慌てて私にロープを渡すイライシャ。
ブラームさえも、今の声でハッと我に返った様子。
2人の時間が動き出した。
やはり男にとって、この攻撃は衝撃が強すぎるらしい。
ブラームを歩哨に立たせ、敵に水を与えてから尋問を始めた。
「家族は居るのか?」
「……」
「両親は?」
「……」
「彼女は?」
「……」
「爆弾を持ち込んだのか?」
「……」
男は何も話さない。
向こうに見える仲間の死体を指さしてああなりたいのかと怒鳴ったが、それでもコイツは何も言おうとはしなかったのでもうロシア語は止めて首根っこを捕まえて英語でまくし立てた。
「Don't you know what you're talking about? Where are the bombs !? Do you know what the catastrophe would be if the bomb you installed exploded⁉ Your actions thus killed many of your companions You can't kill me You know why⁉ That's because I was a ”Grim Reaper” A man who killed a lot of soldiers in Iraq long ago. I will add you to my list too!」
掴んだ奴の首を投げ捨てるように放し拳銃を抜くと、慌ててイライシャが止めに入ったが彼をぶん投げて再び構えなおすと、奴が慌てて“箱は隣の部屋に持って入った”と言った。
「What's inside⁉(中身はなんだ!)」
「アッアアイ、I、I don't know! I just carried it!(中身は知らない、俺は運んだだけだ)」
「Did you carry it⁉(お前が運んだのか)」
「イッYes.four people.This room(この部屋の4人で運んだ)」
「Where is it !?(それは、どこへ)」
「リッReactor(原子炉)」
「Is Sergei there?(そこにセルゲイは居るのか)」
「No」
「Where are you !?(じゃあ、どこにいる)」
「Полковник……went out. (大佐は、出て行った)」
「Where !?(どこへ)」
「I don't Know……(分からない)」
セルゲイは屹度、燃料プールに行ったに違いない。
「この先にも、お前の仲間は居るのか?」
「セ7 people」
最後の質問だけロシア語で聞いたにもかかわらず、彼は英語で返してきて尋問が終わると、男は急に泣き出してしまった。
無理もない。
仲間を殺され、優しい女だと思っていた私が急に半狂乱になって、殺されかけたのだから。
「よし先に進む」
捕虜を逃げられないように厳重に縛り直して、先に進むことにした。
「隊長、すみません。ちょっと聞いてイイですか?」
「あぁ」
声を掛けられたので、振り向くと何故か声を掛けたくせにイライシャがビビっていて話を先に進めないので「なんだ?」と声を掛けた。
「ど、どうしてと途中から英語になったんですか?母国語はアラビア語と聞きましたが」
「まったく知らない言葉で喚かれても何も分からないだろう?ある程度知っていれば、単語を聞き取ろうと思って集中するし、集中すればこちらのペースに引き込める。学校の講師の話しと一緒だ」
「ああ、な、なるほど」
ナトーはサン・シール士官学校での経験からそう言ったのだが、イライシャにとっては逆に講師の催眠術に掛かった経験から意味を誤解してしまった。
イライシャがナトーに聞こえないように、隊長が怒って取り乱したのを初めて見たと隣に来たブラームに囁く。
「馬鹿、隊長は敵に囲まれて全滅寸前になっても取り乱したことなど一度もない」
「じゃあ、アレは?」
「芝居だ」
「女優!?」
イライシャは驚いて、ナトーの後姿を見つめた。




