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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影
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雪の妖精

 軍服を脱ぎ、その下に来ていた薄い防護服の上に真っ白の放射線防護服を着て、それから装備を身に着ける。

 軍服の上下を脱ぐときに皆の視線が私に集まったのが不思議だった。

 だって下にはチャンと薄手の放射線防護服を着ているのだから。

 皆の視線に思わずどこかが破れているのかとか、生地が透けて中身が見えているのかと確認してしまい、そのついでにクンクンと匂いも嗅いでみたが全て異常が無いのを確認した。

 マスクをつける前に、皆の準備状況に不備がないか確認しようとしたとき、まるで時間が止まったような感覚に陥った。

 動いているのは私だけで、皆が私の方に顔を向けたまま止まっている。

「何をしている、急げ!」

 私の言葉に、まるで呪文が解けたように動き出す中で、カールが「雪の妖精」だと呟くと皆も口々に「雪の妖精」と言って楽しそうに騒ぎ出した。

 いったい何を考えているんだコイツ等?

 同じように、この光景をみていたユリアのドローンが私の肩の上までやって来て、耳元で呟く。

<これから死ぬかもしれないのに呑気なものね、フェアリー隊長は、まるで皆のアイドルねっ♬>

 こういう時にエマは少しだけ揶揄うように言って来るのだけど、ユリアの場合はまるで実の姉が可愛い妹に言う様にさり気なく褒めてくれる。

 もしこの場に私の姉を名乗る、あのサラと言う女が居たら、どの様に言ったのだろう?

「隊長、準備が出来ました」

 ブラーム、カール、イライシャが私の隣に並ぶ。

「よしA班、出発する!」

「B班‼急げ急げ急げ!」

 フランソワとトーニが慌てて声を掛けるが、既にシモーネとブレジネフは準備が終わっていて、自分たちだけが残っていることに気付き更に慌てていた。

<男の子って、ああいう周りが見えてない所が面白いね>

「男の子って言うけど、2人とももう25は過ぎているんだぞ」

<何言っるの、男なんて幾つになっても子供のままよ>

 エマも同じような事をよく言うが、私には理解できない。

 何故なら、子供時代にその男の子と一緒に生活したことがなかったから。

 もっとも女の子にしても同じだったし、だいいち13歳の時赤十字キャンプでサオリに言われるまで、私は自分自身を男だと思っていたのだから。


 B班と、居残りのジェイソン達と別れ、通路を進む。

 ユリアのドローンを先頭に、ブラーム、私、イライシャの順で進む。

 今回私が真ん中なのは、爆弾を見つけた場合の解除を担うから。

 そのために肩から下げたバッグには時限爆弾解除に必要な、ノートパソコンやテスターの他、各種の工具やアダプターが入っていてサプレッション・プールを目指しているトーニも同じものを持つ。

 しばらく進むと、ドアが現われた。

 ブレジネフの言う厚いドア。

 ドアの向こうには低レベル放射性廃棄物貯蔵施設が在るはず。

 重いドアを少しだけ開けて覗くと、警備をする兵士が見えた。

 “私たちがコントロールルームを占拠した事に気付いていないのか?”

 確かにあの爆弾にはコードが付けられていて、遠隔操作によって爆破した。

 なのに何故ここに居る者達は、我々の侵入に気付いていない?

 “罠なのか?”

 ドアの隙間からユリア機を出す。

 モニターを見ると、ペラペラの合羽みたいな防護服を肩に羽織っただけの敵兵が、呑気そうに煙草を吸っている。

 もう1人は向こうの端にいて、コイツも煙草を吸いながら携帯を眺めていた。

「ユリア、男の携帯をUPで見せてくれ」

<OK>

 ズームアップした画面は、待ち受け画面のままで、男が忙しなく指を動かせていた。

 まだ携帯の電波は遮断されている。

 “だから知らないのか?”

 ブラームが奥の男に、イライシャが手前の男にチアッパを向け、同時に射撃する。

 カチャ、カチャッ。

 2人が倒れ、ほぼ同時に銃が床に零れる。

<クリーン>

 ユリアから部屋が安全になったことを知らされ、我々はドアから中に進入する。

「次はタービン建屋だ、急げ!」

 ガモーとレイラたちが、電波遮断システムをハッキングから守ってくれている間に急がなければ。

 タービン建屋に向かう途中、奥の男が手に持っていた携帯を借りる。

 次のドアの隙間を開け、またユリアに偵察してもらう。

<OK、ここは、ちょっとヤバいかも>

「何人いる?」

<7人よ>

 7人……この装備で2倍以上敵を相手にするのは、さすがにキツイ。

「敵の装備を借りますか?」

 どのみち我々がブレジネフの言うことを守っても、向こうは守ってはくれない。

 しかし、その議論は既に終わった。

 今更曲げるわけにもいかないが、かと言って隊員の命も掛かっている。

 迷いはない。

 我々なら必ずできるはず。

 丁度その時に持っていた携帯電話のスクリーンが光り、画面が待ち受けからウェーブに切り替わった。

 ついに通信の遮断が解かれたのだ。

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