コントロールルーム②
「カール、ドアから離れろ‼」
手りゅう弾を投擲された。
声を上げて直ぐ近くにいるシモーネの後ろ襟を掴んで、コントロールルームの奥に逃げ込む。
直ぐに爆発音と煙が舞い上がり、通路付近の天井のボードも何枚も落ちてきた。
「カール、大丈夫か!?」
「大丈夫です!」
「全員マスク装着!」
大量の埃が舞い上がり、視界が悪くなる。
私たちのLCRは撃つ機会が極端になくなったと言うのに、奴等の銃声は止まない。
「うわっ!」
「ボッシュ!」
「大丈夫、かすっただけです」
「下手に動くな!サポーターはドアから離れろ!」
また手りゅう弾を投げられたら堪らないから外の仲間に行った時、敵のひとりが私を狙って顔を出したので撃ったが、当たるはずの銃弾が顔の前に付けられていたゴーグルに減り込んで止まった。
“タクティカルゴーグル!”
高性能タイプなら、22口径程度の弾は絶対に通さない。
マズいぞ……この装備じゃまともに戦っては被害が増えるだけだ。
「シモーネ、援護するから戻れ!」
「撤退ですか」
「ああそうだ。チアッパは借りるぞ」
「ハイ」
「行け!」
シモーネが走ると同時に、立ち上がって銃を撃つ。
左り手に持ったLCRを連続して撃ち、右手のチアッパは構えているだけ。
シモーネが無事に通路に脱出したときには8発全弾撃ち終わり、今度は敵2人が私との間合いを詰めようとして動いたところを、すかさずチアッパでヘルメットとボディ―アーマーの僅かな隙間に見える首筋を狙って撃った。
当たった瞬間、血しぶきが天井まで上がり直ぐに敵は倒れたが、もう1人はAS Valを乱射しながら突進してきた。
私が全弾撃ったと思っていやがる。
しかしこう乱射されては身動きが取れないから、おとなしくLCRに弾を装填していた。
このまま隠れていれば、お互いが向かい合ったときのトリガー勝負になるだろう。
ところが、AS Valの乱射音に混じってチアッパの射撃音が2回聞こえた。
途端に敵の銃が床に転がり、倒れそうになった敵が目の前に現れた。
“チャンス!”
ジェイソンとボッシュがくれた、このチャンスを活かして今度はこっちが反撃に出る番だ!
倒れそうになっている敵のボディ―アーマーのサスペンダーを掴み上げ、一気に敵に向かって走る。
敵の銃弾が、私が抱えている敵のボディ―アーマーの背中を突き破り胸で止まる、いくら重量弾とは言っても幅が広い分前面投影面積は大きくなり貫通する事によるエネルギーの消費は大きくなる。
更にこの弾は弾頭先端に空洞が設けてあるため、ターゲットの内部に侵入した際潰れて変形することにより破壊力は大きくなるが、その分それ以降の貫通力は著しく低くなるのが欠点。
だから貫通抵抗を高めたボディ―アーマーの2枚抜きなどは出来ない。
敵の傍まで突っ込んで行くと何かが足に引っ掛かりバランスを崩しそうになったので、抱えていた奴を敵に向けて放り投げた。
一旦狙いを付けた的が無くならない限り、照準を他所に向けるのは混乱した状態では難しい。
敵は案の定、私が投げた味方の亡骸に向けて銃を発射し続ける。
前がクリアになった私は、敵のヘルメットとゴーグルの隙間を狙って22LR弾を叩き込んだ。
銃を撃ち終わると、体のバランスが保てなくなり1回転した。
何に躓いたのか振り返ると、黒い革製の旅行用バックが置いてあった。
そしてバックからはコードが伸びて通風孔の中に入っていた。
「さすが隊長」
「度胸と判断力が並みじゃねえな」
何も言わずに慌てて、2人の背中を押して外に向かって走る。
いきなり押された2人は、なんで押し出されるのか分からないまま素直に押させてくれた。
ジェイソンとボッシュが部屋から出た瞬間、激しい爆発が起き、丁度ドアのところに差し掛かっていた私は爆風で通路の壁に打ち付けられた。
「隊長、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ」
体重の軽さと、体に柔軟性があったこと、それに女性ならではの皮下脂肪が体を守ってくれた。
激しい爆発で、辺りは真っ白。
「怪我人はないか!?」
「ありません!」
「いったい何が起きたんです?」
「敵は遠隔操作の爆発物を仕掛けていた。おそらくコントロールルームの音が聞こえるようにしていたのだろう」
「音を!?」
「そう。そして負けたときのために、遠隔操作で隠しておいた爆弾を爆発させた」
直ぐに爆破しなかったのは、より多くの犠牲者を出させるためで、間が空いて爆発させたのは私が気付いたことを察知したから。
「しかし、その場合味方に負傷者が居た場合、使えませんが」
「奴にとって、敵を殺すの方が、捕虜になる味方の命より大切だとしたら?」
「なんて非情な……」
勝つためには手段は択ばない。
それが奴、セルゲイ大佐だ。




