青いビルの戦い③
扉を開けて部屋の中に入ると、12人の縛られている男女が居た。
ブラームとシモーネが捕虜の2人を縄で縛り、イライシャに見張りをさせ、素早く人質を調べる。
人質に見せかけて敵が潜んでいる場合もある。
猿ぐつわを解くのは危険だから、とりあえず縛られている縄のチェックをした。
少し緩い。
シモーネとイライシャに、人質1人ずつの縄を結び直すように指示してフランソワに状況を聞く。
「下の状況は?」
「1階に居た敵5人全てを倒した後、こっちも人質になっていた7人を部屋で見つけました」
「職員は10人程だと聞いているが19人とは多いな、身分証明書の類は?」
「個人情報を特定できる物は、取り上げられているらしく何も持っていません」
「なんだ」
「猿ぐつわをしたままですから、ハッキリとは分かりませんが、なんか英語でhelp!と言っている様な気がします」
「観光客か海外特派員かもしれんな。ジェイソンたちは?」
「ジェイソンとボッシュが表と裏口、カールが非常口、モンタナ軍曹は人質の居る部屋のドアを開けて外から見張っています」
「よし、上出来だ。ブラームと私に着いて来い。上の階の奴等と屋上を片付ける!イライシャとシモーネはここに残れ」
「了解」
4階に着いた時、丁度エレベーターのドアが閉まる音が聞こえた。
表示を見ると降りている。
どの階で降りても直ぐに怪しまれる。
何人乗っているか分からない。
しかも屋上の奴も、いつエレベーターを呼ぶか分からない。
「私が行く。この階は任せた。屋上で会おう!」
「了解!」
慌てて階段を降りる。
と言うか、実際には飛び降りていた。
ブラームかフランソワ、もしくはその2名に任せても構わないかとも思ったが、エレベーターで誰かが降りているという状況以外に何も分からない。
状況が分からない以上、全ての状況に備えて判断出来得る立場の者が対応に当たらねば責任が持てない。
3階で扉は開かなかった。
また階段を飛び降りて2階で待つ。
エレベーターが減速する。
敵に私たちの行動を悟られない様に隠密行動を取っているので、乗っている奴等に向けてHK-416をフルオートにして銃弾の雨を浴びせて始末する方法は取る事が出来ない。
HK-416にはサプレッサーを付けているから、発射音は4階や屋上までは届かないだろう。
しかし敵兵の体を貫通した弾が、薄い鉄板に穴をあける音は思った以上に大きいし、そのために部品が外れて落下すれば更に大きな音がするはず。
どこかに身を隠して出て来た奴を後ろから襲うのも安全は方法だが、エレベーターに乗っている全員がここで降りるとは限らない。
取り逃がした敵を、モンタナに託せる状況かどうかも通信が出来ない以上、確認できないからここで食い止めるしかない。
装備を全て床に降ろし、身軽になってドアが開くのを待つ。
ゆっくりとドアが開く。
降りようとする2人の男を押し返しながら、エレベーターに乗り込む。
中にはもうあと4人も居た。
狭いエレベーターに私を含めて7人も居れば、投げ技や強力な蹴り技などは先ず使えない。
久し振りに出会う、圧倒的に不利な状況!
エレベーターの中は、男臭さで窒息しそう。
「なんのつもりだい、お嬢さん」
後ろの奴が私のお尻を触って来た。
「何をする‼」
怒る私を、奴等は余裕しゃくしゃくの表情で見ていた。
4階。
何人かエレベーターで降りて行ったという事は、まだ何人か残っているという事だろう。
まさかワンフロア―丸々空にするほど、敵も馬鹿じゃねえだろう。
ナトーと別れ、ブラームと4階を捜索する。
いつも落ち着いていて、余計な事は何も話さねえこのブラームは何かとナトーと組むことが多い。
背は俺よりチョッと低い程度だが体重が軽い分、俊敏なうえに持久力もある。
格闘技もガードが甘いラッシュ系の俺と違って、攻撃もガードも完璧なキックボクシング元ベルギーライトヘビー級チャンピオン。
次は世界へ羽ばたこうって時に、自分の周囲にマフィア達が集って来るのを嫌い、その関係を断ち切るために外人部隊に逃げて来た馬鹿な野郎。
俺は元やくざ者だから分かる。
マフィアのボスに気にいられれば、好きなだけ色とりどりの美人は抱けるし、薬や金にも困らねえ。
試合に勝ち続ける限り好きなだけ遊べるって訳だが、その代り負ければ今までボスから貰った金品全てを取り上げられたうえにゴミの様に捨てられる。
そういう落ちぶれた奴を何人も見て来た。
元、何某のチャンピオンと言う肩書を引っさげた、チンケなチンピラグループの用心棒。
ストリートファイターから高級クラブの用心棒に成り上がった俺は、何度もそう言う輩と喧嘩をしたが、いったん引退した相手にはもう元何某かのチャンピオンだった頃の面影はなにもねえ。
ただのオッサン。
当然、フルボッコにしてさようなら。
ところがこのブラームと言うヤツは、現役を止めたにもかかわらず未だに精進を続けているから、俺の喧嘩殺法なんか全く通用しない。
短距離も長距離もチ〇ポの大きささえも敵わねえ。
唯一タメを張れるのは銃の腕ぐらいなもの。
「フランソワ、中に2人居る!行くぞ!」
「了解!」
チョッと暇が出来れば直ぐ他所事を考えてしまう俺と違って、なんでコイツはこうも任務に忠実なんだ?




