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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影
625/700

石棺シェルターへ③

「カール、お前にはクレーンの狙撃手をやってもらう。敵に見つからない様に1000まで近づけ。ポジションが決まって準備OKなら私に知らせろ。敵の2名の狙撃手はお互いの状況が見える位置に居るから、同時にやるぞ」

「了解」

「時間が掛かっても構わないから、くれぐれも周囲に敵がいないか自分たちの安全確保を優先させろ」

「もし、見える範囲に敵がいた場合は?」

「いくらサプレッサーを付けていたとしても、見える範囲に敵がいた場合は中止する連絡を入れて戻って来い。敵に発見される状況を作るのはマズい。石棺に入るまで敵に気付かれない様にしなくては、この作戦は玉砕戦法になってしまう。空挺の2名を護衛に連れてゆけ」

「了解しました!」


 カールが出て行ったあとスコープの調整をした。

 ダクトの頂上に居る狙撃手を遣るには、頸動脈けいどうみゃくを傷付けずに第5頸椎けいついから上の神経を破壊しなければならない。もし、第5頸椎が残ってしまうと腕を動かすことが出来るから、暴れられる可能性がある。

 かと言って第1、第2頸椎では脳にダメージを与える可能性がる。

 脳にダメージを与えるてしまうと傷口から大量の血液が、まるで水道の蛇口をひねったように零れだす。

 だから弾を当てるのは第3、第4、第5頸椎に限られる。

 ここに当てれば、顔から下の筋肉に行く信号を全て遮断できるし、左程血も出ない。


 しばらくするとカールから配置に着いたと連絡があった。

「準備は?」

「それもOKです」

「すまないがタイミングは私に合わせてくれ。いいか?」

「了解!」

 いくらサプレッサーを付けていると言っても、全く音が出ないわけではない。

 断続的に出る音は長く警戒されるが、不意に出た単発の音への警戒は直ぐに解かれる。

 首の左右にある頸動脈を避けて、第3、第4頸椎を撃ち砕き、尚且つ銃は落とさない様に膝に置いた状態。

 距離は955.7。

 L96A1で発射から到達迄に1.2秒掛かる。

「カール準備はいいか?」

「OK」

「5秒後に撃つ!3,2,1」

 バスッ‼

 銃弾ははじかれた。

 狙ったのは奴の第4頸椎。

 ここを砕けば呼吸も出来なくなる。

 あとは奴が1.2秒間おとなしくして、動かない事を祈る事しかない。

 自分が助かるため、人を助けるために祈る事は有っても、人を死に導くために祈るとは何と罰当たりな事だろう。

 だが、そうするしかない。

 どこかに居た鳥が、発射音に驚いて空に舞い上がる。

 銃を膝の上に置いたまま、の目がそれを追う。

 鳥は一旦南に行きかけてから、Uターンして高い空に駆け上がった。

 上がった鳥につられて、ダクトの頂上に座っている狙撃兵が顎を上げる。

 剝き出しになった喉に、斜めから銃弾が突き刺さる。

 ガクンと俯いた顔。

 直前まで鳥を追っていたからだろうか、眠るように項垂れた顔に、上向きの目だけまるで呪いをかけるように私を睨んでいた。

 ほぼ同じ距離から違う敵を撃ったカールから「Hit!」と連絡が入る。

「よくやった。すぐ戻って来い」

 皆に出発の準備をするように伝えるため振り返った時、まるで心臓をえぐる様に強烈な視線を感じて振り返る。

 しかし振り返った先には、いま私が殺した奴以外誰も居ない。

 “怨念……”

 今まで沢山の人を殺してきて、幾つもの戦場を渡り歩いてきた。

 だからどんな死体を見ても、恐れることはなかった。

 なのに何故……。


「ユリアさんから無線!繋ぎます」

<ハロー♬ユリアお姉さんからの定期報告です>

「明るそうだな」

<でも、内容は暗いわよ。もう少し進むとシェルターの手前に青い建物が見えて来るの。その建物はシェルター内部の放射能濃度などを監視している建物なの。その建物の屋上にウクライナ国家親衛隊とは違う戦闘服を着た兵士たちがいるわ>

「了解」

 道路を渡るために、あの2人の狙撃兵を殺してしまった後でこんな報告を受けるなんてタイミングが悪い。

 だが、見晴らしの良いところで見張っているあの2名の狙撃手が居たのでは、ユリアのドローンも自由に飛ぶことが出来なかったから仕方がない。

 狙撃兵2名を殺した後、直ぐにシェルターに取りつこうと思っていたので、少々回り道をしなくてはならなくなったのは問題だ。

 なにしろ狙撃兵だって同じ者が1日中居続けるはずもなく、どこかで交替しなくてはならない。

 交替の時間が来ても、死体だから応じる事はないから、それまでに青い建物の敵を片付けてシェルターに取りつく必要がある。

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