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フルメタル  作者: 湖灯
パリは燃えているか
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パリを守れ‼

「9.11の時は世界貿易センタービルだったわ。ナトちゃん、あなただったら何処を狙う?」

「……凱旋門かエッフェル塔。だけど石で造られた凱旋門や、鋼鉄で造られたエッフェル塔を壊すのは容易じゃない。アメリカのように航空機が市民の足なら可能かもしれないが、ヨーロッパの空港はどこもセキュリティーが厳しいから、そう簡単にはいかないだろう。だから俺がやるとすれば、ノートルダム大聖堂だ。事故で燃えたあの日のパリ市民の悲しみは忘れられない」

「そうかぁ~ノートルダム大聖堂。良い線つくわね」

「エマは?」

「私は、ボルドーで開かれるサミットがターゲットだと思っていたわ」

「「……‼」」

「「サミットの期間中にノートルダム大聖堂襲撃!」」

 俺たちは、お互いの目を見合わせたまま飛び起きるように席を立つとエマが俺の手を取り。駆けだした。

「どこへ連れて行くつもりだ!」

「私のオフィスよ!」

「対テロ対策の提案書だな」

「察しが良いわね」

 振り返ったエマが、子供のように無邪気な笑顔を見せた。

“まったく、思い立ったら即行動。まあ、そこがエマの好い所なのだが……”

 手を引かれたままオフィスに入り、人波を薙ぎ倒すようにドカドカと、その奥にあるエマのデスクに入った。

 先ず広げたファイルは、サミットの警備計画書。

 その中には警察や軍の配置表とタイムスケジュールが地図上に細かく、しかもびっしりと書かれてあり、決して失敗は許されないと言う警備に対する決意が窺えるものだった。

「凄いね」

「そりゃぁまあ各国のトップを招いた行事だもの。警備上の失敗は許されないわ。RAID(フランス国家警察特殊部隊)は、ほぼ総動員よ」

 動員部隊名簿の方には、警察やRAID、DGSEの他にもCOS(フランス軍特殊作戦司令部)に所属する国家憲兵隊、陸軍の第11落下傘旅団、第13竜騎兵落下傘連隊、第54通信連隊、第27山岳歩兵旅団。

 空軍特殊作戦段、第10落下傘コマンドー。

 海軍コマンドーのユベル、ジョーベル、トレペル、ド・モンフォール、ド・ペンフェクトなど錚々たる部隊が名を連ねていたが、その中に自分の所属する傭兵特殊部隊LéMATの名前が無かったのが歯痒かった。


 エマが真っ白な画面に文字をタイピングする。

“Paris is a calm day today”(パリは今日も穏やかな一日です)

「それ、作戦名?」

「うん。チョッと変かなあ」

「ううん。良いと思うよ」

 エマが少しだけ恥ずかしがる少女のようにニッコリと笑い、再び画面に顔を戻し“派遣部隊”とタイピングした後、真っ先にLéMATと打った。

「LéMAT !?」

「嫌なの?」

「嫌じゃなくて、寧ろ嬉しいけれど、いいのか?」

「良い悪いじゃなくて、この作戦はLéMATにしか出来ないと思っているのよ」

「LéMATにしか出来ない?」

「そう……DGSE内で、ザリバンの復讐計画がサミットをターゲットに的を絞るだろうと言う意見が圧倒的なのは話したけれど。だからRAIDとCOSを総動員して封じ込めるのが、あっちの作戦。でも、こっちは街の中。しかも観光地。そしてターゲットがノートルダム大聖堂と一般市民だとしたらどう?封じ込められるかしら?」

 たしかに物々しい警備体制を取れば一旦は封じ込められるだろう。

 しかしサミットは期間が決まっていて、その時間が経てば終わるが、パリの街は終わらない。

 その日に何もなかったとしても、次の日、次の週、次の月にザリバンが潜伏さえし続けていたら、いつでもテロは行える。

「でも、なぜ?」

「そうね。あえて言うならばLéMATのチャランポランさ加減かな――」

 エマが今度は思い出したようにキャッキャッと笑う。

「だってトーニなんて、どう見ても特殊部隊の兵士には見えないし、ターミネーターの真似をしてハーレーを乗り回すフランソワも変だし、あとはモヒカンだったり見た感じ悪党にしか見えなかったり、見るからにフランス人じゃなかったり。一番まともそうなブラームだって兵隊というよりはアスリートだし、彼氏なんかパッと見にイケメンの不良学生そのものでしょ」

「誰が彼氏なんだよ!」

 一応、ここは怒っておいた。

 でも、さすがにエマ。

 いい所をついてくる。

 でも、そんな個性溢れる仲間たちだって軍服を着れば、誰がどう見ても立派な兵隊。

 しかもトーニ以外は、見る者が見れば体格や身のこなしの良さで、特殊な訓練を受けている事なんて直ぐに分かるだろう。

 そう考えていた俺の顔を、いつのまにかエマがジッと覗き込んでいて、こう言った。

「だから、軍服は着ないの」

「軍服を着ない?! じゃあ武器は?」

「拳銃くらいかな? あとはスナイパーライフル」

「それだけ??」

「そう、それだけ。LéMAT総出で“Šahrzād作戦”の続きをしてもらいたいの。今度はボスを捉えるだけじゃなくて、一網打尽だけどね」

「だけど、人数が……」

 LéMATの隊員数は40名。

 それとパリ市警察だけでは、どこから攻撃を仕掛けてくるか分からない敵に対応するには、数が少なすぎる。

「そうね、あとは私が何人かDGSEのメンバーを集めてみるわ。それと――」

「それと……?」

「RAIDきっての名狙撃手も」

「サミットのメンバーから引き抜いて来るのか?」

「ううん。屹度メンバーには選ばれていなくて、今頃は――」

 そう言うなりエマはガバッと席を立ち「行くよ!」と言って俺の手を掴んだ。

「行くって!?」

「彼に会いに」

「彼に?」

「そうRAIDきっての名狙撃手が迷狙撃手になる前にね!」

 入って来たオフィスを来たときとは逆方向に、同じようにエマに手を引かれて駆けだした。

挿絵(By みてみん)

フランス外人部隊 LéMATリマット

トーニ上等兵

陽気なイタリア人

身長170㎝と隊内では一番小柄

体力、射撃、格闘技共に特殊部隊であるLéMATでは落第隊員だが、爆発物のスペシャリスト。

良く喋るおっちょこちょい

ナトーに一途な思いを寄せる。

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