ホテル・クレオサンの戦い②
空挺4に援護してもらい、非常階段を登り厨房へのドアに張り付く。
中の様子を伺っている暇もなく、ドアノブが回る事を確認して一気に部屋の中に飛び込んだ。
ドアの傍に居た敵を、振り向き様にP-320の9mを叩き込み、調理台の向こう側に居た通信兵とハンドマイクを片手に持っていた下士官らしい奴がAKMを構えようとしたので、そいつ等にも銃弾を浴びせて倒した。
体制が悪かったので、一回転して体勢を立て直した私の後ろを、HK-416を構えたブラームたちが追い越して行く。
直ぐに無線に近付き、いま倒した下士官の持っていたハンドマイクを手にすると、敵の声がした。
<どうした!何かあったのか!?応答しろ‼今近くで銃声がしたようだったが大丈夫か?おい、応答しろ!>
「大丈夫だ。あとどのくらい?」
<だから、あと5分は掛かると言っているだろう……お、おまえホルビッツじゃないな。誰だ!>
名乗っても意味がないので、答えないと分かっていながら聞いてみた。
「応援は、どっちから来る?」
<ふざけるな!今直ぐそっちに行くから、覚悟しやがれ!>
ガチャ。
通信は一方的に切られた。
「ハバロフ、ユリアに繋げ!」
「了解」
<こちらユリア、ナトちゃん何?>
「敵の応援部隊がホテルに向かっている。距離は5分以内の場所。見つけ次第、マーベリックに“蹴散らす”様に伝えてくれ」
「了解!」
無線機の電源をOFFにして、中に進もうとすると広い厨房の奥から敵が入って来るのが見えたので倒した。
広く長細い作りになっているこの厨房にドアは3つある。
1つは、今撃った敵が入って来たドア。
あとの2つは通路側に離れている。
1階ロビーに降りる階段に近いドアには、モンタナたちが詰まっていた。
「モンタナ状況は!?」
「もうちょっと先に行ければ、下に降りる事が出来るんですが、敵の抵抗が激しくて出られません!」
「ブラーム、そっちは!?」
ブラームたちは中央のドア。
「長い通路になっていて、激しい抵抗に合っています!」
「長い通路では難しいな」
パンッ。
「隊長、どうしました!?」
「非常口から敵が入って来た。ハバロフ、空挺4に非常階段を敵に使わせないように伝えろ!」
「了解」
「トーニ、私に付いて来い。シモーネは非常口の見張り、他の者は無理をせず現状維持‼」
「了解!」
「ナトー、この奥には何があるんでぃ?」
「厨房の奥には結婚式場などにも使える大ホールがあったはずだ」
「来た事、あんのか!?」
「まさか、図面で見た」
「図面?」
作戦会議の後、戦場となるプリピャチの市街地図を覚えたついでに、敵の拠点になりそうな大きな建物の図面も取り寄せて予め目を通しておいた。
出口のドアに一旦張り付いてから飛び出すと、予備室があり、その向こうが大ホール。
ドアは防音仕様の両開き。
ドアを押そうとした私の手を、トーニが止めた。
「ナトー、今度は俺が死に番だぜ」
「馬鹿、縁起でもない事を言うな!」
「でも、ドアを開けて1番に飛び込むのは昔から“死に番”と決まっていらぁ。生き残ったら皆から1フラン貰えるって寸法」
「!……私は貰ったことは無いぞ」
「ナトーは絶対死なねえからな」
「賭けるか?」
「うんにゃ、そうやって上手いこと言って俺様から“死に番”を取り上げようって魂胆だろう。その手にゃのらねえ」
「じゃあ、一緒に行くか!」
「おっ、おいおい、結婚式場なんだろう!?」
「にも使えるってだけで、ドアを開けたら会議仕様かもよ」
「賭けるか?」
「いいよ。どっちに賭ける?」
「ナトーは?」
「結婚式場」
「いくら賭ける?」
「100フランでどうだ?」
「気前がいいねぇ」
「トーニは?」
「俺も結婚式場。じゃあ行くぜ!」
「ちょっ、ちょっと、まっ」
2人とも結婚式場では、賭けが成立しない。
慌てる私にはお構いなくトーニが勢いよくドアを開けようとしたので、私も負けない様にタイミングを合わせて一緒にドアを開けて中に飛び込むと、2つの影が見えた。




