ホテル・クレオサンの戦い①
主要道以外は車が1台通るのがやっとと言うくらい狭い道しかない。
道は通らない。
見晴らしはいいが、狙撃兵の格好の的になってしまう。
だから我々は、時間は少し掛かるが、道の脇に沿って森の中を進む。
敵の偵察部隊に備え、分隊ごとに、あえて違うルートを通っている。
空挺部隊が先に進み、我々G-LéMAT位置はやや後方。
所々に朽ちた車が転がっている。
なぜこんな森の中に?
慌てていて道から外れて動けなくなったのか、運転手本人が自主的に放棄したのかは分からない。
急に起きた原子力発電所の事故と言う混乱は、実際に経験していない私には計り知れない。
消防署跡の前を通った。
真新しいゴミが散らばっている。
屹度、仲間を助けるために駅に駆け付けた敵部隊のひとつが、ここに居たのだろう。
中を確認すると、予備の銃弾や開封前の戦闘糧食等が、もう戻って来ない主を待っていた。
パンパン。
タタタタタ。
窓の外から、突然銃声が聞こえた。
おそらく先頭がホテル クレオサンに着いたのだろう。
私たちも急ごう。
近付くにつれ、銃声は激しさを増してきた。
「RPG‼」
隊員の叫び声の後、爆発音が聞こえた。
「グレネード弾を使え!」
到着して直ぐに指示を出す。
RPGが着弾した付近には灰色の煙が上がり、1人の空挺隊員が横たわっていた。
「衛生兵!」
大声で衛生兵を呼んだとき、ポーンと言うグレネード弾の発射音が幾つか聞こえ、直ぐに爆発音がした。
衛生兵が走って来て、倒れている隊員の手当てを始めた。
「モンタナ、正面から軽機で威嚇!トーニとジェイソンもサポートしろ。カールとフランソワの2人で敵の狙撃兵を探し、片付けろ。ハバロフは直ぐに司令部へ報告!ブラームはキースとシモーネを連れて突入口を探せ!」
私も後で行く。と言いかけて止めた。
隊員に指示を出している間中、空挺隊員が右往左往して、やけに動きに一貫性がない
スウェン少尉は、どこだ?
「おいお前、少尉はどこだ!?」
傍を走り抜けようとした隊員の肩を捕まえて、スウェン少尉の居場所を聞く。
「少尉は、やられました」
言い終わると隊員は直ぐに駆け出して行った。
あまりの出来事に、隊員を掴んだ手が緩んでしまい、詳しく聞くことが出来なかった。
「ナトー、敵は!?」
直ぐにマーベリック中尉が到着した。
「私も今着いたばかりで、状況は分らん。だがスウェン少尉がやられた」
「スウェンが……」
「戦闘が始まってから、もう3分過ぎている。私は部下と建物内に突入する。悪いが、敵の応援部隊に備えて外側の警戒に当たってくれ」
「OK!」
早くホテルを占拠しなければ、我々は挟み撃ちに合い逃げ場を失う。
数的には圧倒的に有利だが、建物の中と森の外からの攻撃を受ければ、平地で戦わざる負えなくなり地理的に非常に不利な立ち位置になってしまう。
「隊長!2階の厨房に上がる非常階段付近が手薄です。2手に分かれることになりますが、ここからなら進入できるかと」
ブラームが突入口を見つけた。
「分隊長集合!」
号令を掛けると4人の分隊長が集合した。
それぞれに現時点の分隊が居る場所を確認し、配置の移動や対応を指示する。
彼等には損害を抑えることと、銃弾の節約、それに我々の突入を援護するように伝えた。
建物の中に隠れて居る敵に、いくら撃っても当たらない。
こんな所で銃弾を浪費するわけにはいかない。
こちらが激しく撃てば敵は引っ込み、おとなしくなれば顔を出して撃ってくる。
このタイミングを上手く計れば、効率的に敵を倒す事が出来る。
そして、このタイミングをコントロールするにはチームワークが重要となる。
各分隊長に、その事を伝え持ち場に返す。
今度は我々の番。
「G-LéMAT集合‼これからホテル内に突入する!」




