エマとナトー④
2人並んでホテルを出ると、倉庫の方からお肉の焼ける匂いがしてきた。
「いやね、朝の肉が沢山残っていたから、腐る前に食べちまわねえといけえねえだろ。エマも屯所へ行く前に食っていくか?」
トーニの誘いに、勿論エマは二つ返事。
朝に続いてまたもやバーベキューパーティー。
でも、朝のお肉が沢山残ったなんて絶対に嘘。
だって網の上に乗せられているこのお肉、日頃から鶏肉以外のお肉に殆ど手を付けない私にだって直ぐ分かるくらいの極上の牛肉。
「ほらエマ焼けたぜ」
フランソワが長い手で焼けた肉をエマに差し出す。
「赤ワインは、いかがですか?」
ブラームがワインを持って来て、ハバロフがエマにグラスを渡す。
「エマさん、これはどうですか?デカいフランクフルトでしょう」
どこで見つけて来たのか、モンタナが本当に太くて長いフランクフルトを持って来た。
よりによってこんなときに……。
「まあ凄い‼いただいていい?」
エマがワザワザ私に尋ねる。
「いいよ」
素っ気なく返すと、熱い熱いと言って口に含もうとしては戻していた。
「おおーっ」
見ていた男たちが一斉にどよめく。
「やめなさい。皆が勘違いしちゃうでしょ!」
「えっ!何々、何と勘違いするの?」
またエマが私に絡んでくる。
「エマさん勘弁してあげてください。隊長は戦闘中こそ大胆ですが、こういう事には……」
カールが助け舟を入れてくれるが、全然助け船になっていない。
「あら、そうだったの!?ゴメンねナトちゃん」
ほらね。
エマは薄々気が付いている。
一旦火のついた私が、ベッドの上で大胆になる事を。
もっとも、火が着いちゃった私は、どこでも大胆だけど。
外人部隊の基地のグラウンドや倉庫、真夜中の地下道、会議室……etc。
地下道でした後は、そのままホテルで朝までした。
思い出すと顔が急に火照って来た。
「ほらよ」
火照った頬に、冷えたクファスの瓶を当てられた。
持って来たのはトーニ。
私が出撃前日にお酒を飲まないことを知っているからクファスを持って来てくれたのか、それともハンスとの情事を想い出してしまった私の浮ついた気持ちを覚ましに来てくれたのかは定かではない。
けれども、このライ麦パンで作られたコーラを私が好きなことは知っていて持って来てくれたのは確かだ。
それと……
「これ食うか?」
魚の塩焼き。
「どうした?」
「そこで釣れた」
「ありがとう」
バーベキューに鶏肉がなかったので、あまり食べるものがない私の為に、魚を捕って焼いてくれたことも。
バーベキューが終わり、後片付けを済ませてからエマは司令部に戻った。
別れ際を明るくするためか、車の前に整列して見送る私たちにエマはブーケの代わりにポケットから小さな布切れを投げた。
見事にその布切れを手に取ったのはトーニ。
皆が何々と覗き、一斉に歓声を上げる。
私も何かと思って遅れて覗くと、それは女性用のパンティー!
しかも、それはエマの物ではなく私の‼(※使用済みでない)
いつの間に!?
皆が羨ましがって、あまり興味の無さそうなトーニが“売ってもいいぜ”と言ってしまい競りが始まった。
「50!」
「100!」
「200!」
「500!」
「700!」
「750!」
やばい、皆本気だ。
「1000!」
「1200!」
「1300!」
「1500!」
「10000‼」
急に桁を跳ね上げたのは私。
(※1万フランは、日本円に換算すると約20万円)
桁が上がったからか、女の私が競に加わったのに驚いたのか、その後は誰も値を上げなかった。
「他に居ねえか!?じゃあコレはナトーのモノだ」
「金はフランスに戻ってからでいいか?」
小声で聞くと、トーニは耳を貸せと合図して、差し出した私の耳に手を当てて囁く。
「他の者なら金を取るつもりだったが、ナトーが欲しいって言うのなら金を取る気はねえ。大切な親友の物だからお守りにするがいいぜ」
“うわぁ~なんて優しい奴”
超感動してしまうが、超心苦しい。
だって、このパンツが私の物だって知っていたら、トーニは屹度誰にも渡さなかったに違いないのだから。




