エマとナトー①
17時。
トラックがユーリの倉庫に到着した。
たった半日居なかっただけなのに、私が着いたことを大喜びして出迎えてくれる皆。
屯所を出るときにレイラやヤザ、メリッサたちをはじめ多くの人達に青と黄色のハンカチで送り出された光景がリンクしてしまい鼻がツンとする。
もう1周どこかをグルリと回って来てくれればいいのに、無情にもトラックはそのまま倉庫の中に入ってしまう。
嬉しくて涙が出そうになるのを我慢するために、ツンとした鼻を窄め涙腺を押さえつけるために目を細めている私の顔は、感情とは真逆で怒っている表情に見えるはず。
なのに皆は、荷物を運ぶ通り過ぎ際に優しく肩を叩いてくれる。
知っているのだ。
私の気持ちを。
皆の気持ちを知ると、余計鼻がツンとして、我慢できなくなりトイレに駆け込んで思いっきり泣いてしまった。
「どうしたの。感動しちゃった?」
「いや、お腹を壊した」
「あら大変!涙が出る程痛いのね」
エマにいわれて慌てて涙を拭う。
「嘘よ。涙の痕はもうないわよ」
「でも、いいね。こんなに皆に慕われて羨ましいわ」
「エマだって」
「いいえ、私は……キャッ!」
少しだけ意固地になっているエマのお尻をカールが触って行き「プリプリだぜぇ!」と皆に報告するとモンタナたちが歓声を上げた。
「でもまあ、そうね。私まだイケてる?」
「イケてるぅ~!」
また皆が歓声を上げ、エマの機嫌は元通り。
「ところで作戦会議はどうだったの?」
エマに聞かれて直ぐに隊員たちを整列させ、作戦計画を伝え志願を募った。
思っていた通り、全員志願。
最後に時計を見てから伝えた。
「翌朝10時以降の12時間以内に、攻撃命令が発動する。各自それまで待機しろ。それからエマ少佐は各省庁とのやり取りのため、司令部に戻ってくれ」
「嫌よ」
「これは正式な命令だ」
「嫌よ」
命令書を突き付けたが、全然効果がない。
こう返事を返されるのは分っていたのに、車の中でサラの話をしてしまい、対策を考えて来なかったのは私の責任。
本当言うと、私だってエマと離れたくはない。
DMICが発動された話や担当者から聞いたチェルノブイリ原発が未だに危険な状態であること、ハンスが関係省庁などへの連絡や要請にエマの手腕を期待している事などを話しても、頑として聞き入れずに残って一緒に戦うの一点張り。
エマに残ってもらいたい気持ちのある皆も、助けるどころか困っている私を差し置いて、逆にエマを応援し出す始末。
こうなったらもう手に負えない。
私は怒って、皆に命令も伝えずに、勝手にホテルに宿を取ってしまった。
そのままの姿でベッドに体を投げ出す。
考えてみれば昨日から一睡もしていない。
急に疲れが出てきて、眼を閉じると直ぐに眠りについてしまった。
頬を撫でる風に気が着いて風が入って来る方向に目を向けると、大きく開いた窓のカーテンが揺れていた。
そして人の気配。
屹度窓からエマが入って来たのに間違いない。
ナトちゃんは命令を伝えに来てくれただけなのに、私ったら年甲斐もなく意固地になってしまい、とうとう怒らせてしまった。
だって仕方ないでしょう、私だって皆と闘いたい。
それなのにトーニはズット司令部に戻ったナトちゃんの事を心配していたし、他の隊員だって事あるごとにナトーナトーナトー。
そりゃあ私だって意固地にもなる!
でもやっぱり悪いのは私。
だって部隊はナトちゃんの家と一緒。
その時々で場所は違うけれど、寝食を共にし、時間を替えてお風呂だって一緒に使う。
彼等にしてみれば私なんか……。
止めよう。
こんな風に考えるから、意固地になっちゃうんだ。
エマ、アンタは一体幾つになるの?
大きなお姉さんでしょ!しっかりしなさい!
自分自身に言い聞かせて、ホテルに隠れてしまったナトーを追った。
フロントでナトちゃんの部屋を聞き、会いに来たから連絡して欲しいと頼むと“ナトー様はお具合が宜しくないようで、誰か尋ねて来ても今日は面会できないと仰られておられましたので……”と、まさかの面会拒否!
折角来たのに私にだって意地がある。
このままでは引き下がれない!




