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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影
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出発の時②

 15時。

 出発の時が来た。

 トラックの荷台に荷物と突入部隊に選抜された4人を乗せ、私はサオリと一緒に助手席に乗った。

 駐車場を出てゲートに向かう道には、ヤザやメリッサたちをはじめ大勢の隊員たちが黄色や青のハンカチを振って私たちを送り出してくれた。

 黄色と青はウクライナのシンボルカラー。

 国旗の色だ。

 ウクライナの国旗は上半分が空を表す青で、下半分が麦畑(あるいはヒマワリ畑)を表す黄色で、国旗としても状的な色の表現としてもとても美しい。

 みんなの気持ちが嬉しくて、鼻がツンとする。

 “いけない、いけない。これからマダ沢山頑張らないといけないのに”

 ボートなら1時間で行けるのに、陸路では湿地帯に阻まれているため2時間かかる。

「良かったわ」

 急に3人掛けの中央座席に座っているサオリから、そう声を掛けられた。

 何が良かったのか分からなくて、ただ「何が?」と聞いた。

「友達がたくさん増えて、本当に良かった」

「そんなこと、心配してくれていたの?」

「だって、初めて会っときなんて“俺は男だ!”なんて言い出すし、違うと指摘しても……」

 運転手が居るので、その後の事を言われるのはマズいから、咳ばらいをして話を止める。

「あの頃のナトちゃんは、私とミランにベッタリで、他のスタッフとは殆ど話さないし、同年代の子も居たのに友達になろうともしなかったのに、今では部隊の皆に慕われるだけでなく学校で友達もできて……本当に良かったわ。正直言うと、初めての学校だったでしょ。だから他の生徒に虐められるんじゃないかとか、他の子と仲良くやっていけるのかしらとか、色々心配していたのよ」

「いい人たちに囲まれ過ぎて、怖いくらい幸せだと思う」

「怖い?」

「過去の自分の所業を想い出すたびに、そう思う。沢山の人の幸せを、この指で摘み取ってしまった……」

「駄目よ、そんなことを考えては。全ては戦争のせい。ナトちゃんは元々良い人たちに囲まれる、真面目で素直な女の子よ。しかもスタイルも良いし、女優さんの顔負けの美貌」

「止めてくれ、そんなこと」

 容姿の事を言われるのは正直好きじゃない。

 だいいち美しい金髪でもないし、エマみたいにミステリックな茶髪でもサオリの様な艶やかな黒髪でもない、まるで狼みたいな銀髪。

 しかも左右の眼の色も違う。

 言ってみれば奇形。

 そこを指摘されるのも嫌だけど、そこを避けられるのも嫌。

 美貌で、ふと頭に浮かんだのは私の姉と名乗るサラと言う女。

 眩しいくらいの綺麗な金髪の髪に、夏の空の様に青く輝く瞳、教養を身に着けたものだけが持つ姿勢の良さ。

 しかし、それらを台無しにする何物も寄せ付けない、あの冷たさ。

「ねえ、もし私にお姉さんが居たとしたら、どんな人だと思う?」

「あー私のアルバムを見ていた時に、記憶にあるという金髪の子ね」

 13歳くらいの時、サオリのアルバムを見ていて思い出した遊園地での情景。

「屹度ナトちゃんのお姉さんだったら、明るくて社交的で賢くて慈悲深く、思いやりがあってリーダーシップのとれる理想の女性だと思うわ。しかも妹に負けないくらい美人!」

「そうか……」

「ひょっとして、会ったの!?」

「偽物にな」

「……」

 ついサオリの興味を跳ね除けるように言ってしまい、それからしばらくサオリも私も気まずくなったのか黙っていたが、次にサオリが呟いた言葉に驚いた。

「とうとう会ったのね、サラに……」

「知っているのか‼」

「……知っているし、会った事もある」

「会った事もある!?」

 驚いた。

 まさかサオリがサラと出合っていたとは、思っても居なかった。

「最初に会ったのは、ナトちゃんと出会う少し前。サラはイラクの修道院施設に入っていた。とても美人だけど、その魅力を帳消しにするほど人を刺す様な冷たい目を持っていた」

 サラに間違いない。

「どうして黙っていた」

「ごめんなさい。気が付いた時には既にサラは修道院から脱走した後だったから。それに……」

「それに?」

「あんなに過酷な子供時代を過ごしたにもかかわらず、私たちと触れ合う中で明るくて素直な少女に成長して行くナトちゃんとサラが姉妹だなんて思えなかったし、いま2人を会わせる訳にはいかないと思ったから」

「どうして」

「サラの目は、復讐に燃えていた」

「それは、サオリと出会う前の私と同じってこと?」

「違うよ。ナトちゃんは完全に自己防衛やヤザを守るためだったでしょう。だからそのために敵を容赦なく……でも、サラの目は社会や民衆に向けられていた。だから」

「だからPOCに入った」

「屹度、そうね」

「でもサラは、私に色々とヒントをくれた」

「ヒント!?」

「そう。セルゲイのミサイル攻撃や、森で迷子になったトーニを助けてくれたし、セルゲイの罠も間接的に教えてくれた。それにピリアフカからストラホリッサ行きのボートが敵の倉庫の直ぐ傍のホテルの桟橋に付いたのも偶然では無かったと思う」

 私の言葉にサオリが驚いたのも無理はない。

 これは後で知った事なのだけど、私が外人部隊に入ったきっかけになったサオリの暗殺は、サラが仕組んだものだったのだから。

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