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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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出発の時①

 装備品の準備が整うまで、地下に新しく作られた偵察監視室に立ち寄った。

 仕事の邪魔をしない様に、開いていた扉の陰からそっと覗く。

 部屋にはモニターが沢山あり、そのモニターの前にはレイラ、ユリア、メリッサ、カーラ、ステラと5人のオペレータがニルスとガモーの指示に従い明日の為に忙しく仕事をしていた。

 まだ学生とは言え、さすがにサン・シールで学んでいるだけあって、直ぐに実戦に投入しても遜色ないくらいテキパキと指示に従ってオペレーティングするメリッサたち。

 ユリアとレイラは更にその上をいく。

 さすが。

 降りてきた階段を静かに上り外へ出た。

 夏の太陽が眩しい。

 丁度トラックが入って来て、乗っていた2人の男が降りて私に向かって手を振って走って来る。

 若い男。

 あれはサン・シールに入ったばかりの頃、生意気な私を懲らしめようと待ち伏せしていた4人グループの2人。

「やあナトー!元気?」

 陽気なシモンが気さくに挨拶するのを、リーダー格のヴィクトルが慌てて止める。

「馬鹿!ナトーさんは、中尉だぞ!」

「いいよヴィクトル。君たちは未だ正式な軍人ではない。それに私は軍の、階級に拘るやり方は正直あまり好きじゃない」

「それは知っています。中尉は軍曹時代にコンゴで多数の敵に取り囲まれる危険があった時、決断力のない普通科の少尉を顎でこき使って部隊を窮地から救った」

「アフガニスタンでもアメリカ軍将校の無謀な進軍指示に従わず、逆に敵に追い立てられ逃げ帰って来たアメリカ軍部隊を救い、その上戦場に置き去りにされた兵2名を救出した」

「良く知っているな」

 いつの間に調べたのだろう。

 2人とも、私に褒められたと勘違いして、照れて頭を掻いていた。

 男性の、こういうところが好き。

 でもサン・シールに行くきっかけとなったハンスに言われた言葉を、そのまま使って褒められた行為では無い事を説明してあげた。

 なぜなら、彼等は将校も一歩引く鬼軍曹になるためにサン・シールに通っているのではないから。

 私の説明に納得した2人だったが、シモンの目が急に輝いたの気付く。

 “マズい!”

「さすがにナトー!と言いたいところだけど、噂によると諜報任務中に一緒に活動していたエマ少佐とトーニ上等兵を騙して基地に送り返した後、敵中に1人で飛び込んで行った。と言うのは本当ですか?」

 “やはり、そう来たか……”

 癖は治らない。

「作戦行動中の詳細な内容は、民間人である君たちには話せない」

 我ながら上手い切り返し。

「DMICの中、どこへ行っていた?」

「環境・天然資源省に放射能防護服を取りに行ってきました」

「守秘義務はチャンと伝えただろうな」

「もちろん規約書にサインをもらいましたし、ヴィクトルが“誰かに話したら、うちに来ている、おたくの担当官の保証は出来かねる”って脅していましたから大丈夫です」

 相変わらずヴィクトルは頭がいいくせに、チョッと不良への憧れが強い様だ。

「ところでロランとヴァンサンは?」

 4人組の2人が居ないのが気になって聞くと、補習でここへ来る許可が下りなかったとシモンが教えてくれた。

「なにせ、ここへ来るには学年で5番以内の成績を出さないと、ジョルジェ総長(校長)が許可を出さないからね」

 そう言ってシモンが胸を張る。

「全体の5番以内って凄いな」

「へへん」と威張ってみせるシモンにヴェクトルが「もしナトーが未だ学校に居たら、シモンはここに来れなかった」と付け加えた。

「だから、居ないから会いに来たんだろ!」

「それはそうだが、居たらお前は相変わらず勉強もしないで補習組だっただろうが!」

 仲の好い2人が言い合いを始めたので止めに入る。

「じゃあ、シモンは私に合うために勉強を頑張ってくれたのか?」

「ああ。猛勉強した」

「ヴェクトルも?」

「ああ。でも得点は上がったが順位は落ちた」

「落ちた?」

「そう。それまで俺は学年1番を守り通してきたのに……」

「メリッサに抜かれた?」

「その通り。頑張ったのにメリッサとカーラとステラに抜かれた。補足しておくけれどロランとヴァンサンだって成績が悪かったから補習させられているんじゃないんだ。2人は次の機会に必ず5番以内に入るために自ら進んで補習を受けている。だから俺達だって仕事が終わったら我武者羅に勉強している」

「あの頃のナトーに負けない様になっ」

 シモンが補足して、私にウィンクしてみせた。

 急に胸が熱くなり2人を、いや皆を抱きしめたくなる。

 だって、私に合うためにみんな頑張ってくれたのだから。

 もう私たちは大人だから、軽々しく異性を抱くわけにはいかない。

 だけど。

 だけど……。

 我慢していると目から涙が溢れてきた。

 それを見られまいと、手で顔を覆う。

「ど、どうしたナトー」

「だ、大丈夫か」

 サオリの足音が近づいて来る。

「あーあ、アンタたちナトちゃんに何言ったの!?」

 泣いている私に、サオリの少し乱暴な声に2人がビビッて、ナトーに合うために頑張った話をしただけだと答える。

「駄目よそんな話をしちゃ。ナトちゃんがいつも強いなんて思ったら大間違いよ。なにせ彼女は、無類の“感動屋さん”なんですからね!」

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