AFは水不足②
エマが言った通り、敵の隠密部隊が補給を要請しているのが確かなら、今夜中に敵の補給部隊が動く確率は高い。
これを補足するには、予想される河川敷周辺と森の北側の陸上ルートに部隊を配置しておけば良いだろう。
「キースが戻って来ました!」
森側の偵察をしていたキースが更に朗報を持って来た。
森の北側に位置するルビニフカの村に近い川で、台車を持って隠れている敵らしき人物を見つけたと言う情報。
しかもその位置は、私とエマが見つけた敵の地下壕の扉から直線で僅か500m。
「敵の補給ルートはそこからね」
エマの目が獲物を捕らえた鷹の様に、鋭く輝く。
「ハバロフが戻って来ました!」
更に朗報は続き、ドニエプル川沿いを偵察していたハバロフがトロンの近くで、真夜中に荷物を積んだ怪しいボートを何度か見かけたと言う住民からの目撃情報を入手して来た。
「なるほど、敵の補給ルートは、そこからね」
私が広げていた地図を見ながら、メントスが不思議がって口を開く。
「キースの情報と、ハバロフが情報を得た場所は直線で10km以上も離れていますが」
「でも川は繋がっているわ。あの辺りはドニエプル川沿いに家や商店はあるけれど、支流沿いにはルビニフカの村まで家はないから、隠密輸送には持って来いよ」
「……」
エマの意見に納得のいかない様子のメントス。
無理もない、蛇行して流れる支流沿いにキースの言った地点まで輸送するとなれば、30km近く支流を上る事になる。
しかも支流は広い場所でも川幅は5m程度で、狭い場所では2m程しかないからスピードは出せない。
しかしエマの言う通り、その支流はルビニフカの村の手前までは深い森の中を通っているから人に見つかる確率は極めて低い。
常識的に考えられないルートを選択するのは紀元前218年の第二次ポエニ戦争で、共和制ローマと打ち破ったカルタゴ軍のハンニバルのアルプス越えが有名だが、これは奇襲作戦ではなく補給作戦だ。
ただし補給ルートだからこそ、隠密性を重要視する事も分からないわけではない。
「ナトちゃん、早く配置に付かないと、手遅れになるわ」
敵の補給要請が16時20分。
そして現在時刻は17時。
既に、補給要請から40分過ぎている。
慌てて車通りの多い夕方のまだ明るい時間帯に輸送を始めることは無いとは思うが、最初に有力になる時間帯は、夕方の暗さに目の慣れない薄暮の時間帯までは約1時間前後。
準備をするには今直ぐにしなくては手遅れになってしまうが、何かが引っ掛かる。
「どうしたの?いつもは決断の早いナトちゃんが、おかしいわ。何か気になる事でもあるの?」
「すまない。今回は良い条件が揃い過ぎていて、気が進まない」
敵の補給要請の通信傍受。
川沿いの茂みに隠れる見張り員の発見。
真夜中に荷物を積んだボートの発見情報。
「トーニの帰りを待つ!」
「せっかくのチャンスが、手遅れになるかもよ」
「情報が正しければ、チャンスはまた訪れるはず。そかしもし敵の罠だとしたら、私たちには2度とチャンスは訪れることは無い」
「敵の罠!?」
「うん。もし敵が今夜輸送をすると見込んで、河にボートを浮かべ岸に見張りを置き陸に部隊を並べて、それが敵の仕掛けた罠だったとしたらどうなる?」
「逆に取り囲まれて、一網打尽ね。でも罠であると言う根拠はあるの?」
「……ない」
「だったら」
「トーニを待とう。我々はチームだ。チームである以上、情報の有る無しにかかわらず、全員揃うまでは動けない」
「それはそうね。でもタイムリミットは必要よ」
「わかった。ではあと20分。エマ、悪いが皆にキャンピングカーの中で、装備を整えておくように言っておいてもらえないか。20分経ってもトーニが戻って来なければ作戦を開始する」
「OK!」
本当は30分、いや1時間でも2時間でもトーニの帰りを待ちたい。
叶うなら、私自ら探しに行きたい。
しかし今の私に最も必要な事は、決断を下すこと。
だから、ここから離れるわけにはいかない。
万が一にも決断を待たずして誰かが動いたとすれば、それはチームの崩壊へと繋がる。
リーダーである以上、チームに不安を与えず、どっしりと構えている必要があるのだ。




