突然の嵐②
「モンタナ、ハンドアロー(91式携帯地対空誘導弾)を用意して指示を待て!フランソワとカールは私に付いて来い!」
「ナトちゃん!この空爆の最中に何所に行くの!?」
「武器庫に行ってハンドアローを取って来る!」
「各防空壕には1基ずつ用意してあるし、無線で防空警戒は指示出来るよ」
「なら各防空壕から5名ずつ出して、武器庫にハンドアローを取りに行くように伝えてくれ!」
「了解!」
ロシア政府が正式な後ろ盾ではないにしろ、何らかのロシア企業が関与していることは確かだろう。
そうなると、人工知能型自爆ドローンkub-blaの投入も考えられる。
クブラはレーダーで捕えにくく、しかも動力になるレシプロエンジンは熱を外部に出しにくい構造になっているため、従来の赤外線感知型やレーダー誘導型の地対空ミサイル(SAM)では撃墜しにくい。
これを確実に撃墜出来る35mm2連装高射機関砲 L-90などの目視照準型の高射機関砲は、ジェット時代に入り、各国で既に退役している。
唯一この日本製のハンドアローのみが画像認識誘導機能を備えているため、クブラを撃墜できる可能性がある。
「機関銃では無理なんですか?」
「いくらレシプロ機とは言え上空を高速で飛ぶ標的に、近接信管のない小銃弾で撃墜するのは難しい。しかも目標物を見つけたクブラは、ほぼ垂直に落ちて来る」
「つまり防空壕に隠れていても無駄って言うことですね」
「その通り」
ミサイルは発射装置が大掛かりになるので最初の攻撃以降は間が開いている。
ハンドアローを取り出すのは今しかない。
武器庫に到着すると、他の班からも次々に隊員がやって来た。
各班に本体2基と、ミサイルケース3箱~5箱を渡し、私たちも本体2基とケースを3箱持ち出した。
「ナトー!!」
最後尾のフランソワが何かを見つけて叫ぶ。
振り向くと、土砂降りの空に微かに航空機らしき影が見える。
「やりますか!」
フランソワの目が輝いて、ヤル気満々。
だが、こんな所で店を広げていたら爆風に巻き込まれて、簡単に吹っ飛ばされてしまう。
「防空壕に戻る方が先だ」
「でも……」
「仲間を信じろ!私たちがここで店を広げなくても、チャンとモンタナや他の班の射手たちが狙っているはずだ」
「了解♪モンタナ、頼むぜ!」
フランソワの言葉の直後に、幾つもの流星群の筋が地上から空に伸びてゆく。
「ひゃっほーいっ!花火大会だぜ」
上空でドンドンと爆発音が響く。
おそらく各地上の施設はクブラに搭載されているAIにインプットしてあるはず。
だから初弾は必ず施設にを狙ってくるはず。
各防空壕は、その施設から位置をずらしているから、被害は出ないだろう。
問題は第2波。
AIである以上、高度な情報処理システムを共有しているに違いない。
そうなると、次に狙われるのは、対空防御陣地。
防空壕に戻って空を仰ぎ見ると、幾つものクブラが撃墜され、幾つかのミサイルが標的を逸れて自爆して消えていき、幾つかの施設が炎を上げていた。
無線機のレシーバーを取り各班の射手に伝える。
「よくやった!第1波は向こうもこっちも練習だ。今回外したメンバーは、次を外さないように何故外したかをよく考えて狙え。今度は、失敗は許されない!」
各班から威勢のいい了解の言葉が帰ってくる。
「来た!」
いつの間にか上空警戒任務に徹していたカールが目標を補足した。
さすがに元プロのアサシンだけあって、目がいい。
カールの情報を各班に伝えると同時に、即座に各班への割当を決める。
数が多くて指示を出すのに忙しくて、自分で撃つ暇などない。
「ブラーム!ミサイルの装填を手伝えるか!?」
「了解!」
3基ある発射機に射手はモンタナとフランソワの2人。
使われていない1基にミサイルを装填して置いて、順に回しながら使い効率を上げた。
ドーン!
守衛室付近の防空壕の付近に爆発音がした。
「大丈夫か!?応答しろ!!」
「――」
「守衛室、返事を返せ!大丈夫か!?」
「――」
無線の反応はない。
“ヤラれたのか……”
「隊長、双眼鏡!」
気の利くブラームが双眼鏡を渡してくれた。
見ると、防空壕から煙は出ているものの隊員はまだハンドアローを構えていて、負傷した隊員を塹壕越しに搬送している様子が見えた。
「また来ます!今度は多い!!」
「敵兵多数接近中!」
カールに続いてトーニの叫び声も聞こえた。
「ハンドアローの射手、装填手見張員以外の者は地上戦に備えろ!」




