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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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教会に居た女①

 内務省を出て昨日事件のあった教会に行くため、途中DIYのお店に寄ったのは、大勢の心無い者たちによって踏み荒らされた花壇や壊された物などを直すため。

 駐車場で制服から私服に着替え、目にはカラーコンタクトを入れてその上に眼鏡を掛けた。

 チョットした変装。

 だっていくらお見舞いに行くのが、いくら荒くれもの達を相手にしていたとはいえ派手な大立ち回りを演じた外国人部隊の隊長では相手も恐縮するだろう。

 それに万が一にも、奴等の仲間に見られたりしたら、我々の部隊が彼らの敵に通じていると疑われてしまうかも分からない。

 もしそうなれば教会にも今日会って事情を話してくれたあの内務省の次官にも申し訳ない事になってしまうばかりか、他の部隊にも迷惑が掛かってしまう。

 なにしろ今回私が相手にしたのは口の達者な政治家なのだから、自分たちの有利になる情報は見逃さない。


 お店から10分ほど車を走らせると昨日の教会に着き、インターフォンのボタンを押す。

「こんにちはー。昨夜電話でお伝えした、ボランティアの者ですけれど」

「まあまあ、本当にいいのかしら?」

「大したことはできませんが、宜しいでしょうか?」

「いいですとも、私共はそのお気持ちだけで充分ですわ。お茶になさいます?それともお珈琲?」

「いえ、お構いなく。先ず花壇からさせてもらっていいですか」

「はい、恐れ入ります」

 壊された柵を直し、踏み荒らされた花壇にお店で買ってきたヒナゲシを植え替え、足の折れた椅子やテーブルを直しながらもう一つの目的を確認していた。

 被害に遭われたのに申し訳ないとは思うが、あの時ネオナチのリーダーが“ここはスパイの館だ”と言ったことも無視するわけにはいかない。

 だから作業をしながら時々携帯用の電波探知機で確認をしていた。

 もし、この教会の人が何らかのスパイ活動をしているのであれば、急に現れた見ず知らずの人間に対して警戒して本部などに調査を依頼するはず。

 その絶好のタイミングは、私が作業をしている間。

 さいわいな事に教会やその周辺から怪しい電波は一切発信されることはなく、その代りに美味しそうなピロシキの焼ける匂いがしてきた。

 アプリコットジャムの詰めてあるもの。

 匂いだけでも食欲を刺激する。

 これがタマに耳にする”飯テロ”と言うヤツなのだろうか?

 暫くすると、神父の奥さんが出てきて「お茶にして下さい」と私を教会に導いてくれた。

 紅茶と一緒に出されたのは、やはりアプリコットジャムの入ったピロシキ。

 焼きたてだから、香ばしくてとても美味い。

 中に入っているアプリコットジャムも、自家製で余計な調味料を一切使わずジックリ煮込んで素材の甘さを煮詰めたもの。

 こんな素朴ながら、味わい深く素敵な料理を作る人が隠れて後ろめたい事をするはずがない。

 美味しいピロシキを食べながらボランティアを装って電波探知機を持ってくるなどと、小賢しいマネをしていた自分自身が忌まわしく思えてしまう。

 神父の奥さんはお茶を出したタイミングで、病院に神父神父を迎えに行くと言って出て行った。

 神父は昨日倒れていたので、どこか怪我でもしたのだろう。

 丁度おやつを食べ終わり、昨日光を反射していた物の所に、誘われるように行った。

 それは祭壇の横のガラスケースに入った聖母マリア像。

 昨日見たときは、ハイファ義母かあさんに似ていると思ったが、今は少し違う顔に見える。

 誰だろう……?

 とても暖かく優しい心で、どんな時も私を見守ってくれるその表情。

 もしかしたら……。

 この聖母マリアは屹度。

 聖母マリア像を見つめているとき、教会の近くで車の止まる音がした。

 ボランティア?

 いやエンジン音とドアの閉まる音からして、この車はかなりの高級車だ。

 そんな高級車に乗って、ワザワザ服が汚れるような仕事に来るような奴はいない。

 ”昨日の政治団体の親玉か!?”

 まさかな、私に謝罪を要求して来た奴が、教会に謝りに来るはずはない。

 ギィ~ッ。

 扉が開く音がした。

 誰だろうと思って振り向くと、そこには黒いワンピースを着た美しい若い女性が居た。


 誰!?


 白いハイヒールは靴底が赤いのクリスチャン・ルブダン。

 エマのお気に入りのブランドと一緒。

 そこから白いストッキングに包まれた細く美しい脚が、フワッと広がった黒色の膝丈のスカートの中に吸い込まれて行く。

 広がったスカートの裾は、くびれを強調するためだったように腰のところで急に細くなる。

 胸のラインは左程目立たないが、フロントラインを強調するように大きめの銀ボタンが4つ。

 このボタンはスカートのポケットにも左右2つずつと、袖には少し小さいものが4つずつ付いて黒一辺倒の地味な喪服に洒落たアクセントを付けている。

 肩のラインはキリッとしていて、喪服には珍しく襟が立っている。

 顔は女優さん。

 スタイルは、まるでファッションショーで活躍するモデルさんの様。

 マオカラースーツに似ているが襟の立ち方はもっと鋭敏で、まるでナチスの親衛隊上級将校の様な印象を与えるのは、この女性の本性が攻撃的な一面を隠し持っているからなのではないだろうか。

 頭の後ろで一旦まとめられた純金の長い髪が、黒い喪服の襟飾りの様に綺麗な模様を描く。

 色の白い顔に赤い口紅が映え、ツンと高く尖った鼻先が人を寄せ付けないような高慢な印象を与える。

 大きな2つの目は、両方ともアクアマリンのようなブルー。

 身長は170㎝弱といったところで、年の頃は20代半ば。

 人を寄せ付けない印象以外は、どことなくユリアに似ている気がする。

 喪服の女はドアを開けると一旦立ち止まっていたものの直ぐにカツカツと、まるで軍靴のような足音をさせて近付いて来て一瞬敵なのかと思ったが、イエス様の前の席に座りお祈りを始めた。

 この人と一緒に居たいと、ふと思ったが、作業の為に汚れた服を着た私とでは合わないと思い、外で作業の続きをするために女の横を通りドアに向かった。

「待って!」

 通り過ぎた時にリラ(ライラック)の香りと共に、声を掛けられた気がして立ち止まり女を見た。

 どこかで見た様な後ろ姿は、振り向かず、お祈りを続けている。

 “気のせいか……”

 初対面の女性に声を掛けられる理由もない。

 何故か後ろ髪を引かれる様な思いを感じながら、外に出てしまった。

 教会の外に出た途端、太陽の光が眩しくて押し戻されそうになる。

 あまりの眩しさに、教会の中を振り返ると、あのマリア像が「行け」と言う様に暗い中でクッキリと浮かび上がっていた。

 その傍らで喪服の女はまだお祈りを続けていて、私はマリア様に促されるように外に出て作業に戻った。

 作業に戻って暫く経った頃、あの喪服の女性が教会から出てくるのが見えた。

 気になって盗み見る私とは違い、相手は私などまるで居ないかのように脇目もふらず車に向かってゆく。

 車は黒のマイバッハ。

 若いのに、凄い金持ちだ。

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